第五話 型落ちなりの戦い方
そうして始まってしまった試験一日目の夜。森から樹の実を回収し終えていたルードベドとラルは、帰る途中で空前見つけた洞窟らしき場所で疲れを取っていた。
ルードベドは、紺碧の空に金色に輝いている月を見上げる。静かな夜。それは、その近くに誰もいないことを示していた。彼はふぅ。とため息を吐いて、リラックスする。体に溜まっていた疲労を、脱力することで万が一に備えることができながらも、疲れを取ることに成功していた。
「大丈夫なの?」
横になっていたラルが、不意に聞いてきた。なぜラルが横に慣れているか。それは、ルードベドが一人で見張り役をやるといい出したからである。そしてそれをいい出したのは、やはり男子集団との戦いによって感じた、己の力の無さ以外の何物でもなかった。
「安心してくれ。一応これでも、そこそこの奴らの相手ぐらいはできる。だから、お前はゆっくり休んでいてくれ。最高戦力に、いざという時に全開じゃなくて負けた。とか言われたら、俺も退学だからな」
ルードベドは振り向かずに外の方を見たまま、語る。
そっか。とだけ言って、ラルはまた眠りについた。寝るのはやすぎだろ。と、そう思ったが、敵の捜索に勤しむことにした。
そうして、見張り役以外誰も起きていないであろう時間帯になり、第一関門はクリアしたと。ルードベドは安心した。
彼の脳内で構成された2つの関門。その一つを突破することができた。しかし、最大の壁は、第二関門だった。そう、ここからは、闇討ちが行われる時間帯。そして、それを行うものは強者のみ。故に、ルードベドは先程よりも集中した。
集中してからちょっとした時の出来事だった。ほんのりわずか。誰かが潜伏スキルを使ってこちらに忍び寄っている事を察知したルードベドは、身体強化を行い、その場所につくと同時に、不意打ちで気絶させる予定だった。しかし、そいつはいとも容易くルードベドの拳を止めた。
雲に隠れた月がまた姿を現し、そいつを照らす事によって、その正体があらわになる。
「あら。睡眠毒を解除されたから、ずっと探していたのだけれど」
そうして、現時点でのルードベドの警戒対象の中でも、最も警戒せねばならない人物。エルラは、小さな毒針を持ちながら、音速を超えるであろう速度で辺りを走り回る。
攻撃をどこから仕掛けてくるか。ルードベドは、彼女の姿を、強化された目で追いながらも、その事を念頭に置いていた。
瞬間、背後からおぞましいほどの殺気を、ルードベドは感じた。命の危機を感じた彼は、限界まで体をよじることで、それを回避した。
だが、一瞬の隙すら見せたら、終わりと言わんばかりの連続攻撃により、防戦一方になる。ルードベドは、必死に回避しながら、エルラの行動パターンを予測していく。
流石は元アサシン。一つ一つの攻撃に、隙なんてなにもない。それどころか、ルードベドは徐々に押されていた。
「どうしたの?まさか、身体強化しか、貴方はできないの?だとしたら、期待外れだわ。あなたが一番、経過すべき対象だと思っていたのに。こんな程度なんて」
彼女の言葉に、ルードベドはスルーを決め込み、ただひたすら避け続ける。
彼女は、なぜ彼がこんなに弱いのかと、苛立った。攻撃の威力が高くなっていく。しかし、それと同時に、攻撃一つ一つの制度が徐々に落ちていくのを、ルードベドは見逃さなかった。
スキル発動の用意をする。彼がずっと伺っていたチャンスが来たことにより、元無敗の勇者は、このスキルを使って逆転する以外の事象なんて、起こるはずもなかった。
彼女の毒針があとちょっとでも動かしでもしたら、ルードベドに当たるのではないかと思えるほどの距離になった瞬間、彼は思いっきり目を開け、スキルを発動させた。
「カウンター!!」
カウンター。それは、ただのカウンタースキル。彼が道中で習得した、ある国限定のスキルだ。故に、カウンタースキルを極めているやつらより劣っていたとしても、エルラに対しては十分な有効打だった。
エルラは予想外の一手に困惑し、行動が曖昧になる。その間に、カウンタースキルを発動したルードベドは彼女から毒針を奪って見せた。
残す武器は手のみ。最期の抵抗を続けるのかと彼は思ったが、彼女は降伏の意を示した。
「降参だわ。流石といっておいてあげる。やっぱり、私の目に狂いはなかった。バッジは渡す。その代わり、私を見逃してちょうだい」
「分かった」
彼女の提案を拒否するわけもなく、ルードベドはそう答えた。彼女は手のひらからにバッジを乗せ、それを差し出してきた。
それに触れかけたルードベドは、身体強化で強化した腕で、彼女を気絶させた。
しかし、彼女は気絶はしなかった。エルラは悔しそうにこちらを睨む。それは、いつもこの手口で欺いてきた彼女の初めての失敗を暗示していた。
「どうしてこの手口がわかったの?」
「わかりやすいんだよ」
ルードベドは、静かに答えた。そして、言葉を紡ぎ出す。
「お前は、前に一度だけ、俺にその手口を使ったことがある。だから、今回もそうなんじゃないか?って、なんとなく思っただけだ。だけど結果的に俺はお前の策略を打ち破った。ただそれだけだよ」
すると彼女は、小さく笑った。
「本当に、さすがとしかいいようがないわね。あなたの名前は?」
そう聞いてくるエルラに、ルードベドは疑問をいだいた。
エルラには、彼はヒロ。と言っておいたはずなのに。だが現状、エルラは彼に名前を聞いていた。
「言っただろ、俺の名前はヒロだ」
「嘘ね。私は戦闘だけじゃなくて対話術も心得ていてね。嘘をついているかどうかなんて一瞬でわかるのよ。さあ、本当の名前を言ってちょうだい」
ルードべドは応えるのを渋ったが、彼が放った攻撃によって、どうせエルラは試験終了まで眠ったままの状態なる。そして、不合格の託印を押される。つまり、本名を言ったところでもう出会うことなんてない。なら、言ってもいいんじゃないのか?そう思った彼は、その名前を口にした。
「エルラ・ルードべド。無敗の勇者と言われた、型落ち勇者だ」
と。
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