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第30話 獣と獣

願いを叶えて欲しいという雪の手から伝わってくる恐怖の感情。それが分かってしまって神宿みじゅくを使うことに凛桜は迷ってしまう。

しかし、この状況を切り抜けるには雪の力が絶対に必要なのも事実である。

そんな思考の狭間でゆっくり考えさせてくれるほど鬼山は甘くないだろう。

待てない雪は一層強く凛桜の手を握りしめる。


「お嬢!早く!『狂薬』がないと雪は力が出せない!あいつを倒せるぐらいの力はお嬢の力が無いとダメなの!」


「で!でも!代償が!」


「みんなが死んじゃう事以上に辛い事なんてない!代償なんて何でも受けてみせるから!」


2人のやり取りを黙って見ていた鬼山が、横に居た男から大きな山刀を奪ってゆっくりと動き出す。


「なんやおもろそうな事が起きそうでワクワクしてたけどなんもないんかいな…。しょうもな。ゆっくり楽しもうって思ってたけどもうええわ。全員死ね。」


それを見ていた雪はもう刹那の時間も無いと感じ、凛桜へと最後の催促をする。


「お嬢!!!!」


雪の覚悟と思いを無駄にしてはいけない。

雪を失いたくない気持ちを必死で抑えて凛桜は神宿の手の力を使う。


「分かった!いくよ!雪さん!」


「お嬢…ありがとう…。」


そして雪はみんなを守りたいという気持ちを強く想う。


(絶対にみんなを守りたい。誰かを守りたいと思ったのは生まれて初めて…。これも全部ママのおかげ…。だからあいつに勝てる全身全霊の力が欲しい!!!)


2人の繋がれた手から白い光が輝き出す。


(やっぱりダメだ!桜色じゃない!白だと代償が…!)


桜色に輝く事を心の片隅で願っていた凛桜の期待は見事に打ち砕かれた。

自分も雪の願いや夢に同調していなかったからなのか。百合と話をしていた事が頭を駆け巡るが当然答えなど出ない。

自責の念に駆られる凛桜の手から雪の手が離れる。


「キャハ…。これこれ…きたよ…。いつもより力が溢れてるみたい…。」


懐からいつものナイフを出し、全身の力を抜いたようにユラユラ横に揺れる雪を見て奏と凛桜はゾクリとした。

自分達を追っていた時の雪に戻っている。いや、あの時以上の不気味さを纏っているようだった。

そしてニヤリと大きく口角を上げた雪は狂ったように顔を空に向けて笑い出す。


「キャハハハハハハ!!!お前らみんな死んじゃえ!!!!」


雪が前を向き突進しようとした時にはすでに目の前に山刀を振りかざした鬼山がいた。

雪の反応を上回る速さと、ほんの少しの意識の隙を突いた攻撃だった。

その鬼山の一刀がなんの躊躇いもなく無慈悲に雪へと振り下ろされる。


「雪ちゃん!!!」


アマネの悲痛な叫びが響く。

しかし、みんなの予想していた事態にはなっておらず、ガキーンという金属音が鳴る。

顔を伏せてしまっていた凛桜が恐る恐るその音の方へと目をやると、ナイフで山刀を受けている雪の姿であった。


「キャハ!あぶな〜。なに急いでんの?お兄さん早漏なの?」


ギリッギリッと刃が擦れ合う音が大きくなっていく。

そして徐々に鬼山の山刀が雪を押していき、ジリジリと雪の膝が地面に近づき擦れる。


「おいおい、さっきの勢いはどないしたんや?このまま肩から一気にぶった切ってまうぞ。」


(こいつ…片手のくせにお兄ちゃんぐらい力が強い…!でも…!)


力勝負では勝てないと察した雪は、相手の力の方向を上手く横へと受け流し、鬼山の山刀を躱してサッと一度後ろへと下がった。

雪の相対する力が急に無くなって勢い余った山刀はそのまま地面へと振り下ろされる。

ズドンッ!と振り下ろされた山刀は、刃が半分ぐらい隠れるほど地面を深く斬っている。

これだけでいかに鬼山の力が人間離れしているか分かる。


そんな超人のような2人の戦いに、鬼山側の人間も凛桜達も動けずにいる。

それが分かった雪は、凛桜達に背中を向け、鬼山を睨んだまま発破をかける。


「みんな早く逃げて!!急いでお兄ちゃん達の所へ!!」


そんな雪の訴えを聞いたみんなは、金縛りを受けたように固まっていた足を動かす。


「雪ちゃん!後で絶対にまた会うからね!」


アマネのその言葉にまた一段と力が漲ってくる雪。

しかしそれに返事はせずに、その勇気をくれた言葉を胸に鬼山達の方へと殺気を飛ばす。


後方へと走り出した凛桜達だったが、目の前には黒子衆の小早川が立ちはだかる。

その小早川の目は凛桜だけを追っている様子だった。

この男を倒さない限り、雪が作ってくれた逃げるチャンスを失ってしまう。そんな時1つの影が先頭を走り出す。


「どけゴラァァァァァ!!!」


それは拳を大きく振り上げたマリアの姿だった。小早川の強さを知っている凛桜が『ダメッ!危ない!』と慌ててそれを止めようとする。

奏もどうにかしようと足に力を込めてマリアに追いつこうと必死で走る。

しかし、横を走っていたアマネが冷静な口調でみんなを落ち着かせる。


「大丈夫!則夫ちゃん強いから!」


アマネの顔にマリアを心配する様子は一切見られず、むしろ嬉しそうに笑っているようにも見えた。


勢い良く突っ込んでくるマリアに小早川は少し怯んだが、すぐに立て直し、マリアの懐へと潜り込んで短刀で斬りつける。

小早川は相手の腹を切り捌いたと思ったが、短刀を振り抜けずにいた。

何故なら、マリアが短刀を太い腕で受け止めていたのだ。懐に深く入り過ぎてしまい、力が上手く入らなかったようで、短刀の刃はほんの少しマリアの腕を切りつけただけで止まっていた。


「痛いの〜コラッ!うふ♡でもいらっしゃい…。ほなさいなら!!」


マリアはそう言うと小早川を空高く持ち上げ、そのまま頭の方から地面へと叩きつける。

叩きつけられた小早川は一度大きく跳ね上がり、白目を剥いて気を失って地面に転がった。


「さぁ!行くで!!雪のためにも!!」


おとこモードのマリア恐るべしである。

そしてマリアの作った突破口から凛桜達は急いで謙信や百合の居る入り口の方向へと走るのであった。


全員逃げ出せたのをチラリと確認した雪は一先ず安心する。

その一瞬目を離した隙を狙って鬼山は容赦なく雪に斬りかかる。

それが分かっていた雪はギリギリながらもヒラリと山刀を躱しケタケタと笑う。


「ターゲット逃げてもうたやないか…。お前ら全員急いで追いかけろ。こいつは俺1人でええわ。どうせお前らおっても邪魔やしな。捕まえられへんかったら…分かってんな…?」


こうしてアップグルントのメンバーは鬼山の殺気に当てられて、尻に火が付いたように必死の形相で凛桜達の後を追う。

そうさせまいと雪が全員を止めるため動こうとするが、それを鬼山が山刀を振り回しながら攻撃して防ぐ。


「お前の相手は俺やろ。寂しいやんけ。あいつらを命を賭けて守りたいんやろ?…お前のその夢…喰わせろや。」


「キャハ!じゃあ一瞬で片付けてあげるね!本気の雪ちゃんを舐めないでほしいんだよね!」


目を深く、そして赤く光らせ、姿勢を低くナイフを構える雪。

それに対して鬼山は構えも何もせずに山刀を肩に担ぎながら王のように堂々と歩み寄る。


2人の殺気で森の中の鳥たちが空へと飛び逃げる。それは獣と獣の殺し合いが始まる合図のように。

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