第15話 才能が集まる場所
ライブハウス内ではオーディションに向けて続々とリハーサルが行われていく。
本番での各組の持ち時間は楽器などの準備の段階から曲の終わりまでの10分間のみ。
このリハーサルを上手くこなしていないと、本番でのちょっとしたミスが取り返しのつかない事になる。
奏の演奏順は25組中の20番目だった。
LIVEの順番的には良くもなく悪くもなくといった感じで、最初の方の出番だと組を重ねる毎に印象は薄くなり、後になればなるほど観客にも疲れが見えてくる。その点だけ見れば奏は後ろの順番で観客の疲れを吹き飛ばす方が得意だったので良かった。
問題は奏の前後でLIVEを行う面子だった。
奏の1つ前に演奏するのは関西のインディーズ界隈では有名なスリーピースのメロコアバンド『ビースカッシュ』で、彼らの曲はスリーピースとは思えない重厚感のあるサウンドを武器に観客側をモッシュの嵐へと変貌させる。(モッシュとは観客が音楽に身を任せて無造作に体を動かし、ダイブなどを決めたりする事)
そして奏の後に控えているのは先程出くわした東條 瑠璃であった。
正直歌唱力では今の所は瑠璃には敵わないと思っている奏にとっては凄く嫌な相手だった。
ライバルはそれだけではなかった。
リハーサルをホールから見ていたらよく分かったが、無名の人達も並大抵の才能ではない。
ヴァルキリアフェスを目指し、選考を勝ち上がってきた者達に楽勝で勝てそうな相手は1組も存在しなかった。
そしてビースカッシュの文句のつけようのない演奏が終わり、奏の順番が回ってくる。
奏は音源を音響の人に渡して説明をしたあと、舞台の上へと上がる。
ギターのコードをアンプに繋ぐ時、自分の中のスイッチが切り替わるのが分かる。
ギターを最高の状態に調整してマイクの前に立つ。
「お願いします。」
奏が音響にそう伝えるとオリジナル曲『run up!』の前奏が始まった。
ドラムもベースもギターも全て自分で演奏して打ち込んだものである。
準備をしていた段階から高まってきていた気持ちが一気に最高地点へと達する。
先程まで他のリハーサルを聞いて少し弱気になっていた自分はいつの間にか消え去っていた。
(全員この曲聴いて驚きやがれ!!無名の女のソロだと思って舐めてるだろ!!あたしが1番だって事を思い知らせてやる!!)
そんな傲慢とも思える気持ちを込めて歌声に乗せる。
見ていた出演者全員は度肝を抜かれた顔で、奏の思い通りに驚きを隠せていなかった。
まさかソロの女性がこんなゴリゴリのミクスチャーロックをかましてくるなんて微塵も無かったからだ。
奏の曲はメロは重ためなサウンドだがサビでは一気にアップテンポになり、観客が思わずテンションを上げてしまう作りになっている。
なによりロックに愛されているかのような絶妙なハスキーボイスに嫌でも耳を傾けてしまう。
3分強の曲が終わると暗い客席側から『お〜』と感嘆の声がチラホラと聞こえた。
(やっぱ歌ってる時が1番気持ち良いや。)
リハーサルとは思えない量の汗を流しながら奏は舞台裏へとハケる。
その時次の順番の瑠璃にすれ違いざまに声をかけられる。
「相変わらずの音楽だね。私はフェス向きのジャンルじゃないけど歌唱力で全員ねじ伏せてみせる。」
「あっそ、あたしは自分とみんなが最大限に盛り上がってくれれば何でも良いよ。きっとそれが勝利に繋がるって信じてるから…。」
そうやって軽く会話を交わすと瑠璃は舞台の光の中へ溶け込んでいった。
瑠璃は楽器は演奏しないのか手ぶらでマイクの前に立つと、目を瞑り一度だけ小さく深呼吸をした後『お願いします』と合図を送る。
始まった曲は今までリハーサルしてきた組の中でもダントツでスローテンポで大人しい緩やかな曲調だった。
アコースティックギターがメインの旋律に瑠璃の歌声が混じり合う。
やはり歌唱力は他の追随を許さないレベルであった。
バラードのような雰囲気だと思っていたが段々とベースやドラムの音が大きくなってくると自然と身体が縦にゆっくり揺れる。
そしてメロで溜め込んだ力がサビで一気に解放される。歌の上手さ、抑揚の取れたバランスの良い曲の流れ、それらはFergieのBig Girls Dont Cryを彷彿とさせる。
歌い終わった瑠璃は静かにお辞儀をして舞台を降りていった。
ロックだらけの中で場違いな曲と思わせない素晴らしいリハーサルに、全員ねじ伏せると言った言葉に偽りなどなかった。
だが、圧倒的な歌唱力と完成度の高い曲を前に奏は臆するといった感覚は無く、『絶対に勝つ』と、ただそれだけを思い本番に胸高鳴らせるのであった。
一方、開場時間を待っている凛桜の元にマリアが遠くから手を振りながら『凛桜〜!』と近付いてくる。
凛桜は違和感を覚える。近付いてくるその姿はいつもの坊主頭ではなく、何故か金髪の長い髪が風になびいている。服装もワンピースにヒールと女性らしいファッションをしており、顔が見えてくるとバッチリ濃い目の化粧をしていた。
だが決して美しくないその姿に凛桜は困惑の色を隠せなかった。
「おまたせ〜!今日はハジけるわよぉ〜!」
「あ…あははは…。今日は凄くお綺麗ですね…。」
「あんたね、嘘と愛想笑いがヘタクソ過ぎるのよ。シバくわよ。」
「ご…ごめんなさい…。」
テンションの高いオネエが来たことによって周りの視線が少しだけ痛かった。
開場時間が来たので並んでいた列はどんどんライブハウス内に入っていく。
「な、なんか何もかも初めてなので凄く緊張してきました…。奏は大丈夫かな…。」
「あいつなら大丈夫!!と、言いたいとこだけど…。さっき出場者のラインナップ見たけどとんでもなくレベルの高い面々だったわ。」
「マリアさんは詳しいんですか?」
「アタシは元々音楽プロデューサーでご飯食べてたからね。そこそこ詳しいわよ。まぁ奏なら上位5組には入れるわよ!あの子の才能はまだまだ成長するからね!アタシの目に狂いはないのよ!」
そうやって凛桜はマリアから色々解説をされながら会場に入っていった。
自分をこんなワクワクするような世界に連れてきてくれた奏を全力で応援するために。
追われる立場だという事を一時忘れてしまいながら…。




