第36話 全てを終わらせるために
三嶋は挨拶を済ませると腰を低くしながら四宮の横に座った。
凛桜は羽山のことがあってか三嶋に強い警戒心を表しながら質問をする。
「三嶋さん…一体何故ここに?いえ、神代になんの用があって訪れたのでしょうか?まさか…。」
「あっ!違います違います!羽山の差し金で何か企んでいるとかではありませんから!むしろその逆です!一緒に羽山さんを止める事ができないかと神代村へ記憶を頼りに行ったんです!そしたら…あんな事に…。」
三嶋は一度落ち着くために出された熱いお茶を一口飲んでから本題に入る。
「初めは神代の願いを叶える力なんてこれっぽっちも信じていませんでした。しかし、羽山さんに起こった出来事を見ていると段々信憑性が自分の中で出てきまして…。
羽山さんは自分に降りかかった火の粉から逃げるように関西に行き、国会や政党の仕事も体調不良を言い訳にずっと休んでいます。その辺はニュースでもやっていたのでご存知かと思いますが。
そこで私も羽山さんを追い掛けて関西に来てからあの人の足跡を辿り、色々と調べていたら羽山さんの秘書の石田に辿り着きました。
石田を問い詰めると半グレ集団に力を借りて凛桜さんを探していると聞き、このままではとんでもない事になってしまうと感じて急いで神代村へと向かったんです。」
「ちょっと来るのが遅かったみたいやけどね!」
長々説明した三嶋にマリアは嫌味を言う。
マリアが言った嫌味と同じ気持ちの凛桜だったが、怒りを抑えて落ち着いて話を進める。
「それで…一緒に止めたいと言うのには何か良い方法があるのでしょうか?」
「あります!6月の最終の土曜日に僕は羽山さんとこれからの事について話し合う予定を組んでいます。その日に羽山さんも鬼山も一網打尽にするある計画を実行したいと思っていまして…。」
「その計画とは?」
そして三嶋は必死で考えてきたであろう計画をみんなに説明する。
それを聞き終わった後、全員が凛桜の方を心配そうな顔で見る。
「成功しそうな計画というのは分かりましたが…それだと凛桜ちゃんの負担や危険が大き過ぎないでしょうか?」
たまりかねたアマネが三嶋へと不安な点を指摘した。
「それは…そうなのですが…。こうでもしないと羽山さんは絶対に鬼山に会おうとはしないと思うんです。
羽山さんと鬼山の繋がりを証明しないと羽山さんを逮捕するのは難しいんです!」
「その石田さんって方に証言してもらうことはできないのでしょうか?」
「僕と会ったすぐ後から石田は行方が分からなくなってるんです…。」
「じゃあそんなやり方は余計凛桜ちゃんを危険に!!」
テーブルを叩き、三嶋に詰め寄るアマネを凛桜が制止する。
凛桜は一度目を瞑り、そして真っ直ぐ三嶋を見返し堂々と宣言する。
「私…その計画に協力します。」
『えっ!?』と言うアマネ達に凛桜はニコリと微笑みかけてから続ける。
「たぶんそこまでしないとこの問題は解決しないと思う。三嶋さんの言う事が本当ならきっと大丈夫!
それにこの計画ならみんなに迷惑かけないで済むだろうし…。」
「何言ってんのよ!アタシ達は最後まで協力するわよ!ねぇ!?奏もでしょ!?」
マリアは先程から元気のない奏の背中をバンッと叩き問い掛ける。
それに対して一層暗く、俯きながら奏は答えた。
「その日…6月の最終の土曜日は…ヴァルキリアフェスのFINALオーディションなんだ…。」
「あ…そうか…。」
すっかりその事を忘れていたマリアはやらかしてしまった事に対して奏に『ごめん…。』と謝る。
もうどうしていいのか分からない奏は言葉が何も出てこない。凛桜の友達としてフェスのオーディションを蹴って計画に協力するのが正解だって分かっていてもその言葉が喉に詰まってしまう。
それを察した凛桜は奏に、
「奏!本当に何も気にしないで良いから!奏は奏の夢を叶えてほしい!お父さんに証明するために…そして天国のお母さんに歌を届けてほしい!
それだけを考えて…。私は大丈夫だから!」
いつもの明るい表情で奏の背中を押す凛桜だったが、奏は余計やり切れなくなったのかその場から立ち上がる。
「ごめんね…凛桜…。ちょっと席外すね…。」
そう言うと奏は部屋から出ていってしまった。
凛桜は自分が何かいけない事を言ってしまって奏を傷付けてしまったのか心配になり、奏を追いかけようとする。
しかし、それをアマネが手を掴んで凛桜を止める。
「凛桜ちゃん!気持ちは分かるけど…奏ちゃんは後で一緒に様子を見に行こう。
今は三嶋さんの言う計画をどうしていくか決めないと!
それで!三嶋さんの言う事は本当に信用できるんですね!?」
キッと三嶋の方を睨むように質問するアマネに、三嶋はテーブルに両手を付け、頭を擦り付けながら大声で弁明をする。
「信じて下さい!!確かに僕は羽山さんについていくと出世できると思い共に羽山派として行動してきました!
でもあの人は出しちゃいけない所に手を出した!僕はそれが許せない!それに僕の理想の政治家とは正反対の人間だった!
僕はこの日本を本当に良い国に!国民みんなが幸せだと感じる国にしたいだけなんです!
そして…こんなクズみたいな政治に巻き込んでしまった凛桜さんを…ただ…守ってあげたいんです…。」
三嶋は今までの自分への嫌悪感と、これからは本当にどうしていきたいかという熱い気持ちが込み上げて涙を流しながら凛桜達に頭を下げた。
その姿からは騙したり、嘘をついているようには見えなかった。
「三嶋さん、顔を上げて下さい。私は協力しますから…。」
「あ…ありがとう…。」
三嶋は顔を上げて涙ながらに凛桜へお礼を言った。
そしてハンカチで涙を拭い、鼻をかんで一旦気持ちを落ち着かせる。
「しかし…当日にどんなイレギュラーが起きるか分からないので、遠くから凛桜さんを守る護衛がいるのですが…。」
三嶋がそう言った瞬間部屋の襖が開くと、そこにはフラフラになりながら立っている雪がいた。
「お嬢の護衛は雪がするよ…。」
「雪ちゃん!?そんなボロボロの身体で無理よ!」
「いや、雪じゃないとダメなんだ…。だってお兄ちゃんは殺されたんでしょ?そうなんでしょ?四宮…。」
雪の消え入りそうなほど擦り切れた声の問いに、四宮は無言で頷いた。
「なら…誰が止めようと雪がお兄ちゃん達の仇をとる…。」
そこまで言うと雪はよろけて倒れそうになる。それをアマネが急いで立ち上がって受け止めた。
そこで『はい!それでは!』と明るい声で花山が立ち上がり、
「ここで一旦休憩にしましょう!まだ決行日まで少し時間はあるんです!焦らずゆっくり話を詰めていきましょう!その日までこの神社で身を隠していたら良いですから!」
花山のその言葉に、憔悴しきっていた全員が甘えることにした。
「ちょっと疲れたので外の空気を吸ってきますね!」
と凛桜はみんなに伝えると神社の境内の裏手の方へと1人で歩いていく。
そして周りに人がいないことを確認する。
そして…
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なん…で…!!お母様も…!謙信さんも…!嘘だよ!死んだなんて!やだよ!!!!
もう…!会えないの!?せっかく分かり合えたばっかりだったのに!!??こんなことならいっその事私も残っていたら良かった!!!」
神代の当主として取り乱してはいけないと押し殺していた感情が一気に爆発する。
それは涙となり声となり溢れ出て止まらなかった。本当なら、まだ若く経験も未熟な女の子には耐え難い事実を突きつけられたのだから仕方がないのだろう。
今にも壊れそうな凛桜の心は悲鳴を上げ続ける。
膝から崩れ落ち、百合から最後に貰った御守りを強く強く握りしめる。
何かが折れそうになった瞬間。
凛桜の頭に誰かが手を乗せる。凛桜が思い浮かべたのは奏の顔だった。
しかし、ゆっくりと顔を上げるとそこに立っていたのはアマネとマリアだった。
「1人で抱え込まないで…。凛桜ちゃんは1人じゃないから…。」
「苦しい時はアタシ達を頼りなさい。一緒に苦しんで…そして一緒に乗り越えてあげるから。」
2人の胸の中で泣き続ける凛桜の心は、辛うじの所で踏みとどまることができたのだった。
それを建物の陰から奏は見ていることしかできなかった。前までならすぐに駆けつけてあげれていたのに…。何とも言えない胸の苦しさで溺れてしまいそうな気分だった。
「あたし…何してんだろ…。」
そう呟くと奏はその場を離れた。
そして…計画実行まで後1週間…。




