第14話 ヴァルキリアフェス
『ヴァルキリアフェス』
それは毎年夏にアメリカで開催されている音楽の祭典であり、3日間で観客動員数50万から60万人は軽く超えるモンスターフェスである。
世界的に見ても野外フェスの最高峰に位置付けされている。
ヴァルキリアフェスは5年に一度だけアメリカではなく他国で開催されるのが通例となっており、今回の開催地は日本に白羽の矢が立ったのである。
しかし、日本においてはロックというジャンルの低迷化が不安視されており、今回はオーディション枠を設けて新進気鋭の無名アーティストを発掘する企画が並行で行われ、ヴァルキリアフェスを盛り上げるための措置がとられたのだ。
まずは書類と自分で歌ったオリジナル、あるいはカバーの音源で審査が行われ、それを通過した者はLIVE形式の審査へと駒を進めることができる。
LIVEでの審査は北海道、東京、愛知、大阪、福岡と全国5か所で行われ、勝者は観客と審査員の投票によって決められたそれぞれの会場の上位5組がFINALへと駒を進める。
奏の部屋でヴァルキリアフェスについて奏が凛桜にザックリと説明をする。
「へ〜、そんなにすごいお祭りがあるんだね。その初めの審査を通ったなんて奏の歌はやっぱりすごいんだね!」
「まだまだこんなとこで終わってたら夢を諦めないといけなくなるからこれからなんだよなぁ…。LIVE審査用の曲は打ち込みも全部終わってるし後はどれだけ観客や審査員に音を伝えれるかに懸かってる。」
そして奏はギターを弾きながら英語の歌詞を口ずさむ。
それはスローテンポながらも力強さがあり、往年のミクスチャーロックを思わせる激しさも持ち合わせている曲だった。
何より奏の女の子らしい可愛さも残したハスキーがかった声は素人が聞いても天性の物だと分かるぐらい際立っていた。
凛桜はこういうジャンルの曲を聴くのは初めてだったが自然と身体が縦に揺れる感覚がとても感情を高ぶらせる。
ジャーンと締めのギター音と共に曲が終わる。
「なんか色んな事が起こり過ぎたけど、あたしは絶対にこのオーディションを制してヴァルキリアフェスの舞台に立ってやるんだ…。だから凛桜…その間はごめんね。しばらくはフェスのために集中する時間が増えるかも…。」
「私の事は全然気にしないで大丈夫!!雪さんもあの調子じゃまたすぐに襲ってくるって事はないと思うし…。奏は奏の夢を叶えるために頑張ってほしい!」
この言葉は凛桜の強がりなどではなかった。
奏に出会い、そしてそれがきっかけでマリアとアマネとも出会い。
その出会いは確実に凛桜の心を強くしていた。
こんな時ほど神宿の手の力で自分の願いを叶えることができればいいのにと凛桜は思う。
『何の邪魔が入ること無く、無事に奏のLIVEが成功しますように』と…。
そしてその願いが通じたのか雪の襲撃などの邪魔が入ることなく無事にLIVE審査当日がやって来た。
LIVE会場は心斎橋にある『BIG DOG』というライブハウスで行われる。
そこは中型の広さで、若手の登竜門としてもよく名前が挙がる有名なライブハウスである。
奏達が到着すると、恐らく同じオーディションを受けるであろうギターケース担いだりしたバンドマン達が大勢いた。
「うわーー!奏みたいな人達がいっぱいいるよ!」
「全員ライバルだからね。やっぱバンドでの参加がほとんどみたいだなぁ…。やっぱ見た目のインパクトではバンドが有利だろうしあたしは歌唱力と表現力で戦うしかないかな。」
奏が周りにこれでもかと睨みを効かせる。が、ほとんどの人はそんなもの気にもとめていなかった。
そんな時、奏達は後ろからエラそうな口調で声をかけられる。
「奏!久しぶりだね。あんたもこのオーディションに参加するんだ。」
奏が振り向くとそこには黒髪の姫カットをした上品そうな女の人が立っていた。
すると先程までこちらを気にもしていなかった周りの人達もその女の人を見るとザワザワとしだしている。
奏もその人を見る目は一層鋭さを増す。
「瑠璃…。やっぱいたんだ。」
奏が瑠璃と呼ぶその女の人は名前を『東條 瑠璃』と言い。
現在日本でもトップクラスの歌唱力を持ち、様々なジャンルの歌を歌いこなす超有名アーティスト『東條 真央』の娘でもある。
奏が大阪で音楽活動をしていると度々LIVEなどで会う様になり、いつしかお互いをライバル視するようになっていたのだった。
「今回のオーディションは私が優勝して必ずヴァルキリアフェスの切符を手に入れるからね。奏、あなたには絶対に負けないから。」
「そっくりそのまま返すよ。」
「生意気言えるのは今の内だからね。私はこのオーディションで七光りとか陰口叩く奴ら全員黙らせる。母である東條 真央を必ず越えてみせるから!」
瑠璃は凄まじい決意を秘めた目で熱くそう語り、ツカツカと会場の方に歩いて行ってしまった。
その目には憎悪に近い黒い光がユラユラと光っているようにも見えた。
「なんか…綺麗だけど凄く怖そうな人だったね…。奏のライバルなの?」
「ライブハウスなんかでよく会うようになってからなにかとイチャモンつけられるようになったんだよ…。でも…ライバルっちゃライバルかな。歌はとてつもなく上手い。さすが日本が誇る歌姫の娘だよ。まぁ2世だとか母親と比べられる事にかなりコンプレックス持ってるみたいだけどね。」
2人がそんな話をしていると周りの人達がどんどん会場入りしていく。
奏が時計をみるともうすぐリハーサルの時間だった。
「あっ!もう行かなきゃ!そしたらまた後でね!ここでもう少し待ってたらマリアさんが来るはずだから、開演時間になったら中に入ればいいよ。応援よろしくね!」
「分かったよ!絶対に奏が勝ち上がる事を祈ってるね!」
そう言うと奏はリハーサルへと向かっていった。
凛桜は堂々と会場に向かう奏の背中を見ていたが彼女から緊張や不安などは全く見えなかった。
そして奏の憧れのヴァルキリアフェスへの道が今始まる。
その道を進むためにはこの先様々な試練が奏達を待ち受けているとも知らずに。




