第十三話 焦燥と不安。そして恐怖
「戦い方を変えろと言われても、今からじゃ難しいですよ」
自分のことは自分が一番よくわかっていると言わんばかりの口調で、ルードべドはダミアに反論した。
また、彼の脳内は別のことで頭がいっぱいになっていた。
ルードべドは、これまでに否定されたことがなかった。この戦い方を。そしてなによりも、自己流で鍛えたこの戦い方を、気に入っていた。そしてそんな今、初めてその戦い方を拒絶された。
「ああ。たしかにそうだな。だが、それをやってのけてこそ、勇者になる一歩に繋がる。お前はその一歩を、見逃していいのか?」
誇りと返り咲くための一歩。どちらかと問われれば、ルードべドはすかさず返り咲くための一歩を取る。故に、ルードべドは、喪失感を見せないようにできる限り平静を装いながら、答えた。
「新しい一歩です」
「そうだよな。なら、お前はこれからどうする?たった一人で新しい戦い方を学ぶのか?」
指導する人物がいない中、一人で新しい戦い方を学ぶ。それは、戦い方すらなにも知らないルードべドにとって、なかなかに酷なことだった。
そこでルードべドは、ダミアに懇願するように言った。
「俺を、鍛えてくれませんかっ!」
勢いよく地面に頭を激突させたせいか、頭に少量の血が流れた。しかし、そんなもの構わずといったところだろうか。ルードべドは、頭を下げたまま、返答を待っていた。
ダミアははぁ。とため息を吐いて腰をかがめ、ルードべドの若緑色の髪を、優しく撫でた。
「いいだろう。その代わり、早朝に特訓をするだろうが、構わないよな?」
「もちろんです。ビシバシ俺をしごいてください。先生!」
「ああ。元からそのつもりだ」
フッ。と鼻で笑い、ダミアはルードべドに背中を見せたまま、振り向くことなく、無言で手を振った。
その直後、ルードべドの視界に、まばゆい閃光が入る。
何者かの攻撃かと、警戒態勢をとるが、その閃光の正体は朝日だった。そう、ルードべドとダミアの戦闘とはなしによって、気づけば、とっくに夜は終わりを告げていた。
憂鬱な気分になりながら、ルードべドはヒョウの部屋を開け、その場でゴロンと寝転がった。
なにも考えずにぼーっとするのが、ルードべドの日課であった。だがしかし、今日はその日課は達成できそうになかった。
いろいろな考えが、思い出されてはどこかに消えていく。良くない考えを振り払っては、また湧いてくる。
「主、どうしたの?そんな落ち込んだ顔して、誰かになにかされたの?」
突然だった。純白の天井しか映し出されるしかないであろう彼の視界には、寝ぼけながらも彼の心配をしてくれている健気な少女、ラルが映っていた。
「特に、なにもないさ。ところで、なんでお前起きてんだ?」
深い付き合いではないから。と心のなかで割り切り、苦痛を胸の奥にそっとしまいながら、彼はラルに聞いた。
「だって、もう朝だよ?」
うだつが上がらなく、ゆっくりと、彼は移動せずにちらりとそのとの景色を眺めた。すると、そこには大勢の生徒達が、学園に向かって歩いていったり、飛んでいたりするではないか。
そんなに妄想していたのか。と、ルードべドは思いながら少し急ぎめで支度を始め、ラルといっしょに登校するのだった。
ヒョウがあるおかげで学園には遅刻せず、遅刻グセがあるルードべドは一命ととりとめた。
場所はBクラス。大勢が真剣な顔で担任を待っている中、ルードべドとラルは腑抜けた顔でぼーっとしていた。
「あ〜、眠いい〜」
机に飛びつくかのように、ダミアとの戦闘によって蓄積された疲労と眠気を覚ますべく、彼は思い切り体を伸ばした。一方でラルは特になにもせず、ずっとあさってのほうを向いているだけである。
なにをしてんだか。と、ルードべドがツッコミを入れたときだった。
ガラリ。と扉が横にズレ、扉を開けた人物がクリアに映し出される。だが、それをせずとも、ルードべドは誰なのかを知っていた。
その男は全員が見える位置で歩を止め、口を開けた。
「俺の名前はダミア・ルスフェル。お前達Bクラスの担任をすることになった。よろしく」
はたから見ればただ名乗っただけ。だが、その場にいるものは臆していた。彼の魔力量とその圧に。
普段ならよろしくなんてらしくもないと、鼻で笑っていた生徒なんて、その場に誰一人としていなかった。
「早速で悪いんだが、1ヶ月後に抜き打ちテストを行う。それも今度はトーナメント戦だ。これなら、ズルをしてこの学園に入ってきた人物を暴き出すことができるだろう?まあただ、それは戦闘系の話だ。サポート系の生徒はその精度で試させてもらう。いいな?」
皆がざわざわとどよめき出す。
中には自信たっぷりに、来いよと言わんばかりの生徒。また、試験形式が一対一だということに絶望する生徒。しかし、ルードべドはその2つにも属していなかった。彼はただ単に不安で仕方がなかった。
「そういうわけだから、お前達。死に物狂いで鍛錬をするんだな」
その日は、これから授業を受けようと言う気には、ルードべドは到底なれなかった。
彼が思っていたのはただ一つ。どう勝つか。それだけだった。




