第39話 今はただ前へと…
カナ達に相談してから何かが吹っ切れた奏はその後、ビースカッシュと共に曲を作り上げていった。
今まで中々進んでいなかったのが嘘のように順調に仕上げられていった曲はとうとう完成を迎える。
「本当にありがとうございました!!相談に乗ってもらっただけじゃなくて曲作りの手伝いまでしてもらって…。自分だけじゃこんなにパワーのある曲は作れませんでした…。」
奏はビースカッシュのメンバーに深々と頭を下げる。
それに対して作曲に熱が入りすぎて汗だくになったカナが答える。
「ええよええよ!うちらもほんまに刺激になったし楽しかったから!どう?悩みは消し飛んだ?」
「はい!自分のやらなければいけない事がはっきりしましたし、あとは仲間を信じて託します。あたしはその間にあの子の背中を押して…勇気を与えられるようなLIVEをするだけです!」
「そっか!じゃあ次はFINALオーディションの本番で会おうね!うちらも奏っちの度肝を抜くような曲作ってるから!」
「楽しみにしてます!じゃああたしは連絡をしないといけない人がいるのを思い出したんでこの辺で失礼します!本当にありがとうございました!」
奏はもう一度最後にお辞儀をしてからスタジオを飛び出していった。それは先程までの落ち込んだ姿ではなく、輝く未来へと走り出したような後ろ姿だった。
そんな奏の背中を見送ったカナは、がむしゃらに音楽の道を突っ走っていた頃を思い出し笑顔がこぼれる。そしてカナがケンジにポツリと呟く。
「いやぁ、奏っちは最大のライバルかも知らんなぁ。うちらから自分に無かったものを全部吸収していったで。」
「そうやな。でもな、ライバルはライバルやねんけど一緒に音楽やってるとビースカッシュに足りへんかった最後のピースがカチッとハマった感じで最高なんよな。」
「それあたしも思った!ほんならさ!オーディション終わったら…」
そこでゴンが2人の会話に割って入る。
「さて!練習するで!色んな話があるみたいやけどまずはヴァルキリアフェスや!」
パンパン!と手を鳴らしながら2人を練習へと促し、またビースカッシュはオーディションに向けて奏からもらった新しい刺激を元に万全の体制を整えていくのであった。
その頃、スタジオを出た奏は近くの公園のベンチに座り、ある人物に電話を掛けていた。
少し強張り緊張した面持ちで携帯から聞こえる呼び出し音を聞く。自分から電話を掛けているものの、どこかでプルルル…と続く呼び出し音が止まらないことを願っている自分がいた。
そして幾回目の呼び出しの後に音は切れ、『もしもし…』と低い男性の声が聞こえる。
「あ…お父さん…?今電話大丈夫?」
「大丈夫だ。どうした?」
奏はあまり見ないようにしてきた問題を解決するために父親の『道引 武雄』に連絡を取ったのだ。
これから奏が歩む道において放っておけず、なにより一緒に歩んでもらわないといけない気がしたからだった。
苦手だった父親に怯んでしまいそうになる自分を押し殺し、凛桜達に教えてもらった立ち向かう勇気を胸に武雄へある事を伝える。
「お父さん…。あのね、ヴァルキリアフェスって大きな野外フェスのオーディションの最終審査まで進んだんだ。そのオーディションのLIVEが今週末の土曜日にテレビで生放送されるから見てほしい…。」
「そうか。気が向いたら見る。それだけか?」
電話越しでも分かるくらいに冷たい顔で返事をする武雄の姿が目に浮かぶ。
今までの奏ならここでその態度に怒りを覚えて電話を切っていたところだが今は違う。
たくさんの人達からたくさんの事を学んだ。そして自分のため、死んだ母親の優子のため、何より武雄に認めてもらわなければ先に進めないのだ。
「それだけ…。でもね、本当にお父さんに今のあたしを見てほしいんだ…。絶対に後悔はさせない。自慢の娘だと思わせてみせるから!」
奏は今の自分の気持ちをぶつけたが、武雄からすぐに返答はなく、少し沈黙が流れる。
やはりこの父親にだけは何を言っても、何をやっても無駄なのか。
そう奏が思い出した頃、武雄がほんの少し優しさを感じられるようなゆっくりとした口調で答えた。
「分かった。その日の夜は会食の用事が入っているが早く終われば見てみよう。」
「うん…。あたし…頑張るから…。」
そう言って奏は電話を切った。
これで武雄に堂々と今の自分を見せるチャンスが生まれた。この試練のような状況がより一層奏の心を奮い立たせる。
そしてビースカッシュと完成させた曲をパソコンに打ち込むためにいつも使っているスタジオへと奏は向かおうとする。
自然と拳にギュッと力を込め、目は明るい未来を見据えるように力強く輝かせて奏は歩き出した。
一方電話を切った後の武雄は、ソファーに座ってウィスキーを飲んでいる。
テーブルの上には家族3人で写っている写真が飾られていて、それを優しい目つきで眺める。
「優子…。私はダメな父親だ。奏が家を飛び出した後、色々考えて応援してやろうと思っていたのにいざあいつから電話が掛かってきたらあの態度だ…。情けない…。
どうか奏が夢に近づけるように見守ってやっていてくれ。」
そう独り言を呟いた後、おもむろに武雄は立ち上がり、自分の書斎へと向かった。そして事務机の引き出しを開けて何か取り出してまたさっきまで座っていたリビングのソファーへと戻った。
そしてある物を愛おしそうに撫でる。
それは奏と確執が生まれたあの日、武雄が割ったアヴリルのCDだった。
バラバラになった後、奏が無意識の内にゴミ箱に捨てたはずのそれは、武雄により不器用なりにテープで補修されて直されていた。
「あいつには本当に酷いことをしてしまったな…。いつか奏に謝れるだろうか?そういう日が来た時、これをあいつに返そうと思ってこれを直したんだが…。」
武雄はそうやってまた写真の優子に語りかけ、飲みかけのウィスキーを一気に飲み干した。
そしてベランダから見える夜空を遠い目で見つめてボソリと呟く。
「頑張れよ。奏。」
父親の真意を知らない奏はただがむしゃらに大きな試練へと立ち向かっていくのであった。
凛桜達の計画、ヴァルキリアフェスFINALオーディションまであと5日…。




