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第16話 夢を叶えるための試練

凛桜はマリアと共に会場に入り、できるだけ舞台に近い前列の方を目指した。


「ごめ〜ん!ちょっと通してねぇ〜!」


そう言いながらデカい身体をくねらせながらマリアはどんどん前へと進んでいく。

イカつい巨漢のオネエを恐れて誰も何も言わずに大人しく道を開けていく。

その後ろをついていっている凛桜ですらオネエモードのマリアに慣れていないので軽く恐怖を覚えていた。

後方からの入場だったのに最前列一歩手前まで来れたのは上出来な結果だった。

観客は1000人近く動員されており、こんな人ごみが生まれて初めての凛桜は少々息苦しかった。

その息苦しさは決して隣にいるマリアのせいではないと自分に言い聞かせる。


しばらくすると会場でアナウンスが流れる。

それの内容は今回のオーディションのシステムについてだった。


・観客の投票の仕方はスマホからサイトにアクセスすると各出演者の一覧がライブの出演順で記載されており、名前をクリックすると『○と✕』の項目があるのでどちらかを選ぶ。

・○を選んだならその出演者に1票が投じられる事となり、1票につき1点加算されていく。

・5名の審査員については1人につき100点とする。

・以上によって出演者は、観客1000名の1000点と審査員5名の500点を合わせた最大1500点を満点とする。


この説明を聞いた凛桜はまだスマホを持っていなかったのでガクリと肩を落とした。

しかし、横にいたマリアが鞄から1台のスマホを取り出し凛桜に渡す。


「中古やけどこのスマホあげるからこれ使いなさい。投票とか関係なくあんたはスマホを持っていたほうが良いと思ってたから持ってきてたの。とりあえず投票ページは開いといてあげるから詳しい使い方は帰ってから奏に教えてもらいな。」


「マリアさ〜ん、ありがとうございますぅ〜。」


凛桜は目をウルウルさせながらマリアに感謝を伝える。

そしてアナウンスも全て終わり、照明が全て消えて会場が暗闇に包まれる。するとたった1つのスポットライトが舞台を照らすとMCの人が現れて場を仕切りだした。

自己紹介と審査員の紹介が終わるとそのMCは力をグッと溜めてから盛り上げるようにこう叫ぶ。


「それではおまたせしました!!ヴァルキリアフェス!!オーディションライブ!!スタートです!!!!」


『うぉぉぉぉぉ!!!!』と地鳴りのような歓声と共に観客も大きな盛り上がりを見せてライブはスタートした。

そしてライブが始まるとどの出演者も会場を大いに盛り上げ、加速度的に熱気が高まっていく。

揉みくちゃにされそうになる凛桜をマリアが後ろから抱きかかえるように守る。

必要以上に激しくぶつかってくる輩にはオネエの眼力で威嚇しながらである。

何も知らない凛桜は怖がっているのではないかとマリアが心配して顔をチラリと覗くと、子供のようなキラキラとした目で楽しそうにライブを見ていた。


「マリアさん!!私!!凄く楽しいです!!今まで生きてきた中で1番!!」


凛桜が心底楽しそうにそう言うものだから、凛桜から聞いた神代の話など辛かった彼女の過去を思うと親心からか胸にグッときて目に涙を溜める。


「マリアさん…大丈夫ですか?」


「大丈夫よ!オネエは少し涙脆いだけよ!!」


そうやって楽しいのは良いのだが、マリアはライブが進むにつれて一抹の不安を抱えていた。

どのバンドもソロも『レベルが非常に高い』というのは当たり前なのだが、踏んできたであろう場数と経験値が奏とは比べものにならない差があった。

奏もライブに積極的に参加をしている事は知っていたがそれでも届かない差だ。

これはライブオーディションでは致命的な弱点になってしまう。


そんな事をマリアが考えていると、奏の順番の1つ手前のビースカッシュのライブが始まった。

そのライブはここに来て最高潮の盛り上がりを見せる。ビースカッシュは10分弱の間に3曲を途切れること無く上手く繋ぎ合わせた曲で攻めてきていたのだ。

この盛り上がりはソロの奏にとってはかなりやりにくい空気になるのは分かりきっていた。


(いや…大丈夫…。あたしは奏の才能を1番信じている…。あの子の夢はあたしの夢でもある。もしこのオーディションがダメでも、どんな事があろうともあたしはあの子の夢を応援し、支えてみせる。)


マリアがそんな事を考えていたら不安の色が顔に出ていたのか、それに気付いた凛桜は心配そうにマリアを見る。


「マリアさん、本当に大丈夫ですか?」


「あ、うん!大丈夫よ!凛桜はどう?奏が心配?」


「心配はしてないです!だって、ここまで色んな人の音楽を聞きましたけど、奏の歌声を初めて聞いた時の衝撃を越えるものはありませんでしたから!」


凛桜の純粋に奏を信じ切っている目を見ているとマリアの不安も徐々に消えていった。


「そうよね!大丈夫よね!あっ!ほら奏の番が始まるわよ!」


ビースカッシュのライブが終わった後、MCが次の奏の紹介をする。

それを舞台袖から見ていた奏は目を閉じ集中する。思っていたより緊張していない自分に安心する。

しかし、それを邪魔するかのように奏の次に控える瑠璃が話しかけてきた。


「頑張ってね、奏。なんのトラブルもなく終わればいいわね。」


「一体なんのこと?今から最高のライブを見せてあげるからそこで見とけよ!」


不気味な事を言う瑠璃を気にしないよう、奏は1歩前へと踏み出し舞台の中心へ向かう。

観客側は暗くてあまり見えないため凛桜達の姿を見つけることはできなかった。

しかしこのどこかに凛桜達がいると感じると胸の奥底から勇気が湧いてくるのが分かる。

準備と覚悟ができたので奏は合図として右手を軽く挙げる。

それと同時にスピーカーから曲のイントロが流れ、すぐにそれに乗っかって奏のギター音が静寂だった観客の空気を吹き飛ばす。

一気に舞台上を照らす照明、それに照らし出される笑顔で楽しそうに激しくギターを弾く奏の姿。


無名のソロの女の子が突然予想外のガーリーなミクスチャーロックをかましてくるものだから観客は否が応でも自然と身体が激しく暴れ出す。


「出だしは完璧よ!!ここで奏の歌声が乗っかれば!!やったれ奏!!」


マリアが両手を挙げながら全力で応援の声を飛ばす。

そして奏の歌声が会場に放たれた瞬間、その歌声に聴き惚れて観客側の空気が一瞬止まったかと思われたその時!より一層大きな盛り上がりの波となり会場全体に伝わっていく。

これにはマリアと凛桜もガッツポーズをする。

奏の曲が、歌があのヴァルキリアフェスのオーディションでも通用している。

微動だにしていなかった審査員も座りながら身体を揺らして奏の曲を楽しんでいるように見える。


そして曲のサビに入り、あのビースカッシュが見せた盛り上がりを超えようとしていたその時!


       『ブツンッ…!』


と、鈍い音と共に伴奏の音楽は消え、スピーカーから流れるのは奏の歌声とギターの音のみになってしまった。

踊り暴れていた観客も異変に気付いて動きを止める。そしてザワザワと嫌な空気が流れだした。

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