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追放ですか? いえ、放逐です 1

 トンネルを抜けるとそこは異世界だった。


 ――なんて言う導入のラノベが有ったような無かったような? どちらかと言うとトラックに跳ねられるか過労死の方が主流だが……

 などと本人が思っている以上にファンタジー脳な、そんな思いが脳裏を駆け巡る光一。

 とは言え、今の光一らを取り巻く現状はそれが現実化してしまったのだから逆もまた真なり、と言ったところであろうか? 


 結局のところ、光一たちはマジで異世界に召喚されてしまったのだった。

 集団で召喚、なんてのは異世界モノではよくあるシチュだが、電車一両丸ごとってのは一体どういう了見なんだか。まるまる一編成じゃないだけマシなのか?

 と、光一が混乱気味に考えるのも已む無きであるが、どうやら呼んだ連中側にとっても、これは想定外だったらしい。

 召喚の舞台となったのは王立魔導大聖堂。その壁にガッツリ食い込んだ車両をどう撤去するか? 予想外の状況に、普請・営繕担当の役人が頭を痛めているとの事。やたら建端(タッパ)のある扉を外したとしても高さはともかく、果たして車両が通る横幅が確保出来るのか? それとも壁を壊して搬出後に修繕する方が楽なのか? 担当役人や職人たちも、しばらくの間は頭痛が続きそうだ。

 だが今の光一らにはそんな事はどうでもいい。手前らの自業自得だ、勝手に悩んでいやがれ! である。

 そんな役人ども以上に今現在、光一の頭を痛めつけている問題。

 それは「なぜ自分たちが召喚されたのか」とか?

 その召喚された理由が「日増しに勢力を拡大する隣国、魔導王国軍と戦うため」とか?

 暗転した車両内で纏わりついた光点――魔素結晶が身体に染み込み、この世界の住人より優れた能力(スキル)が付与される、とか?

 そんな異世界モノでありがちな経緯で本儀式が行われた、なんてことなど、光一・由美にとってはそれも二の次であった。


「あたしたちだけ追放って、どういうことよ!」

 衝撃的なあの召喚から数日がたったこの日、由美の怒鳴り声が室内に響き渡った。

 召喚された乗客約40人はその数日間、呼び出したトリアーノ王国を取巻く現状と今後の展望について懇々(こんこん)と、懇々の上にも懇々と説明を受けていた。

 その後、召喚中に付与された各人の魔力・戦闘力ほか、個別の能力(スキル)の鑑定・検査が王宮魔導士らによって行われた。

 その結果、多くの者はそれぞれ火属性他、風属性、水属性、雷属性、地属性等々、対魔族軍に対抗するに十分な魔法スキルや身体能力が付与されていることが判明した。

 しかし全てが即戦力として及第点で有ったワケでは無く、光一・由美と他校のグループだった桂真鈴、中年の縄張りに入って久しい後藤平蔵に、影の薄い男――上木(かみき)良介(りょうすけ)他、8人ほどが能力・適性不適格として除外されてしまったのだ。

 それが現在、光一が頭を痛める悩みの種であった。

「いやいや、追放と言うのは人聞きが悪いですぞ。先の鑑定の結果から鑑みまして、皆様は我々トリアーノ臣民よりも高い能力をお持ちではあるものの、お持ちの能力(スキル)は新設『魔導特殊作戦隊』の運用には不向き、と参謀会議で決定いたしまして……この()()()全員の足並みを揃え、効率の良い運用を目指すためにはやむを得ず……」

「要するに、おれたちゃ足手まといって事かよ!」

 光一も由美に倣って声を荒げた。こちらの都合などお構いなしに召喚してくれるだけでも大概な上、勝手にワケ分からん(ふるい)にかけられてお払い箱宣告とか、不条理極まりないにも程がある! てな話である。

 役立たず、落ちこぼれ。光一・由美らがそんなレッテルを貼り付けられたかの捉え方をするのも当然と言えば当然。

 それに加えて同級生ほか、身上を同じくする人たちと引き離される――気心が知れた頼れる友人が居なくなる、会えなくなる――そんな恐怖とも言える不安も入り交じって、言葉が荒くなってしまうも誰が責められよう。

 二人のそう言った心象を酌んでか酌まずか、

「国防軍においても、巷の冒険者パーティでも、スキルレベル差が原因で結束が乱れる事が往々にしてあります。対魔族軍の切り札となる魔導特戦隊であれば、特にその辺りの懸念事項は排除すべきとの参謀会議の進言を、軍の幕僚幹部も行政――王都府側も承認いたしまして……」

担当となった役人――国防軍特務部副部長トクアン・トロムは光一らに出来るだけ穏便に、落ち着いた口調で理由を説明した。

「あたしたちだってスキルは有ったじゃん! 何がダメなのよ!」

「そうですねぇ。例えばユミ殿はスキル『千里眼』をお持ちで3キロ、4キロ先の対象でも視認する事が出来ますが、逆に半径4~500m以内での近距離では運用は出来ませんでした」

「まるで遠視だねぇ」

「その通りですヘイゾウ殿。翻って、我らが欲っする情報は一触即発となるそのエリア内の細かい動向でして……」

「使い物にならないってワケか? じゃあ俺の『透過』も……」

「はい。コウイチ殿の類のスキルは通常、自身の気配を完全に隠ぺいして敵に察知されずに行動して斥候等、情報収集活動や暗殺・破壊活動など、特殊工作任務と相性の良いスキルなのですが……コウイチ殿は気配を隠す方法と違い、言ってしまえば保護色による隠ぺいで……」

「服は保護色にならないから、全裸でないと役に立たない……当然、武器も防具も持てないってわけっすか?」

 良介が補足した。

 光一の「透過」は保護色と言うより、いわゆる光学迷彩に近い。

 どの方角から見ても身体が触れない限り、1m手前に居たとしても見つからない、こちらから声でも出さない限り気配察知能力を持つ魔導士ですら欺ける、ほぼほぼ完ぺきな迷彩力を誇る能力であった。正に透明人間と言って良いほどである。

 しかし……

「敵に見つからない点ではどんな隠蔽系のスキルより優秀なんですがねぇ」

他者から視認も察知もされない特性であれば、例えば敵陣に忍び込んでの暗殺任務の遂行などの特殊作戦等に期待したいところ。

 だが衣服はもちろん、得物も何も持てないのであれば、そう言った作戦遂行は難しい。どこぞの、肉体そのものが武器となる一子相伝の怪しげな暗殺拳法でも使えればワンチャン……。まあ、そう言う事なんだそうな。

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