第四話 ラルとルードベドとの差
「それで、君の名前は?」
先程からルードベドを主と呼び続け、近づいてくる少女に彼は名前を問うことにした。
「ラルだよ!」
そういって、ラルは元気よく答えた。
そうかそうか。と、ルードベドはラルの頭を撫でて、そこをどいてくれないか?と言ったのだが、ダメ!!と一周された。どうして馬乗り状態になってるんだろう?と考えたが、その考えは捨てることにし、馬乗り状態を解除することも諦めた。
しかし、彼は一つだけ諦めていないことがあった。そしてルードベドは、それを問う。
「なんで、俺を主って呼ぶの?」
「だって、主と一緒の匂いがするんだもん!!」
あ〜。そういうことね。と、彼は納得した。
実はラルは、ルードベドが旅をしている道中で助けられた貧民街出身の女の子だった。もちろん、それに恩義を感じないわけがない。昔からルードベドのパーティに加わりたい。そして、憧れだった。故に、彼女は彼を「主」と敬称するようになった。
しかし、彼はその真意を汲み取ることはできず、ただの変態だと断定付けた。
そんな、旗から見たらイチャイチャをしているようにしか見えない状況を、大勢の男らが彼らを囲むことによって破壊された。
ルードベドは瞬時にラルをどかし、男子生徒とラルの射線を切るべく、手を水平に置いた。冷や汗が、彼の頬を伝う。しかし、男子たちは冷や汗一つつかずに、冷静だった。
「バッジをよこせ。今なら痛い目をさせないでやるよ」
男子軍のリーダー格とも思える一人の男が、一歩前にでて言った。後ろの奴らは笑い、その言葉が嘘であることを示していた。
「残念だが、断らさせてもらう」
それに気づいたルードベドは、その提案を断った。それは、負けたくないという、いつもの彼が持っている執念とは違うものだった。
それは、ただ単に、ここで負けたらあの勇者になんて絶対勝てない。という焦燥だった。
男はチっ。と舌打ちをして、やれ。と一言だけ言った。すると、四方八方から男子生徒が襲いかかってくる。
「行けるか?」
ルードベドは、念の為ラルに問う。
「大丈夫!!」
元気に返事を返すラルに彼は安心を覚え、眼の前にいる敵だけに集中する。
魔力を全体に流す。そして、簡易的な身体強化を行い、彼らめがけて突っ込んでいく。一般人であれば、適当に突っ込んでいくだけの博打戦法。しかし、彼の動きには、何年も戦ってきた経験が糧となっていた。その御蔭か、結局はEクラスに判別されそうな生徒が何人集まろうとも、彼の敵ではなかった。
それでも、型落ち勇者。一人ひとりを倒していくのに、かなりの時間を浪費していた。そしてそれと同時に、体力を消耗していた。
その反対方向。ラルは杖を取り出し、彼らめがけて杖を突き出した。
「ロベリア!!」
瞬間、クレーターが一つ出来上がる。そしてその中心では、さっきまでラルに襲いかかってきていた男子全員が、倒れてタワー状になって積み重なっていた。
ラルはふぅ。と言って、額に浮き出た汗を袖を使って拭う。彼女の周りには、もう敵など誰一人としていなかった。
圧倒的無双。しかし、彼女からしたらこれは当然のことに過ぎなかった。だって、彼女は推薦枠として、この学園に来た優等生なのだから。
主はどうなったかな?と素朴な疑問を持った彼女は、振り向く。そしてそこには、男子生徒に対して苦戦を強いられている、ルードベドの姿があった。
ルードベドは攻撃を一撃一撃丁寧に回避し、着実に一撃を入れて気絶させていく。しかし、押し寄せるその数に対応しきれずに攻撃速度やありとあらゆる工夫をするが、それも無意味と化するほど飛来する攻撃。
彼はできる限りフィジカルを鍛えようと、そう思っていた。しかし、それらに対応しきれないことを察したため、魔法を発動することを決めた。
魔力を、手に集中する。押し寄せる男子。しかし、距離があるからか、まだ集中を続ける。そうして魔力が手に集中し、魔法を発動する事が可能になった瞬間、彼は大きく目を見開き、魔法を繰り出す。
「ロベリア!!」
その言葉と同時に、ラルほどでないが、小さなクレーター1つ分の大きな穴がそこに現れた。ふぅ。と、ルードベドは安堵の声を漏らした。しかし、ラルの跡地を見てしまった。
「流石は我が主!!まるで先代勇者ルードベドみたい!!」
いつもなら喜んでいたはずの称賛の声も、今の彼にとっては、それはある意味の皮肉だった。なんせ、自分よりも優れてイル人物に、すごい。と称賛されていたのだから。
改めて、ルードベドは己の力の無さを知った。
しかし、そんな事も知らずにラルは見てみて!!と飛び跳ねながらも、タワー状のそれを指さした。
「はいはい」
そういって、ルードベドは微笑して彼女の方へ向かう。
彼は、その道中、拳を強く握りしめた。きっとそれは、憧れだと言ってくれたラルより劣っていた自分に対する怒りにほかならなかった。悔しい。なにが違う?装備を来ていないから?でもやっぱり、世代が違うから?
考えてはいけない嫌な思考が、頭にこびりついて離れない。それもそうなのだ。なぜなら、次の魔王を倒せない限り、おそらく彼の勇者としてのキャリアは、終わりを迎えるから。そして当人も、それを知っていた。
不安でいっぱいになった心を安心するかのように、ラルのそれを見終わったあと、ルードベドが倒した男子生徒からバッジを奪っていく。
そして、手に余りそうな程の数になったバッジを、彼は、嬉しそうにポケットにしまった。
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