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第23話 謎を解く鍵

「それでは!奏のヴァルキリアフェスオーディションFINAL進出を祝いまして!!」


「「「かんぱーーーーーい!!」」」


4日前、マリアとの約束をすっぽかした奏と凛桜はマリアにこっぴどく怒られ、今日はマリアの店を貸し切ってのお祝い会に参加していた。

アマネや雪、マリアの店の常連の人達も交えての賑やかな会に奏はご満悦だった。

みんなでワイワイ色んなことを語りながらの飲み会は凛桜にとってはお祭りのようだった。

神代村での祭事とは全然違う楽しい雰囲気に凛桜は飲んだことのないお酒をグイグイと飲んでしまう。

そして顔を赤らめ始めた凛桜に常連の芸人が声を掛ける。


「あれ?凛桜ちゃん酔ってきてるんちゃう!?顔赤くなってめちゃ可愛いやんか!」


「うるさいれす。で、金玉はいつ売れんの?」


「え…いや…、金玉でもゴールデンボールでもなく…ゴールデンボーイなんやけど…。」


酔って目の据わった凛桜がゴールデンボーイにダル絡みをしてるのを見つけたマリアが慌てて止めに入る。


「ちょっ!凛桜!?あんた酒癖悪かったの!?ほら!お水飲みなさい!」


「いらないれすって!マリアしゃんって本当に優しいおじしゃんですよね。」


「お…おじ…。」


凛桜は酒の力で悪気のない悪口に拍車がかかる。

周りが慌てて止めようとしても一向に止まる気配はない。


「あはは!お嬢すげぇっすね!あの清楚なお嬢がこんなんになるなんて!」


「雪しゃんうるさいです。また顔面殴りますよ。」


「え〜…。こんなお嬢見たらお店のお客さん死んじゃうんじゃ…。」


そこでトイレから帰ってきた奏が凛桜の異常にいち早く気付き、急いで隣に座った。


「ちょっと凛桜!?なんでマリアさん達泣きそうな顔してチビチビお酒飲んでんの!?」


「あっ!奏だ!おい!歌を歌え!!」


もう完全にダル絡みおじさんと化した凛桜は誰も止められない。

それを悟った奏は、持ってきていたギターを取ってきて『仕方ないな』と嬉しそうにボヤきながら弾き語りを始める。

奏が歌い始めるとワイワイ騒いでいた空気はピタリと止まり、全員が目を閉じて奏の心を落ち着かせるような歌声に酔いしれた。

そして奏が歌い終わり、静かになった凛桜の方を見ると、アマネの膝枕で幸せそうな顔で眠りについていた。


「寝てるし。」


「お…お嬢…そこは雪の…。」


そのまま凛桜は寝かせたままにして宴は続き、終電も近くなった所でお開きとなった。

アマネ、マリア、雪、凛桜を残し、来てくれた人達全員のお見送りに行っていた奏が帰って来る。

盛り上がった証拠の如く散らかった店内をアマネとマリアが片付けている。


「あっ!アマネさん!あたしが片付けるんで座ってて下さい!」


「いいのいいの、今日の主役なんだから座ってなさい。」


そんなアマネの言葉に甘えてソファーで眠りこけている凛桜の横に座る。

幸せそうに眠る凛桜を見て、本当にあの村から連れ出して良かったと思う。

まだまだ解決できていない問題は多いが、このままずっと平穏であればいいのにと奏は切に願った。


片付けも一通り終わり、みんなが帰り支度を始めた時に奏は凛桜を起こそうとする。


「凛桜!起きなって!もうみんな帰るよ!」


「う〜ん。なんか凄い勢いで…世界が回ってる…。頭もズキズキする…。」


フラフラになりながら、目も開けられず、眉間にシワを寄せる凛桜を無理やり起こしたその時であった。

雪が急に店のドアに向かって『誰!?』と叫ぶ。

その声に全員がビクッと身体を揺らし、静かにドアの方に顔を向けた。

するとガチャリと音を立ててゆっくりとドアが開く。

ドアの向こうに居たのは謙信だった。


「雪、ここにいたか。さぁ行くぞ。」


謙信は感情が籠もっていないかのように冷静に淡々と話を進めようとする。

が、店の奥に凛桜がいる事に気付いた。


「凛桜様。丁度良かった。今すぐ神代村へ帰りましょう。凛桜様が戻ってきてくれたらある程度問題は解決します。」


そう言いながら店内に入ってくる謙信に対して直ぐ様みんなは凛桜の前に立ち塞がった。

その先頭にいる雪が汗を一粒流しながら謙信に質問する。


「お兄ちゃん、どうやってここが分かったの?」


「お前が『アマネ』という名を口にしただろう。そこから調べたらすぐに分かったさ。」


「みんな、ごめん。雪のせいだ…。ここは雪がなんとかするからみんな逃げて!」


「無駄だよ。お前は狂薬を飲まなければ脳のリミッターを外せない。リミッターさえ外せば俺を越えるかもしれん力を発揮できるだろうがな。」


謙信の言う通りだった。雪は謙信のように自在に力を発揮できる訳ではなかった。

洗脳を強くすると同時に雪の潜在能力を引き出す役割をしていたのが狂薬だったのだ。

力を出そうと必死に唸っている雪の前にアマネが出る。


「雪ちゃんのお兄さん。ここはお引き取り願えないでしょうか?もう雪ちゃんは私の大事な家族なんです。」


「雪が家族?あなたはその子が今までどんな人生を送ってきたかご存知か?そんな罪を背負ったまま何食わぬ顔で歩ませると?」


「償いはさせていきます。どんな方法かはまだ分かりませんが必ず私が一緒に雪ちゃんと悩み歩んでいきます。」


「ママ…。」


雪はアマネの覚悟を決めている言葉を聞き、胸を打たれ思わず『ママ』と呼んでしまった。


「ご、ごめんなさい…。呼び方…。」


「いいのよ。ママで。大丈夫!守ってあげるからね!」


「はぁ…。まさかここまで雪を懐柔されているとは思わなかった。」


謙信は茶番でも見せられているかのような気分になり、頭を抱えてため息をつく。

すると同じ様に頭を抱えてフラフラと凛桜が奥から歩いてきた。


「なんかやっと意識がはっきりしてきました。とても頭はグワングワンしますけど…。謙信さん。雪さんも私も神代村には帰りません。そうお母様にお伝え下さい!」


「凛桜様、あなたはここに居ても羽山の雇った連中に捕まり、何をされるか分かりませんよ。当然ここにいる他の人間もタダでは済まされないでしょう。」


「それならあたしが何度でも神宿みじゅくの力を使って乗り切る!どんな代償を背負ってでも!!」


凛桜を横から支えていた奏が威勢良く謙信との間に割って入る。

そのセリフに嘘偽りが無いことは目を見れば明白だった。


「簡単に神宿の手の力を使うなどと…。俺は今譲歩してやっているんだぞ。力ずくで連れ帰ろうと思えばできる。分かっているのか?」


謙信はそう話した後、店全体に広がる程の殺気を強烈に放った。野生の動物であれば隣の山まで一目散に逃げる程の殺気だ。

修羅場をくぐってきたマリアや雪でさえ足に力が入らなくなるほどガクガクと震えてしまっている。


そんな中、凛桜と奏はそれに屈せず手を握りしめあっている。

恐怖が無いわけではない。証拠に2人とも顔に汗は流れ、唇も細かく震えている。

それでも謙信を睨み返す目には勇気と力が漲っていた。


「あんたが少しでも手を出そうものならこのまま神宿の手の力を使う!」


謙信はジッと奏と凛桜の目を見る。


「脅しではないのだな…。まさかこんな短期間でコミュニティーを広げ、ここまで人が成長するとは…。」


スッと謙信から発せられていた殺気が消える。


「分かりました。力ずくは止めましょう。ただ百合様から伝言を預かっております。凛桜様に会ったら必ず聞いて欲しいと言われた事です。」


「お母様が?なんですか?」


「こちらに来て何度か神宿の手の力を使ったと思われますが、願いを叶える瞬間に『白色』ではなく『桜色』に発光した事はないか?という伝言です。」


「あっ!確かマリアさんの願いを叶えた時に…。」


「うん、あれは確かに桜色だった。」


それを聞いた謙信は驚いた表情を浮かべる。いつも冷静で無表情の謙信には珍しい事だった。

それほどまでに重要なことだと分かる。


「ならば一層神代村へ戻らなければなりません。」


「だから私は戻りません!そんな質問も訳が分からないです!」


「おい、お前。代償はあったか?」


凛桜の訴えを無視して謙信がマリアへ質問する。


「少し加齢臭がキツくなった気が…。」


「そんな代償あるわけないだろう。あったとしてもどんな願いだ。やはり代償無しで願いを叶えたみたいですね。今すぐ百合様の元へと戻って下さい。」


「何度言われても一緒です!戻りません!マリアさんは少し匂いがキツくなったのは本当です!代償なしなんてありえない!」


「え…。凛桜…まだ酔ってる…?」


凛桜の切れ味鋭い悪口がマリアを切り殺した後、謙信は重い口調で全員が驚愕する事を口にする。


「もし桜色の発光の謎が解ければ、凛桜様が…いえ、神代家自体がハカナバナノカミから抜け出せる事に繋がるとしてもですか?百合様はその辺りの事を知っている様子でした。」


急に聞かされる神宿の手の力から解放されるかもしれないという可能性。

凛桜の中で何かがドクンと脈打つのをそばに居た奏だけが気付くのだった。

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