第34話 すれ違う思い
凛桜達はスマートフォンのライトだけを頼りにひたすら暗い地下道を歩く。暗闇の中、時間や歩いた距離の感覚も分からなくなってきた時、目の前に階段が現れた。
その階段の登った先には薄汚れた木の扉がある。その扉はこちら側に閂があり、内側から鍵がかけられているような状態だった。
奏が先頭を行き、閂を外した後にその扉を恐る恐る開けてみる。
徐々に開いていく扉の隙間から薄っすらと陽の光が差し込んできた。
扉の先は、神代の物置きとは違って沢山の祭事に使われるような道具が所狭しと置いてあった。
そして物置きの出口を見つけて全員で外に出ると掃き掃除をしていたのか、箒を持った神主が奏達を見て『わっ!!』と驚いている。
「お…お嬢さん達…一体どこから…?まさか!小屋の開かずの扉から来たんか!?」
慌てふためく初老の神主に向かって凛桜が説明をする。
「実は…神代村から地下道のような所を通ってここまでやって来たんです。母が神代の名を出せば理解してもらえると言っていたのですが…。」
「もしかして百合さんの事かい!?」
「そうです!私は娘の凛桜と申します。事情を説明すれば助けていただけると…。」
「もちろんですとも!まずはこちらへどうぞ。お連れ様方も!」
神主は目を丸くしながらも『神代』の名を聞き、丁寧に案内をしてくれた。
そして神社内にある事務所兼自宅に着くと、アマネが神主に雪の容態を見てもらうため医者を呼んでもらえるよう頼んだ。
「早急にお医者さんを呼んでもらい、この子を見て欲しいんです!お願いします!」
「なんと!こんな大ケガを…。知り合いの町医者がおりますんで、すぐに来てもらえるよう連絡しますわ!それまではこっちの部屋のベッドを使って下さい!」
神主が開けた襖の先の部屋のベッドにマリアが雪を寝かせる。
騒ぎを聞きつけた神主の奥さんが救急箱を持ってきてくれたので、アマネは雪の傷に消毒薬などの応急処置を加える事にした。
「私はお医者さんが来るまで雪ちゃんの看病をしてるから3人は神主さんに色んな説明をしてあげて。」
そうして3人は雪をアマネに任せ、神主の案内で客間へと入った。
神主と凛桜達はテーブルを挟んで対面で座布団に座ると、神主が自己紹介を始めた。
「自己紹介が遅れて申し訳ない。私はここ『花咲神社』の宮司をしております花山と申します。まさか開かずの扉から神代の方がやって来るなど思いもしていませんでした。
百合さんともあの人が当主になった挨拶をしに来た以来会ってませんでしたしな。」
「神代や母と繋がりがあるのですか?」
「勿論ですとも!もう何百年も前の話になりますが、この場所は元々は神代の土地の一部でしたから。いつしか分家のように別れていき、この神社も独立したものとなり、今に至るんですわ。
でも神代の方が訪れた時は助けるようにと言い伝えられておってね。まさか自分の代でこんなことが起きるとは!」
興奮気味にそう話す花山だったが、3人の重い空気を察したのか話題を凛桜達が何故ここに来たのかというものに変えた。
「しかし、あんな大昔の脱出口から出てくるとは…神代で何かあったんですか?」
「はい…実は…」
凛桜は今日神代であった事を事細かに花山に説明する。
花山は静かに頷きながら話を聞いてくれた。
「そんな事があったんですか…。神代にそんな酷い仕打ちをするような輩は聞いたことがありませんな…。
よし!そしたら明日、私が神代へと様子を見に行きましょう。今日はもうすぐ日が暮れるんでここに泊まっていってください。」
「良いのですか?もしまた襲撃なんかがあったら…。」
「大丈夫ですよ!ここと神代が繋がっているなんてだ〜れも知りませんから!安心して休んでいって下さい!寝室に案内しますわ。」
そう言い花山は3人を奥の来客用の部屋へと案内する。
布団の場所や着替えなどの説明を終えると花山は『晩ごはんができたら呼びに来ますんで!』と言い残して部屋から出ていった。
「疲れた…ね…。ごめんなさい。私のせいでみんなをこんな事に巻き込んでしまって…。」
「凛桜が気にすることないよ!私なんて…なんの役にも立てなかったし…。」
「あたしなんて久々に良い運動したぐらいにしか思ってないわよ!昔の血が騒いだわぁ〜!」
奏とマリアは今回のことを気にしている凛桜を元気づけようと明るく振る舞う。
しかし中々重い空気は無くならず、各々言葉に詰まってしまった。
そうこうしていると雪に付いていたアマネが部屋へとやって来た。その顔は疲れからなのか、雪に何かあったのか、とても暗い表情をしていた。
「アマネさん!雪さんはどうだったんですか!?」
「お医者さんが来てくれて診察してもらったんだけど…命に別状は今の所ないって言ってくれた。驚くほど回復力が高くて頑丈な身体してたみたいで…。」
「それなら良かった…。」
「でもね。顔とかに付いた傷は残ってしまうだろうって…。あんなに…可愛い顔してたのに…。」
両手で顔を押さえて泣くアマネの肩を抱いてマリアが励ます。
「大丈夫よ!今は美容外科の進歩も凄いからきっと全部元に戻るわよ!」
「そうやんね…。それに命があっただけでもよかった…。」
その後は各自物思いにふけるように外を眺めたり、考え事をしたりと時間を過ごした。
解決しなければならない事が多すぎる事に加えて、今日起きた出来事はそれぞれに大きな心の傷を負わせるには十分だったのだ。
そして花山から晩ごはんの呼び出しがあったのでみんなで食卓を囲む。
花山夫婦は凛桜達に気を遣い、色んな話をしてくれたのだが空気が明るくなる事はなかった。
4人はご飯を食べ終わると花山夫婦に感謝を伝え、アマネは雪の所へ行き、マリアは疲れたのか布団に入り、奏は外の風に当たろうと神社の境内にあるベンチに腰掛けていた。
そこに奏を心配した凛桜がやって来る。
「奏…大丈夫?」
「凛桜こそ…。ごめんね…。本当にあたしはなんの役にも立てなかった…。むしろあたしが凛桜を外に連れ出したりしていなければ…。」
「そんな事ない!奏がいたからここまでこれたんだよ!鬼山の襲撃は私が神代に居ようが出ていようが必ず起こっていたはず…。むしろ奏が居たからマリアさんやアマネさんが居て、今こうやって逃げられたんだと思う…。」
「でも結果的にはあたしが首を突っ込んだからマリアさん達を危険な目に合わせてしまった!『凛桜の夢を叶えてあげる』って偉そうな事言ったのに何にもできてない!」
「違うよ!奏が外の世界は本当に素晴らしいって事教えてくれたんだよ!そうじゃなければ私は誰とも出会わずに閉じ込められたままだった!」
凛桜は必死で奏に今までしてくれた事の大きさを訴える。
じゃないと奏がどこかへ消えてしまいそうな…そんな気がしていたからだ。
そして奏はゆっくり立ち上がると凛桜に背中を向けたまま話す。
「ダメだな…。あたしは…。いつも口だけみたいになっちゃう…。大した事もできないくせに…。」
「そんなことないって!奏は歌でみんなを幸せな気持ちにさせたりしてるよ!私だって!マリアさんだって!」
「それもどうせダメになるんだよ…。もうオーディションのFINALまで1週間切ってるし…。曲もまだできてないし…。」
「それは!私のせいだから…。私が奏を巻き込んだから…。」
2人の間に沈黙が流れる。
お互いの気持ちは変わらないはずなのにすれ違い、遠くなっていく。
色んな事が山積みになり、相手を思いやった言葉が分かっているのにお互いに出てこない。
月に照らされた境内に虫の音だけが鳴る静かな夜が余計に気持ちを焦らせる。
耐えかねた奏が先にその場を去ろうとした。
「あたし…先に戻ってるね…。」
「あ…うん…。分かった…。」
奥へと戻っていく奏の背中は凄く寂し気に凛桜の瞳には映った。
奏と凛桜はお互い自責の念に押しつぶされそうになっていた。2人はそれが分かっていたはずなのに友達の気持ちを和らげてあげる事ができない自分に苛立ちを覚える。
そうやってみんなの心にしこりが残ったまま、静かに夜は更けていった。
そして次の日の朝、神代村へと様子を見に行った花山が衝撃の事実を持ち帰ってきた。
生き証人の黒子衆の男を連れて…。




