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第11話 絡みだす糸

凛桜達が新しく仕事を始めてから何事もなく3日ほど経ったある日、羽山が所属している民進党本部では…。


「羽山さんはこんな時に一体どこに行ったんだ!?」


本部内に三嶋の怒号が飛ぶ。

それに対して申し訳なさそうに羽山の秘書が答える。


「関西の方に用事があると昨日出ていきましたが…。」


「関西だと!?まさかまたあの場所に行ったんじゃないだろうな…。」


羽山の裏金問題などが世に出てしまい、大混乱の中三嶋は1人頭を抱えている。

このままでは党内での羽山派の求心力は落ちてしまい、自分もこの先政治家として登り詰めるのが非常に難しくなるからだ。

羽山が体調不良で会見を開けない、国会に出席できない、という嘘ももう限界に近付いていた。


(このままでは僕の夢もここで終わってしまう…なんとか無理矢理にでも羽山をこちらに引きずり戻さなければ…。)


三嶋は心の中でそう決意をして、急いで自分も関西方面に向かうのだった。



一方その頃、神代村の『ハカナバナの社』内にて、百合と謙信が向かい合い、凛桜達について話をしている所だった。


「落雷がこの社を直撃していなくて良かったですね。被害は母屋の一部だけだったので修復も先程終わりました。落ち着いたようなので私も雪の後を追うことにします。」


「GPSの信号が最後に途切れたのは大阪でしたね?」


「そのようです、発信装置に気付いた凛桜様が壊した可能性があります。」


まさか味方の雪が勢いで壊してしまったとは謙信も思っていなかった。

『それでは…』と謙信が立ち上がろうとした時、社の扉が外から開けられる。

そこには黒子衆の男と、その後ろに羽山が控えていた。

羽山の顔は怒りで大きく歪んでいるように見える。


「連絡がありました羽山様をお連れいたしました。」


それだけ伝えて黒子衆の男は去っていく。

怒りにまみれた羽山とは違い、百合が笑顔を作りながら羽山に話しかける。


「あらあら、羽山様。また遠路はるばるご苦労様です。」


「何がご苦労様だ!!お前達のせいでとんでもない事になったぞ!!これが願いの代償というのならば話が違うぞ!!」


ズカズカと靴のまま社に入ってくる羽山に百合は冷静に言葉を返す。


「まずは落ち着いて話をされたらどうですか?靴を脱ぎ、ハカナバナノカミ様に敬意を払わなければまた良からぬ事が起きるやもしれませんよ。」


脅しまがいの百合の言葉に羽山は少し怯む。羽山が御神体を見ると自分を睨んでいるようにも感じた。

そこで素直に入り口に戻り羽山は靴を脱いだ。

それを見届けた百合が話を進める。


「羽山様の言う代償がどうかとかは私達には分かりかねます。何故なら今この神代村に願いを叶えた張本人の凛桜はおりませんので…。」


「なら早くあの娘をここに連れてこい!!もう一度願いを叶えさせろ!!」


「凛桜が居れば呼ぶのですが…、先程申し上げた通り凛桜は村にいないのです。この村から出ていってしまったので…。」


「なんだと!?どこだ!?どこにいる!?」


ここまで話を進めて百合は口元を隠す。計算通りに事が進んでいるのが嬉しくて不気味に笑った口を羽山に見せないためだ。


「凛桜は今大阪の難波周辺にいるというのは分かっているのですが…。」


「それは本当か!?」


羽山はその情報を聞き、頭の中でこの窮地に陥った自分が助かる方法を必死で考える。


(大阪ならすぐに向かえるな…、それならこいつらより早くあの娘を捕まえてもう一度願いを叶えさせたら良い…。いや、一度と言わずに娘をこちらで監禁してこの先もずっと利用すればいいじゃないか…。難波周辺なら『奴ら』も使えるしな…。)


最低な計画を頭の中で組み立てた羽山は素直に踵を返した。


「百合さん、突然押し入って怒鳴って悪かった…。この辺で私は失礼するよ。」


「そうですか。それではまたうちの者に送らせますので。また何かあればお尋ね下さい。」


そう言いながら百合は三つ指をついて羽山を見送る。

それを羽山は見向きもせずに足早に社を出ていった。悪意に満ちた表情を浮かべながら…。


一連の流れを見聞きしていた謙信は百合に疑問を投げかける。


「よろしかったのですか?あの様な者に凛桜様の居場所を教えて…。」


「良いのです。凛桜を探すのに人手が増えるのは…。いくら謙信と雪がいるとはいえ、私達は表立って行動するのはなるべく控えなければなりませんしね。使えるものは使わせてもらいましょう。」


「分かりました。万が一、奴らが凛桜様を傷つけることがないように私も急いで大阪に向かいます。」


そう言い残し謙信は社を出ていった。

1人になった百合は古びた本を懐から出して開く。

その本を切ない目で見つめながら一言こぼした。


「古からずっと紡がれてきた私達神代の願いを…あの子は終わらせる事ができるのでしょうかね…?」


その言葉にハカナバナノカミの御神体は答えることもなく、社の中を静寂が包んでいく。



また場所は変わってアマネのお店でアルバイト中の凛桜達。

コンカフェで働くつもりなんて微塵もなかったのに、何故か働かされている奏が疲れた顔で愚痴をこぼしている。


「あたしは関係ないのになんで4連勤もしてんのよ…。オーディションの曲を作らないとなのに…。」


「ごめんね奏…、私がまだ慣れてないから付き合ってもらって…。」


そう控室で休憩をしながら話をしている2人にアマネが声をかけにきた。

凛桜達を推しているお客さんが来たので呼びに来たのだ。


「ごめんねー!また佐々木さんがご来店されたから奏ちゃんと凛桜ちゃんお願いね!」


「またっすか!?3日連続だし、今日なんかもう2回目ですよ!?」


「2人がお気に入りみたいやね!特に奏ちゃんの歌声にベタ惚れしてるって!」


50代前半の少し太り気味の佐々木というお客は、これといって嫌な事もない良客なのだが、コンカフェで働く気のない奏にとっては、自分の歌声を気に入ってくれる嬉しさよりもちょっとだけウンザリする気持ちの方が大きかった。


「うぃっす…トイレに行ったらすぐに行きます…。」


「私も奏をフォローするから頑張ろう!!」


肩を落としながらトイレに向かう奏を待たず、先に凛桜が佐々木の席へと向かう。


「おかえりなさいませご主人様!」


初日はおどおどして恥ずかしがっていた凛桜だが、今となっては上手に挨拶ができるようになっていた。

すると佐々木は体を軽くくねらせながら凛桜に絡む。


「りおりお〜!奏ちゃんがチェキは絶対に撮らせてくれないんだけどどうにかならないかなぁ!?」


「奏ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからもう少し時間かけたらきっと撮らせてもらえますよ!!私も協力します!!」


そうやって凛桜が精一杯フォローしていると、突然佐々木が凛桜の手を握ってきた。

お触り厳禁のお店なので急いで佐々木の手を振り払おうとするが、その前にとんでもない事が起きてしまった。


「りおりお〜!奏ちゃんのチェキが欲しい!!今日中に欲しい!!お願い!!」


佐々木がそう言った瞬間!


佐々木と凛桜の繋がれた手が白く光り出した。佐々木の発言が願いとなり、神宿の手の力が発動してしまったのだ。

その光景をトイレから出てきた奏が驚きの顔で見る。


「嘘でしょ!凛桜!!」


そして白い光は一層強く輝いたあと、スーッと収束して消えていった。

それを見ていた周りもその魔法のような出来事にざわついている。

願った張本人の佐々木が1番驚いているようだ。


「りおりおはマジシャンかなにかなんかな…??」


そのセリフを聞いた奏が急いで佐々木と周りの人達に嘘で誤魔化した説明をする。


「そうなんですよー!なんとりおりおはマジシャンが好き過ぎてたまにこんなマジックをしちゃうんですよー!ねー!?そうだよねー!凛桜!」


思わず力を使ってしまって呆然としている凛桜にオーバーに大きな声で話を振る奏。

それに気づいた凛桜が目を覚まし慌てて『う、うん!』と返事をした。


なんとか佐々木を含めた全員納得はしてくれたみたいだった。

手を握ってしまった佐々木はアマネに『お触りしたら出禁にするよ!』とこっぴどく怒られる。

コテンパンに怒られた佐々木は涙目で謝ってきたので凛桜はその行為を許してあげた。


その後、マジックのアンコールをみんながしてきたがあれやこれやと理由を付けて断った。

奏のフォローもあって神宿の手についてはバレずに済んで凛桜はホッと胸を撫でおろす。




だが、力が発動した時刻。

アマネの店から1キロほど離れた公園にいた雪は異変を感じたのか、羅針盤を急いでポケットから取り出す。

そして、先程までは微動だにしていなかった羅針盤がカタカタと音をたてている。急いで微かに動く羅針盤の蓋を雪は開けた。

するとその羅針盤の針は凛桜達がいるアマネのお店の方向を真っ直ぐ指していた。


それを確認した雪は嬉しさと高揚感で高らかに笑った。


「あははははは!!やっと力使ってくれたんだぁ!!!待っててねー!!雪がすぐに向かいますからねーー!!!」

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