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第19話 心の闇、差し伸べる手

「も…もう…勘弁してくだ…さい…。」


謙信が雪の元に訪れた夜、ここは鬼山の統率する半グレグループ『アップグルント』の運営しているぼったくりバーである。

そこで全裸にされて酷い暴行を受けた男が正座をさせられている。

顔は血にまみれ、身体も紫色の痣がいたる所にできている。

その男が鬼山に対して許しを懇願しているところだ。


「許して下さいって言うけど俺らに喧嘩売ったんはお宅らちゃいます?ヤクザなら死ぬ事ぐらい覚悟してるやろ?」


鬼山達から暴行を受けているのは昔ミナミで武闘派として名を馳せたヤクザの組の組長である。

暴対法の締めつけが厳しくなり、その影響で衰退していった組だが、今回鬼山のやりたい放題を見かねて話をつけに来たがこの有様になってしまったのであった。


「も!もう何も関わりもせーへんからどうか勘弁してくれ!」


「はい、タメ口使ったからまた爪剥ぐね。」


「鬼山さん、もう剥ぐ爪がありません。」


「えー、そうなんかぁ…。ほな耳引き千切るわ。」


鬼山はそう言うとなんの躊躇いもなくヤクザの耳を引き千切った。

『ギャーーーーーー!!』

というヤクザの悲鳴が店内に響きわたる。

そのままヤクザは前のめりに倒れ込み気を失ってしまった。

鬼山は倒れ込んだヤクザの後頭部を踏みつけながらメンバーに指示を出す。


「ほなこのゴミをこいつらの事務所の前に捨ててこい。俺は羽山のおっさんの件で動かなあかんからな。後は頼むぞ。」


そして鬼山は5人のメンバーを連れてミナミの繁華街へと繰り出した。


「この街も飽きてきてもうたなぁ…。もっともっと無茶苦茶にせんとおもろないなぁ。」


鬼山の独り言を聞いて周りのメンバーは苦笑いを浮かべる。鬼山の周りを固めているのは元地下格闘技の選手や元暴走族など、裏で生きてきた肝の座った人間達だったが、そんな人達でも鬼山の底のしれない悪意にはとてつもない恐怖を抱いている。


「たしかあの写真の女を日本橋の方で見かけた奴がおるって言うてたな?」


「はい、女2人で歩いている所を目撃したメンバーがいます。」


「じゃあアップグルントの全メンバーに伝えとけ。明日からその女の捜索に全力で動けって。」


「了解しました。」


「羽山のおっさんが一億を何も言わんと払う案件や。普通には終わらさんで…。」


鬼山は久々に自分を楽しませてくれそうな案件に嬉しさを隠せずに顔を歪ませた。



そんな鬼山達の後方100m程を歩いている人間がいた。

雪の所から鬼山を探しに来ていた謙信である。

羽山の周辺から情報を集めて辿り着いたのが鬼山だった。羽山は今までも裏で鬼山を使って色んな問題を解決していたようだ。

謙信はそんな鬼山を見て、生まれて初めて冷や汗が背中を流れる。


(あれは危険だ…。人の枠を越えた悪意を感じる…。絶対に凛桜様に近づかせてはならない…。)


謙信も幼い頃から神代村で古くから伝わる武術を修行して、武の完成形とまで言われるほどの強さを手にしている。

だがそんな謙信でも手に汗握るほどの男が鬼山であった。

たぶん一対一の戦闘であれば謙信が勝つのであろうが、そんな自信すら飲み込んでしまう鬼山の悪意に謙信の中の警報がけたたましいほどに鳴る。


(一度雪の所に帰って出直そう。1人では少々骨が折れるかもしれない。)


そう考えた謙信は雪のいるビルへと戻るのであった。

謙信がドアを開けて部屋の中に入るが、ソファーの上に寝かせていたはずの雪がいない。


(雪はどこに行った。まさか薬の影響で暴走したのか…。)


そしてソファーの近くを調べてみると、溶けかけた白い錠剤のようなものが落ちている。


「あいつ、狂薬を飲んでいなかったのか…。だとすると一体どこに行った…。鬼山達をどうにかしなければいけないこんな時に…!」


焦る謙信は急いでその場から飛び出し、雪の捜索へと向かうのであった。



そして場所は変わり、ここは日本橋にあるアマネのお店。

『アマネさんお疲れ様でしたー!』と従業員が帰っていき、アマネは1人で店の締め作業をしている。

雪から受けた傷が『ズキッ』と少し痛むが軽傷だったためすぐに退院でき、その日のうちに店に出勤していた。


「奏ちゃんはオーディションどうなったかな?上手いこといったんかな。」


アマネは作業をしながら奏のオーディションの事を心配していた。勝ち進んでいようが負けていようが、アマネは精一杯の美味しいご飯を奏に食べさせてあげようと計画していた。

作業も終わり、そろそろ帰ろうかと店の奥で帰宅の準備をしている時に『カランカラン』と店のドアが開く音がした。

忘れ物をした従業員が戻ってきたのかと思い表に出る。


「どうしたん?忘れ物?…あ…。」


アマネがそう言いながら入り口を見るとそこには従業員ではなく雪が俯きながら立っていた。


「雪ちゃん…。どうした?私に用事?」


「……………。」


アマネが質問しても何も答えようとしない。

が、何か伝えようとしている事は唇を噛み締めた雪の表情を見ていると分かった。


「雪ちゃん、そこに座りなさい。なんか飲み物入れてあげるね。お腹は空いてない?」


「なん…で…。」


雪がか細く言葉を絞り出す。そして俯いていた顔を上げて真っ直ぐアマネを見る。


「なんで刺した相手にそんな優しいの!?怖くないの!?恨みなんて全く感じない顔してさ!あの日から雪はずっとおかしくなってるのに!」


「うん。雪ちゃんは怖くないかな。だって本当に恐ろしい人はわざわざそんな質問をしに来ないでしょ?きっと何か理由があるんやないかな。私で良ければ力になるよ。」


アマネの優しい言葉に雪はまた顔を俯いてしまう。

何か言いたいのに言えないでいた。

雪には小さい頃からの記憶が曖昧でしか残っておらず、物心ついた頃には神代で暗殺者のような育て方をさせられていたからだ。


「雪には記憶がないの…。だから理由なんてのも分からない。さっきね…お兄ちゃんと会ったんだ。そしたらいつものように取り乱してダメになった雪に薬を渡してきたんだ。それを飲むフリだけして…いつものように狂ったような演技して…ソファーに寝かされたところでお兄ちゃんが言ったんだよ…。」


雪は手を強く握りしめ、涙をたくさん溜めた目でアマネに訴える。それは子供が大人に助けを求めるような悲痛で苦しむ顔をしていた。


「雪の名前はね!『あなたの死を望む』って花言葉のあるスノードロップからきてるんだって!哀れな子なんだって!笑えるよね!雪がやってきた事そのままの意味だったよ!もう…どうしたらいいか分からないよ…。」


雪は両手で顔を覆って人の目も気にせず泣いた。

今の自分の気持ちをここまで正直に他人に言ったのは初めての事だったし、それが何故出会って間もないアマネだったのかも分からない。


そんな雪の訴えを何も言わずにずっと聞いていたアマネはゆっくりと雪に近づき、雪の両手をそっと握りながら話し出す。


「名前はスノードロップからきてるんやね。すごく可愛い花やね。ほんでね、スノードロップの花言葉には『希望』って意味もあるんよ。むしろそっちの方がメインやねんで!」


『希望』という言葉を聞いて雪はハッと顔を上げる。

そんな素晴らしい意味があったなんて思いもしていなかった。


「だからね。昔の記憶を取り戻すのってすごく難しい事だから、今からいっぱい雪ちゃんとしての思い出を作っていったら良いんちゃうかな。雪ちゃんが今から立派になったり、良い事をいっぱいしたらみんなの『希望』になれると思う!そうなれるように私もずっと一緒に協力するからね!」


「なんで…なんで雪にそんなに優しくしてくれるの…。今まで悪い事ばっかりしてきたのに…。」


アマネはあの時のように雪をギュッと抱きしめる。


「人は変われる。そして私は変わろうとしている人を助けたい。簡単な事じゃないし、雪ちゃんがやってきたことの償いはしないとあかん。けど今までの事は雪ちゃんだけが悪いなんてこと絶対にありえない。」


雪は自分の今一番伝えたい事、やりたい事を勇気を振り絞って言葉にする。


「雪は…アマネと居たい…。」


雪の中の心の闇が晴れていく。アマネの損得なしの純粋な母のような優しさが1人の少女を救った瞬間だった。


「うん!いいよ!これからも一緒に居ようね!そしたらそこに座りなさい!美味しいオムライス作ってあげるから!」


ここからまだまだ雪が乗り越えていかなくてはならない壁が幾重にも立ちはだかっている。

何年もかけて薬などで洗脳された雪を救うことが難しいという事をアマネもよく分かっている。


だが今だけは、本当の親子のような幸せな時間を一緒に過ごす。それだけに2人は身を寄せ合うのであった。

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