第二話 ローシュ
凡人がいつも寝ているベッドよりも一回り大きなベッドの中で、ルードべドは目を覚ました。
手を見て、若返っていることを再確認する。窓から差し込む温かな日差しが、余計に目覚めを良くしてくれていたのか?と、ふと彼は疑問に思った。
新生勇者の登場。それによって、ルードべドのキャリアは終わりを迎えつつあった。国に帰ってくるなり、ルードべドは死んだと、国民が騒いでいた。
だが、それよりも新生勇者のほうにスポットライトは集まっており、そんな話をする国民なんて、ほんの数人しかいなかった。
だが、今日を持って、彼は生まれ変わる。
今日は、アルベナが言っていたローシュの入学試験の日。この日。ルードべドの合否によって、彼のこれからの人生が左右するのだ。それ故、彼は今まで以上に緊張していた。
深く息を吸い、ゆっくりと息を吐いた。そして。ルードべドは決意を固めた。
「さて、行こうか」
いつもなら他愛のない会話を繰り広げる時間がもうないせいか、ルードべドは早めに外に出ることにした。
ああ。きっとずっと狭いと感じてきた部屋が、今日に限って広いと感じてしまったのは、そのせいなんだな。と、彼は思った。
ローシュ学園。それは、各国から魔法。妖術。スキル。剣術。いろんな物を極めた者たちが集まる世界最高峰の学園と言われた場所。そんなところで、凡人ルードべドは生まれ変わる。そして、また勇者として返り咲く。
そう、彼女と約束したから。
彼は転移魔法を発動する。発動している間、彼は空を見上げ、いい朝だ。と思った。それはまるで、ほのかな日が自分を応援してくれているのではないかと、そう思わせるほどに。
ルードベドは、今まで装備し続け、傷がたくさんついている装備を家においていった。それは、彼がもう装備に頼らないという意志を固めるための行為だった。故に、彼は現在半袖の黒いTシャツの上に膝まで伸びた半袖で、薄手のコートを身にまとっていた。
そうして、ルードベドは転移魔法でローシュのところまでいくのだった。
ルードベドは、これまでに幾度となく旅を続け、いろんな建物を見てきた。和風建築と呼ばれるものや、扉がなく、高床式の住居になっているところもあった。そして、道中にあった学園も見てきた。
しかし、そんな建物すら超える。いや、比べるのもおこがましいと思わせるほどの、壮大で、華やかな。細部にまでお金を費やしたと、一度見たらわかるほどの建造物が、そこにはあった。
「すごいな。通りでみんなが来たがるわけだ」
ルードベドは、あまりの規模の大きさに声を漏らした。
しかし、それ以外にも、彼を唸らせる要素が、あちこちに点在していた。
まずは人の数。それは、前行ったことのある、大きな村住人の2倍ほどの人数がいた。そして、その個々から滲み出る魔力。そして、その雰囲気だった。だれもかれもが、真剣な眼差しで、緊張していた。
やっぱり、緊張するよな。と、他にも仲間がいたためか、彼はホッ。と胸に手を置き、安堵した。
いつ試験が始まるのかと少し彼が疑問に思っていると、大衆の前に、一人の女性が現れた。
女性の名は、クルッセ・ヘルム。猫目で黄色い目を持つ、ウェーブの掛かった白髪の女性である。
彼女は、この学園の学園長をしており、魔法。スキル。ありとあらゆる面で最強だと、名高い人物だった。
ルードベドはそれを知っていた。そしてそれ故、視線がクルッセに釘付けになっていたのは、彼一人だった。
「これより、私、クルッセ・ヘルムが、第一次試験の詳細を解説する。まずは戦闘系の皆」
彼女は懐から金色のバッジのような物を取り出した。
そのバッジは、精巧に作られており、ローシュ学園のものと一瞬で判断がつくように真ん中に特有のデザインが書かれていた。
「このバッジを、後でお前達に一個ずつ配る。舞台は無人島。時間は無制限としよう。だが、ある生徒がこのバッジを10個集めた時点で終了とする。また、このバッジは試験開始から終了まで、人のバッジを奪うことができる。そしてその個数に応じて、クラス分けをしようと思う。もちろん、試験の間はゼロでも、奪って一個手に入れられたら、合格にする。だが、もし試験終了時点でバッジの数がゼロだった場合....」
ルードベドは、つばを飲み込んだ。いや、大衆全員が、次に発せられる言葉に恐怖しながら、つばを飲み込んだのだ。
そして、クルッセは口を開け、大衆にその悲惨な現実を告げるのだった。
「その場で失格とさせてもらおう」
そういって、しばらく見せていたそのバッジを、さっきまでバッジを入れていたポケットに戻した。
その後も、殺しは禁止。装備のとっかえっこもなし。など、細かなルールが言われながらも、この学園の教師と思われる人たちが、大衆のうちの一人にバッジを配っていたが、そんな事は気にもとめず、強者になるであろう人物以外は、全員、さっきの言葉で余計に緊張が高まっていた。
そしてそれは、彼も例外ではなかった。お陰で、説明される前も早く鼓動していた心臓が、より早く鼓動していた。
彼は、冷静な判断ができなくなっていた。
もしかしたら落ちるかもしれない。そんな不安とともに、あの時を思い出す。魔王に敗北し、型落ちやおっさんと言われたあの時を。しかし、彼は首を何度も強く首を横に振ることで、それを振り切った。
「それじゃあ、説明は以上だ。他に質問があるやつはいるか?」
クルッセの言葉に応えるものは、誰もいなかった。
「今からすこしの休憩時間がある。そしてその後、試験を開始する。せいぜい、この休憩時間を有意義に使うのだぞ」
そう最期に意味深な言葉を発して、彼女は校舎に入っていった。
休憩時間。ルードベドは、気を紛らわすためにも、はぁ。といって、ため息を吐いた。
辺りを見渡す。彼と同じようにため息を吐くもの。魔法の確認をするもの。なんか杖に抱きついてスリスリしている変態。また、仲間を作るものもいた。
仲間なんて作っても、どうせ最後は蹴落とし合いが始まるだけだ。意味がない。と、哀愁の意を込めた視線を彼が送っていると、一人の女が、彼に話しかけてきた。
「あなた、毒はお好き?」
と。
もしこの物語が面白い、続きが見たい。と思った方は評価して頂けると幸いです。何卒よろしくお願いします