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追放ですか? いえ、放逐です 3

 更に中途半端な能力ゆえの戦力外通告。昂った気持ちに一気に冷水をぶっかけられた形であり、彼らの方にもそれなりの理があるか、などと今一度、冷静に現状を考え直す事が出来たのは紛れもない事実であった。

「やはり足並みを揃えると言う点で、無理強いは良い結果を生まないであろうと言う事で……」

「大体、俺たちの能力だって大した事は無いんだろ? あんたらが最も欲したのはえーと、浜本省吾とか言ったか? 『勇者』の称号を持ったあいつなんだろうしさ」

 そう。今回の召喚魔法陣は、一端の戦士・魔導士に比べても桁外れの戦闘能力を誇る勇者の素質を持つ異世界人と、彼と行動を共にしているであろう取巻きの有能者を探索・引き連れて来ると言う図式だったそうな。

 周辺の者は勇者と一緒に行動している、それなりの潜在能力を持つ者であろうと言う、こちらの世界の常識を勝手に当て嵌めて十把一絡げ宜しく一気に召喚しようとしたのだ。

 結果、電車一両分が纏めて呼ばれてしまったと……今回の件は、はた迷惑、なんて生易しい言葉では言い表せないほどいい加減でエゴ丸出しな召喚術だったようだ。まあ、そもそも異世界からの召喚なんて真似自体が、エゴ以外の何物でもないわけだが。

「今後、皆様にはこちらの衣類等、この世界の支度品と多少の金子を支給させて頂きます。加えてこの国の都市・町村ならば、全て無税で入場できる身分証も。これは王室発行の証明書ですので他国へ行く時でも旅券代わりに使えます」

「どこへでも消えてくれって事かな~?」

 ご機嫌が爆弾低気圧な由美は、皮肉を込めるだけ込めた口調で言った。

 平蔵も応じて、

「別段、こちらに危害が及ぶ能力も無い。敵に寝返ったとしても大した戦力でも無いってんじゃ、要職・雑役問わず宮廷に置いとく理由も無いってとこだねぇ」

などと醒めた口調で纏めた。


      ♦


 翌日、光一はじめ追放組8人は王宮から出立するため、通用門に向かった。

 その場には光一や由美の、そして真鈴の同級生も見送りに来てくれていた。

「由美……まさか、こんな事になるなんて……」

 和沙が由美との別れを惜しんだ。異世界に召喚だけでもとんでもない話であるのに一方的な戦力外通告。そんな宮廷魔導士らの沙汰に和沙らも納得がいかないと言いたげだが、今の彼女らにはどうしようもない。

「ホント災難だよね。まあ、こんな世界に召喚されること自体が災難だけどな」

「でもひどいよな。勝手に呼んでおいて今更お払い箱とかさぁ」

 同じく見送りに来た卓や隆司も二人の心境を気遣った。

「うん。みんなと離れるのは不安だけど……他の人の足、引っ張っちゃ申し訳ないしね~。納得するつもりだよ~」

「一応、多少の支度金とか自活できる手当はしてくれたし。追放モノみたく、ハズレだから殺処分、とかじゃないだけマシかもって考えるようにしてるよ」

「相変わらずオタ脳だな?」

 ぷ!

 卓の茶目っ気に皆が軽く噴き出した。

「オタ言ーな!」

「もし能力覚醒しても、頼むからこっちにザマァ仕掛けに来ないでくれよ? 俺たちが追い出す訳じゃないからな?」

「そういう『追放とザマァはセット』的な発想しながら、よくもヒトの事をオタがどうとか言えるな、あ~ん? てかザマァとか抜きにして、これから大変なのは寧ろお前たちだもんな。俺たちより魔力もスキルも戦闘向きとは言え、命がけの作戦(ミッション)なわけだし」

「その分、待遇は文句無しだからな。お前と一緒に楽しめないのは残念だよ。そう、楽しむって言やぁよ……」

 隆司はちょいと由美らと距離を取って、肩に手を廻して光一の左耳元で囁いた。如何にも女子に聞かれまいと声を潜めて、

「あまり大きな声じゃ言えねぇんだけどな?」

「ふん?」

「担当の付き人がよ、耳元でコッソリよ~」

「ふんふん?」

「『女が欲しい時は手配するから、そんな時は一言、声を掛けてくれ』とか言ってくれやがってよぉ」

「な! マジか!」

思わず目を大きく開く光一。学生らしく清く正しい男女交際を旨としていた(笑)光一ら童貞軍団にとって人権無視で召喚された対価としては、すこぶる得心のいく気配りだと感じざるを得ない。

「いや~、下手に宮廷内の侍女や、そこら辺の街娘とかに手ぇ出されるより出自や所属のしっかりしたのを宛がった方が、病気や間諜(スパイ)のハニトラ除け対策にもなるって事らしいがよぉ~」

 卓も、これまた反対側の肩に手を廻し、右耳元で悪魔的情報を流し込んでくる。眼尻も口元も実に性的ないやらしさ満開である。

「ちくしょ~! なんで俺はこんな時に運が無いんだぁ~! ……いや、つーてもお前たちのこれからを考えればそれくらい当然なんじゃないか? 女性だってその道のプロなんだろ?」

「女性陣にも男娼の希望とか受けるらしいぜ? 貴族のご婦人の相手するようなイケメン・美少年揃いだそうだ」

「ほぉ? あのOLさんとか、ご利用なさるのか!? それはそれで妄想が捗ど……」

「そこ!」

 月代の声。

「くだらない事で盛り上がらないの! まったく、これだから盛りの付いた男共は!」

 聞かれた。

 血気盛んな健康男子としては知らず声量が大きくなるも已む無しか? 思わず苦笑いでごまかす光一たち。と、その傍らで、

「真鈴。元気でね?」

「……うん……里美たちも……」

こちらでも光一らと同様、旧知との別れが。

「電話もメールも出来無いところだけど、手紙は王宮門の守衛に渡せば届くはずだから……真鈴も住所決まったら教えてね?」

「うん、必ず……」

 固く握手し、ハグする真鈴たち。学校は違っても同じ身の上。気持ちは痛いほどよくわかる。

 と、見送りを受けたのはグループで行動していた光一ら高校生だけである。

 平蔵や良介ら大人組は皆単独なので、見送りを受けるような相手は居ない。

 平蔵は営業回りの途中だったし、良介は趣味の模型やトイガンを扱うショップ目当てで乗り込んでいただけであるし。未練を引き摺らないという意味では、恵まれていると考える事も出来るのか?

 とは言え光一や真鈴とて全員が来てくれているわけでは無さそうだ。

「あれ? そういや仁は?」

「修練場だよ。ここんとこ、朝飯食ったらすぐ訓練に励んでてな。魔法が使えるようになって随分と張り切っててさ」

「へぇ~、気合入ってんなぁ」

「君たちも、もう少し彼を見習ってはどうだ?」

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