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追放ですか? いえ、放逐です 4

「?」

 後方から声が掛けられた。ついと声の方を向く光一。

「森田さん……」

 声の主は、召喚時に光一に対して「空想と現実を一緒にするな」と戒めた男――森田剛志だった。

「いつまで駄弁ってるの? もう修練の時間よ!」

 その横からも諫める声。同じく「オタクってホントにそんな事……」と光一を見下すような言い方をした女――三石喜代子である。

「あ、もうそんな時間。すみません、すぐ行きます!」

「じゃあね、由美。また会いましょ! 東くんも!」

 和沙や卓らは時折り振り返り、こちらに手を振りつつ修練場へ向かって行った。光一や由美も、彼らが廊下を曲がって姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「また会いましょうか。いい気なものね」

「え?」

 三石の言葉に首を傾げる由美。

「俺たちはこのトリアーノ王国の救国に携わる特戦隊員なんだ。もはや君たちとは格が違うんだよ」

 更に森田が続く。

「か、格って……」

「あの子達から聞いたでしょうけど、あたしたちは貴族待遇を与えられた選ばれた戦士なの。弾かれたあなたたちがおいそれと会える立場じゃないのよ」

「あ? 何だよ、その言い方。旧知の友達と会うのに何が格だよ?」

 二人の言い分にムシっと来る光一、由美。ほぼほぼ条件反射で言い返してしまう。

「分からないのか? 君たちは落ちこぼれの平民扱いなんだよ。だから城からも追い出されるんじゃないか。そんな連中が王族に告ぐ身分の俺たちと対等に付き合るとでも?」

「な!」

 坊主が屏風に上手に絵を描いたような上から目線に、光一たちだけではなく川井や田辺も眉を顰めた。だが平蔵や良介、安藤は「やれやれ」と面倒くさそうな顔に。

 それを尻目に三石は、上目に加えて、

「お互い、元の世界には帰れないのよ? なら、今はそれぞれに与えられた状況に合わせなけりゃ将来は無いわ。あなたちが、あの子たちに余計なこと吹き込んでもらっちゃ困るのヨ! ハッキリ言って、任務の邪魔なの!」

まるでお受験に関係ない交友・娯楽の一切の排除を目論む教育ママさんを彷彿とさせる言い回しで光一らに畳み込んだ。

「そんな言い方!」

 友人たちへの思いを否定された由美は当然のごとく食い下がろうとした。しかし、

「!?」

由美は安藤に肩を叩かれ、制止された。

 安藤の目は「言っても無駄だよ」と諭しているようだった。

「さすが年長は身の程ってもんが分かっているようだな。これに懲りたら今後は……」

「あれぇ~? まだここに居たのぉ~」

 森田が最後の憎まれ口を(のたま)いかけたところ、奥から女の声が響いた。

「若い子呼びに行って自分らまで駄弁ってちゃダメじゃ~ン?」

「恵理子さん……」

「省吾くん……」

 声の主はあの勇者の称号を持つ、今回の召喚儀式の目玉である浜本省吾と、その彼と連れ立っていた戸塚恵理子だった。

「あんたらまで、なんで?」

「立場は変わっても同じ召喚されたモン同士だろ? 袖振り合うも他生の縁って言うし、特戦隊の長としちゃ挨拶くらいは、な?」

「そろそろみんな集まってるよ~。行こまい行こまい!」

 軽いノリっぽく恵理子に促され、森田たちは舌打ちしながら修練場へ向かって行った。

「気分悪くしたらごめんね~。なぁんかあの二人、ずっと機嫌悪くてぇ」

「助かったよ。僕たちが消えるまで嫌味言い続けられるのかと思ったし」

「背中向けても罵詈雑言、浴びせられそうだったっすねぇ」

 と、平蔵・良介が愛想笑いしながら。

「でも嫌な感じだったわねぇ~。お払い箱のあたしたちと違って待遇もいいのに、何かギスギスして余裕ない感じ~?」

「そこの少年のせいかな?」

 恵理子が含みの有りそうな笑顔で光一を見た。

「え? おれ?」

「ほらぁ、きみが異世界召喚だって口走った時に思いっきり馬鹿にしてたじゃん、あの二人ぃ。でも実際はそれが正解でさぁ、オタク高校生ごときの判断力に負けてメンツ潰れたとか思ってんのかなぁ?」

「え~? そんな事ぉ~?」

 由美が唇を尖がらせながらブー垂れ。

 ――いや、お前も俺の事、しっかり罵倒してましたやん?

「おまけに序列一番の勇者が省吾だったじゃ~ン? 上官、つーかリーダーが歳下とかぁ? 気に入らないらしくてさぁ」

「ま、訓練して時間経っていけばそんな逆恨みも消えてくれねぇかな? とは思ってるんだけどな」

「勇者さまも楽じゃ無いっすね?」

 良介の、軽さと皮肉っぽさも交えた労いの言葉に省吾、思わず「全くな」と苦笑。

「詰まるところ、行くも引くも苦労の色が違うだけなんだろうなぁ。まあ、さっきの話じゃないけど俺たちゃ何らかの縁があってこうなったワケでさ。もしも何かあったらいつでも訪ねて来なよ。逆に俺たちがあんた方を頼る事も有るだろうしさ」

 省吾と恵理子の気遣いに、光一や由美は今までの険悪な空気が一気に吹き飛んだ気がした。人格まで勇者っすか? 光一は思わず口走りそうになった。

「それでは、わしらも行くとしますか?」

 安藤の呼びかけに一同が頷いた。

 光一と由美は、森田・三石のおかげで最悪の出立になりかけたところを救われた思いだった。

「省吾、省吾。あたしらも行こうか?」

「ああ。じゃあ皆さん、どうかお達者で」

 最後のあいさつを交わしながら光一たちと省吾らはそれぞれの場所に進んだ。

 だがそこで、

「…………」

最後尾の平蔵がふと、歩みを止めて後ろを振り返った。省吾と恵理子はすでに城の奥に消えていたが平蔵はしばし、そこを見つめ続けていた。

「どうかしたっすか、後藤さん?」

「ん?」

 良介に尋ねられ、目線を戻す平蔵。そして、

「ああ、いや、何でも無いよ。行こか?」

良介の言葉を流しながら姿勢を正し直した。

 一行は付随した役人の案内を受け、王宮の正門から城下町へと歩を進めていった。

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