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第18話 スノードロップ

奏がオーディションライブを終えて外に出るとぎこちない笑顔で迎える凛桜とマリア。

そんな2人を見て何か違和感を感じる奏。


「お疲れ様!凄く良いライブだったよ!」


「やっぱあんたは色々持ってるわぁ…。絶対オーディション突破してるわよ!」


「…………。ありがとうなんだけどさ、2人共なんか隠してない?」


そんな奏の質問に2人はギクリとなってしまう。お互いに目を合わせて『はぁ…』とため息をつく。

そして凛桜が『実はね…』とライブ中に起きたトラブルをどうにかするためにマリアが神宿みじゅくの力を使った事を正直に話した。


それを聞いた奏は呆れたように頭を掻きながら話す。


「やっぱそういう事だったんだね…。何か都合良いように事が進むなぁって思ってたんだよ…。で?マリアさんの代償はどうなったの?」


「それがまだ何も起きてなくて分からないんだ。」


しかしマリアは深刻そうな顔で地面を見つめながら、


「いえ…。たぶん代償はもうあたしに降りかかってるわ…。」


何も聞いていなかった凛桜は驚く。


「えっ!?一体いつから!?どんな代償ですか!?共有するって約束したじゃないですか!」


「さっきからあたしの身体から凄くおっさんの匂いが…するの…。このままじゃおっさんになっちゃう!なんて酷い代償なの!」


「マリアさん、それ前からっす。」


『え〜ん!』と泣くマリアに奏から即答で鋭いツッコミが入る。

泣きマネを止めたマリアはムスッとなりながら腰に両手をあてる。


「どうせあたしはおっさんよ!分かってるわよ!まぁ今の所は何にも起きてないと思うわ。」


「良かったぁ、さすがにおじさんの匂いを共有はできないから焦っちゃったよ…。やっぱりいつもと違う感じだったから代償もないとかあるのかな?」


「何が違う感じだったの?」


「奏も間近で見たことあるから分かると思うんだけど、いつもは白色に光るはずなのに今回はピンクというか桜色というか、とりあえず光る色が違うかったんだ。」


「へ〜。見間違いや勘違いじゃなくて、このまま代償も特に無ければ何か力について分かってくるかもしれないね…。」


そうやって3人で力や代償について話していると少し遠くから奏を呼ぶ声が聞こえた。

それに反応して奏が声の方に顔を向けるとそこにはビースカッシュの人達がこちらに手を振っていた。


「奏っちー!さっき言った約束は絶対やからねー!また一緒にライブしよやー!いつでも連絡おくれ!」


カナがそう言い残すと、とても楽しそうで満足気にビースカッシュの面々は自分達のバンに乗り込んで去っていった。

その様子を見ていた凛桜は、願いの力を使ったと聞いてからあまり元気が無かった奏に声を掛ける。


「あの人達が奏を助けてくれたのは絶対に願いの力だけじゃないと思う。あんなに楽しそうだったんだもん。あの人達を動かしたのは紛れもなく奏の音楽の力だよ。」


それを聞いた奏は照れくさそうに笑いながら1人で歩き出す。そして凛桜の方に振り返りながら自信に満ちた顔で、


「だよね!すっっごく気持ち良かったし楽しかったもん!あれは何かに作られた偽物じゃなかった!さぁ!マリアさんの奢りでお疲れ様会に行こう!」


そうやってスタスタ1人で歩いていく奏を凛桜達は追いかける。

夜のネオンに照らされながら歩く奏の後ろ姿はとてもキラキラ輝いていた。その先の夢を叶えるためにただ真っ直ぐ歩むかのように。



同時刻、雪が根城にしている雑居ビルの一室に謙信がやって来た。

ドアを開けて入ってきた謙信に対して雪は何の反応も見せずに三角座りで膝に顔を埋めたままである。


「雪。一体どうした?凛桜様と接触はしたのか?」


「………………。」


謙信の問いに雪は答えない。


「羽山が怪しい動きをしていてな、それに伴ってかなりややこしい連中も動き出している。百合様はあえて羽山を泳がせているがこうなってはただの障害にしかならない。急いで凛桜様を連れ戻すぞ。」


「………………。」


ピクリとも動かずいつもと全く違う雰囲気の雪に謙信は眉をひそめる。


「おい雪。何があった?」


「あのさ…」


雪は力の籠もっていない小さな声で少しずつ言葉を漏らしだした。


「雪は……どこから来たの……?本当に雪とお兄ちゃんは兄妹なの?小さい頃の記憶がないから分かんないよ…。なんで雪は人を殺したりしてるんだろ?悪い事だよね…?そんな悪い子にあの女の人は優しく頭を撫でてくれたんだ…。自分を刺した人に何の曇りもなく笑いかけれると思う?そうしたら別の女の人の顔が浮かんで…頭が割れそうになって…。」


謙信は雪の苦しそうな訴えを聞くと、座っている雪の前で片膝をついて座る。

そして雪の頭に手を乗せてできるだけ落ち着いた声で雪に語りかける。


「お前と俺は紛れもない兄妹だ。それはお前も分かっているだろう。ずっと一緒に神代のために働いてきたじゃないか。お前は繊細だから心に傷を負うと昔からこうなる。」


そして謙信はスーツのポケットから一錠の白い錠剤を取り出す。


「ほら、これを飲め。頭痛に聞く薬だ。村を出てから1度も飲んでいなかっただろう。」


薬と聞くと雪はゆっくりと顔をあげる。

その顔には生気が通ってるようには見えず、虚ろな目を謙信の手の先に向ける。

そして何も言わずに謙信の持つ薬を口の中に入れて水も無しにゴクリと飲み込んだ。

するとガクリとまた頭を下げるが、しばらくすると小さく「ククク…」と笑いながら肩が小刻みに揺れ動く。

そしてゆっくりゆっくり横に揺れながら立ち上がると、勢い良く顔を天井に向けて『アハハハハハ!!』と大声で笑い出した。


「あははははは!!ごめんねお兄ちゃん!!雪ちゃんは柄にもなくノスタルジックに浸っていたみたいです!こんな事になったのもあの女のせいだ…。あいつを探して殺さないとまたおかしくなっちゃうよ…。」


「そうか。元に戻ったなら良かった。俺も羽山の周りを探った後に凛桜様を連れ戻す手伝いをしよう。それまでは派手な動きはするなよ。」


「どうかな?どうかなどうかなどうかな??雪ちゃんはあの女…たしか『アマネ』って呼ばれてたかな…?あいつに会ったら我慢できるかな!?どうかな!?」


薬を飲んでから顔を紅潮させながら狂ったように感情を撒き散らす雪を謙信は抱きしめながら諭す。


「もう少しだけここで我慢するんだ。神代のためだとかではなく、俺のためにだ。」


「うんうんうんうん。分かったよ…お兄ちゃん…。」


すると雪は落ち着きを少し取り戻し、謙信の腕の中で『スースー』と寝息を立てて眠りについた。

そして謙信はゆっくりと携帯を取り出して百合に報告をする。


「もしもし、雪の洗脳が解けかけていました。今は狂薬きょうやくのおかげでなんとかなりましたがこのままでは神代に害をなしてしまうかと…。」


「そうですか…。判断はあなたに任せますので。いざという時は分かっていますね?」


「………はい。」


謙信は雪の寝顔を見ながらそう返事をすると電話を切った。

そして悲しさで顔を歪めながら謙信は呟く。


待雪草まつゆきそう…別名はスノードロップだったか…。花言葉に『あなたの死を望む』という意味がある不吉な花。そこから取って付けられたのが『せつ』という名だったな…。どこまでも不幸で哀れな子だ…。」


謙信は雪を汚れたソファーの上へと抱きかかえて運び寝かせる。その横には飲み物と食べ物を置く。


寝ながら涙を流している雪を見るが、無表情でクルリと踵を返して謙信は闇の中へと姿を消した。

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