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第22話 夢を喰らう獣

奏のオーディション結果があった次の日の夜、アップグルントの経営するBarで組織のナンバー2の中島という男が事務作業をしていると店のドアが静かに開く気配がする。

中島が入り口の方を見ると坊主頭に黒スーツの男が立っていた。謙信がアップグルントの構成員から情報を聞き出して中島の元にやって来たのである。


「お前誰や?外のclosedって看板見えへんかったんか?」


「仕事中に失礼して悪いがアップグルントのナンバー2の中島で間違いないか?」


「……。お前か、なんや俺等のグループについて嗅ぎ回ってる奴ってのは。一応用心してて良かったわ。」


中島が合図を送ると奥からゾロゾロと5人の屈強な男達が現れた。

手にはパイプやバットなどの武器を携えている。


「ただで帰れると思うなよ。」


謙信はこの状況の中で気怠そうに全身の力を抜くかのように構える。


「仕方ない。少々手荒にいかせてもらうよ。」


「お前ら!やってまえ!」


中島の掛け声と共に5人の男達は謙信目掛けて襲いかかる。

10分後、倒れているのは謙信ではなく襲い掛かった男達だった。

中島は一撃で倒されていく部下の姿を何もできずにただ見ているだけしかできなかった。

まさか格闘技経験者で武器を持った人間がいとも簡単に倒されていくとは思いもしていなかった。


「お…お前何者や…。」


逃げ場所が店の入り口しかない状況で中島は謙信への恐れでソファーからずれ落ちそうになる。


「ただ色々と聞きたいことがあって来ただけだ。おとなしく話してくれたらこれ以上何も危害を加えない。」


「聞きたいことってなんや?」


「君達のボスの鬼山についてだ。君が1番付き合いが長いと聞いた。」


「鬼山さんは裏切られへん…。裏切ったら何をされるか分からん…。それに鬼山さんは俺たち半端モンに居場所を与えてくれた恩人やからや!」


「そうか、なら仕方がないな。」


すると謙信はツカツカと中島に近付いていき、中島の腕を掴む。

中島もジタバタと抵抗するが意味はなく、『ゴリッ』という嫌な音が中島の肩から聞こえた。それと同時に中島は『ぐわーーー!!』と痛みに耐えかねて床を転げ回る。


「肩の関節を痛みが最大限感じるよう外した。次は逆の肩、肘など順番に外していく。どうする?話す気になったか?」


「はぁはぁ…、わ…分かった…。分かったから止めてくれ。」


中島の顔は痛みによる脂汗と鼻水、ヨダレが口から流れていて醜く歪んでいた。

中島があっさり情報を吐くことに決めたのは彼が悪いわけではない。それだけ謙信の拷問は彼の心を折るに十分な痛みを与えたのだ。

そして中島は肩を押さえながら自分が鬼山について知っている事をポツリポツリと話し始めた。



鬼山 貘。

彼は一般企業に勤める会社員の父と専業主婦の母の間に産まれた。

兄弟は無く、一人息子として両親から多大な愛情を与えられ、何不自由無くすくすくと育っていった。

周りから見ればどこにでもある幸せな家庭であったがたった1つ他の家庭とは違うものがあった。

それは鬼山の欠陥的な『バグ』だ。

彼は他人どころか両親にさえ全く何の興味も感情もなかった。

そんな喜怒哀楽を表情や態度に表さなかった息子を両親は心配していたが、大事な息子を精神病院などに入れるのは嫌だったので時間が解決してくれると信じて待っていた。これがこの両親の唯一の間違えだったのかもしれない。


そんな鬼山に感情が生まれる瞬間がくる。

鬼山が小学校に入学した年、鬼山は公園のベンチで座っていると、滑り台を逆から一生懸命登ろうとしている同い年ぐらいの少年を見つける。

その必死な少年をずっと見ていた鬼山は歩き出し、滑り台の階段から上に登り、そこから坂を登ってくる少年を見下ろす。

何か声を掛けたり応援するでもなく、無表情で少年をジーッと見つめた。

そして必死の努力でやっと坂を登り切った少年が滑り台の頂上に手をかけようとした瞬間、鬼山は少年の顔面を蹴り、その衝撃で後ろ向きに少年は転げ落ちていってしまった。

少年は地面で頭を打ち、打った頭を抱えながら大声で泣きながら転げ回っている。


それを頂上から見下ろした鬼山は生まれて初めて醜悪な笑顔を作った。

それは人が想像する悪魔がするような不気味で恐ろしい笑顔だった。

こんなに心身が高揚することなどなかった鬼山は急いで家に帰り、興奮の原因を探り出した。

必死で目標を達成しようとしていた少年、その目標を達しようとした瞬間に自分の手でそれが全て水の泡になる。

その自分が全能の神になったような瞬間に興奮を覚えたのだと理解する。


それから鬼山は周りの人間が何かを達成した所を狙い、その全てを無に帰すような行動を多々行っていくようになる。

人の絶望した顔が堪らなく愛おしく感じる鬼山の行動はどんどんエスカレートしていった。

しかし、鬼山は自分の手を汚さず影で動いていたため、鬼山が犯人だとは周りに周知されずに済んでいた。


鬼山が中学3年生になったある日、両親が『鬼山が頭の良い高校に入り、そのまま順風満帆な人生を歩んでくれるのが夢だ』と聞いた。

それから鬼山は猛勉強をして地元では1番の進学校に入学する事が決まった。

両親はその事に大喜びをしてくれて、ケーキや豪華な料理も用意してくれた。

そして鬼山は両親の夢が叶った瞬間、


ケーキを切る用のナイフで両親の首を刺し、殺した。


突然の可愛がっていた息子の狂気の犯行。

死にゆく母が見た初めての息子の笑顔は、とんでもない悪意に満ちた邪悪なものだった。

名前の通り、人の夢を喰らうバケモノと化した鬼山はそのまま家を出て姿をくらますこととなる。

この事件は全国的なニュースとなり、少年Aとして警察から追われることとなるが、警察が重要参考人の鬼山を見つけ出す事はできなかった。

よわい16にして、裏社会に溶け込むように鬼山は逃げていったからだ。


そして数年後、鬼山は大阪のミナミの街で半グレ集団を強大な暴力でまとめ上げ、巨大組織のアップグルントを立ち上げることとなる。



「お…俺が知ってるのはこんなもんで、簡単な鬼山さんの生い立ちや、薬でラリった鬼山さんが口を滑らした事だけだ。本当にこれ以上は何も知らない。」


「そうか。邪魔したな。」


中島が嘘を言っていない事を確信した謙信はその場を後にした。

そして一旦雪の居た部屋へと戻り、これから鬼山をどうするか考える。


(鬼山が相当頭のおかしい奴だというのは分かった。あの時感じたドス黒い何かは悪意だったんだな。それでもあれだけのものを撒き散らしながら生きている人間は初めて見た。絶対に凛桜様に近付けてはならない。羽山から依頼の取り下げをさせても奴は止まらないだろうな。やはり直接手を下すしかないか。それにはやはり雪の力が必要なんだが…。)


ただ凛桜を連れて帰るだけの任務が羽山のせいでとてつもなく難しくなった事を感じる。

そして謙信は鬼山達の動向を気にしつつ、まずは消えた雪の行方を探すことに決めた。



次の日の朝、ミナミのあるゴミ捨て場で無残にも殺された全裸の中島の死体が見つかることとなる。


自分の右腕である仲間の人間をいとも簡単に殺してしまう鬼山。

彼には仲間も友人もいない。鬼山にはそんなもの必要ないのだ。

鬼山の周りの人間は知らない。

アップグルントは鬼山が人の夢を喰らいたいがためだけに作られた組織であるということを…。

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