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第17話 守りたいモノ

(なんで!?なんでこんな時に!!)


奏は突然切れた伴奏に頭の中は大混乱になっていた。

自分の弾いているギターだけは止めないようにしながら音響ブースの方を見るが真っ暗で何も見えない。


(どうする…。一体どうすれば…!)


その時奏は先程の舞台袖で見た瑠璃の不気味に思えた笑った顔を思い出す。『トラブルがなければいいけど』と、瑠璃はそう言っていた気がする。


(あいつ!まさかこんな事まで!)


奏の演奏していたオリジナル曲の『run up!』は伴奏の重厚さが醍醐味になっていて、それが必要不可欠な要素だった。

このままこの曲を続けていても、この盛り下がりかけた会場をどうする事もできないと考えた奏は自分の大好きなアヴリルの曲を弾くと決めた。

みんなの知っている有名どころの曲ならまだ可能性があると思ったからだ。


(本当は歌詞の内容は恋愛についてだけど、この選択が良き結果を生むようにと願いを込めて…!)


そしてさっきまでとはまったく違う曲調のギターが会場を包む。奏が選んだ曲は『My Happy Ending』という曲だった。

この曲ならソロで弾き語り調に演奏しても違和感は無いと踏んだが、サビではどうしてもパワーダウンしてしまう。

案の定、観客はザワつくのを止めて聴いてはくれているみたいだがさっきまでの曲とのノリの差があり過ぎて戸惑っているように見える。


何が起きたかよく分かっていない凛桜の横ではマリアが苦渋の表情をしている。

このままでは確実に負けてしまうと感じていたからだ。

マリアは自分にできる事は何かないかと必死で考える。そしてたった一つ方法がある事に気が付き、そのまま凛桜を引っ張って会場から出てトイレの方へと向かう。

急に何も言われず引っ張られた凛桜は驚いていた。息も整ったのでどうしたのかとマリアに聞こうとした瞬間だった。

マリアはキョロキョロと辺りを見回して近くに人が居ないことを確認する。


「凛桜!!あんた願いを叶えられるんだよね!?」


「えっ!?そうですけど…。」


「じゃああたしの願いを叶えなさい!」


「で!でも!それには代償が必要になるのでマリアさんにどんな事が起きるのか分からず危険です!」


「そんなもんどうだっていいわ!!奏が人の何倍も努力する姿を1番近くでずっと見守ってきた!歌手として生きていくって理由も知ってる!あの子が歌手として大成するってのがあたしの夢なのよ!!そのためならなんだってする!!あの子はこんなトラブルなんかで終わっていい才能じゃないの!!」


凛桜の両肩に手を乗せて必死でマリアは訴える。

その両目からは今にも零れ落ちそうな涙を溜めて。

マリアの気持ちが凛桜の心に深く深く刺さった。そして自分も同じ気持ちだと気付く。


「分かりました…。私も同じ気持ちです。自分で願いが叶えれるなら願っている程に…。だから、マリアさんの支払う代償は私もどんな方法を使ってでも共有します!覚悟が決まったら私の手を握って願いを強く想って下さい。」


凛桜の手を握り、涙を流しながらニコリと『ありがとう』というマリア。

そして目を瞑り、マリアは心に強く想う。


(奏がちゃんとこのオーディションを終えれるように…あの子の夢があたしの夢だから!!)


それと同時に2人の繋がれた手が光り出す。しかしいつもと違うのは白色ではなく桜色に発光したということだった。

光が消え、凛桜はその現象に疑問を持った。


「あれ?光の色がいつもと違ったような…。」


「どういうこと!?失敗したの!?」


「わ、分かりません!私の勘違いだったのかも…。」


「とりあえず戻るわよ!」


そして急いで凛桜とマリアが会場内に戻ると舞台の上では1人で一生懸命アヴリルを歌う奏の姿があった。

会場はさっきと変わらず微妙な空気である。


「何も…変わってない…。時間ももう残り2分ぐらいしかない…。」


マリアが願いが通じなかった事にへたり込みそうになったその時、舞台袖から3人の人影が舞台上に現れた。

ギターを持った男性、ドラムに座る男性、ベースを持った女性だった。そしてその3人はザワつく会場を気にもとめずに楽器の準備に取りかかる。

奏は必死に歌っていたため、自分の後ろで行われている事に気がついていない。


凛桜達の前にいた人が『あれさ、ビースカッシュとちゃう?』と漏らしたのを聞いて舞台をよく見てみると、確かにあれはさっき演奏していたビースカッシュのメンバーだった。


舞台上ではビースカッシュの3人が目配せをし合い、奏の演奏にタイミングよく合わせて曲に参加してきた。

それにビックリした奏は後ろを振り向くと、ビースカッシュのメンバーはサムズアップをしながら『気にせず演奏を続けろ』と言葉無く伝えてきた。


訳も分からず状況を掴めていない奏だったが、妙にこの状況が楽しくなってきて前を向き、曲の大サビを最高のパフォーマンスで観客にぶつけた。


それを見た会場は目の前で起きている事を理解したのか、『おおぉぉぉぉ!!!』とこの日最大の盛り上がりをみせる。

本当はライバルのはずの相手を助け合うその姿は、演奏されている曲の雰囲気もあってか感動をみんなに与えていた。


「良かった…本当に良かった…。」


そう言いながら顔を両手で覆いながら泣くマリアを横から凛桜が抱きしめ、同じく顔には涙が流れる。


そして最後の最後で逆転の盛り上がりを見せた奏の曲が終わった。

会場からは割れんばかりの拍手と歓声が飛び交う。

その中、MCが小走りで舞台に現れると今の状況を説明しだした。


「えー!みなさんちょっと静かにして聞いて下さい!奏さんの演奏中に音響が止まった理由は音響ブースのメインコードが抜けていた事が原因であったようで、これは我々運営側の責任である事を謝罪いたします。よって、ルール上は関係のない人間が飛び入りで参加することは禁止にしていますが、奏さんとビースカッシュさんのパフォーマンスが最高だった件も含め、ルール違反はしていない事とします!」


それを聞いた観客はワーーッと奏やビースカッシュに改めて称賛を送った。

奏は深くお辞儀をしてから舞台袖に向かう。

そこにはすでに戻っていたビースカッシュのメンバーがいた。奏はすぐに駆け寄り、さっきのお礼を伝える。


「ほんっっとうにありがとうございました!!九死に一生を得たっす!!」


「ええよええよ!なんとかでけへんか3人で悩んでたら急にアヴリルの曲をやりだしたからさ。丁度あの曲は俺らもベースのカナをボーカルにしてカバーでやってた事あってん。ちょっと躊躇ったけど『いってまえ!』って思ってな!足引っ張る結果にならんで良かったわ!」


ビースカッシュのギターボーカル兼リーダーのケンジが奏の体をバンバン叩きながら大きく笑う。

それを止めながらベースのカナが奏に、


「奏ちゃんやっけ?コラボめっちゃ楽しかったからまたやろうな!約束やで!!」


それに『はい!!』と元気良く答えた奏はビースカッシュの面々と携帯番号を交換してその場を終える。

本当はヴァルキリアフェスという大舞台の出場をかけたライバルなのに、手を差し伸べ助けてくれたビースカッシュに最大の感謝を込めて奏はお辞儀をした。

その横を瑠璃が何も言わずに通り過ぎ、舞台の方へと歩いていく。


「瑠璃!よくもやってくれたな!」


「何のこと?」


「しらばっくれないで!あんたが裏で糸引いてるんでしょ!」


「さっきのトラブルの事だったら私は知らないから。あんな事しないでもあなたには負けない自信があるから。」


そう言い残し舞台へ向かう瑠璃。

そして瑠璃はリハーサル通りオリジナル曲を披露した。

さっきのトラブルからの共闘という熱い展開は、次に舞台に立つ人間にとっては決してプラスになる空気ではなかったが、そんな事をものともせずに、瑠璃はその類稀なる歌唱力で会場の空気を自分の物にした。


その後は順調にオーディションライブは進行して、大盛況のままその幕を閉じた。

オーディションの投票結果は次の日の正午に公式HPにて発表されるようだった。


ライブを終えて奏が会場を出ると凛桜とマリアが手を振って『こっちこっち!』と呼んでくれた。


奏が2人のそばまで行くと、2人とも表情がどことなくぎこちない笑顔だった。

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