崩落 〜いや、こんなん現実になるなんて思ってないですやん〜④
「他になんか危なくなさそうなスキル持ってる人居る?」
この一言から嵜本達はとりあえず危険性の無さそうな名前のスキルだけ報告し合うことにした。
「とりあえず舞元さんの自動地図生成と俺のガチャ以外で誰か他にある?」
「俺のは多分大丈夫だと思う。」
「言ってみて…ゴクリ。」
「なんでそんな下がるのさ…戦場向上曲って名前なんだけど大丈夫だよね?漢字に曲って入ってるしなんか演奏か歌うかしなければよっぽど大丈夫だと思ったんだけど。」
「まぁ、そういう感じなら大丈夫か。ゲームとかアニメなら味方を強くする系のバッファー的なスキルだと思うし。」
ひとまずは篠田の二の舞にならなくて安心する嵜本。他には誰か居ないか確認しようとした矢先に怒号が飛ぶ。
「なぁ!いい加減にどうするか決めてくれるか!?」
「楠さん…それを決めるために今話し合ってんの聞いてなかったんですか?」
「じゃあかしい!年下の癖に他人を纏めあげようとするな!ここはもう現場じゃないんだお前に従う義理なんか無い!」
楠猛62歳。人の事を常に性別と年齢で差別し周囲には常に高圧的な態度で萎縮させ回っているいわば老害のような人物。
普段の職場でも特に嵜本が扱いに困っている内の一人だ。
「別に義理とかは確かにないんで楠さんがまとめてくれても別にいいですよ?ただ誰もやらないから必然的に俺がやっていだけであって。」
「なんで俺がそんなことやらなあかんのだ!ただなぁお前に上から目線でものを言われるのが腹立つって言ってんだ!」
「ちゃんと会話してくれます?今は日常とは違うんですよ俺らは!変な洞窟みたいな所にいてスキルとか訳の分からんのがあってこの今目の前にある道でさえ前後にある道のどっちに進めば正解かなんてわかりゃしないんですよ!?」
「黙れ!グダグダ言わんとさっさと決めて進めや!」
「なんでさっきからなんにも言ってこなかったような人に急に文句言われな…」
「いい加減にしろ!!」
「…ッチ!」
「…ごめん。」
篠田からのお叱りに少し反省する嵜本と諌められたこと自体に更にイラつく楠。両者は放っておけば一触即発の可能性がある所まで来ていた。
「とにかくなんも決めんなら俺は俺で勝手にさせてもらうわ!ついて来たい奴は勝手に着いてこい!」
そう言い放ち前の道を1人で進んでいく楠。それを追いかける人物が1人いた。
「じゃあ、私も楠さんの方に行きます。集団行動をとる時に私がいたらきっと邪魔ですよね?だから、私はあっちに行ってきます。」
平本良樹57歳。集団行動を嫌いなるべく少数派に行こうとする特異な人物である。
「はぁ…またそれ?もう勝手にすれば?」
「ははは…それでは。」
こうして当初居たメンバーから2人が崩落後から目覚めてわずか約15分程で単独行動を取るという事態になってしまったが正直篠田や曽江木からしたら何時もの性格を考えれば妥当だと感じていたところだった。
「さて、悩みの種は勝手に向こうからどっか行ってくれたし!こっちも本格的な作戦会議と行きますか!」
後に嵜本は語る。
この時のこの洞窟のいや、もう既に迷宮として定義しようか。この迷宮の攻略会議第一回目がその後の運命を大きく分けたと。