08_とある支部幹部の不運
「領軍の奇襲が明日早朝に迫っています。準備は整っていますか?」
「はい、迎撃用の器具、各信徒の装備、全て準備は終えております。」
司祭様の言葉に支部長が答える。
わが教へ迫害を行ったアプリコット公爵に対して、我々は正義の鉄槌を下す準備を進めていた。
しかし、不幸にも領主側に計画が漏れてしまった。
その事に我々が気付いたのが半月前。
それを、計画のためコチラにいらしていた司祭様に報告し相談した結果、「逆手に取って、軍を混乱させてやろう」という結論になった。
見直し後の計画は、次のような流れだ。
まず、明日早朝にやって来る領軍を、地の利を活かして返り討ちにする。
その後、軍が体制を整え、再び攻め込んで来るまでに、施設は破棄し、街に潜伏する。
そして、軍の再侵攻に合わせ、手薄になった町の要点を突き、町を混乱させる。
そこまで行けば、アプリコット公爵は今回の訪問は諦めるかもしれない。
それならそれで構わない。
直前に公務の予定が狂えば、必ずや隙が生じる事だろう。
その隙を他支部の仲間が突いてくれるはずだ。
アプリコット公爵が予定通り来ることになり、タイミングが良く我々の手で始末出来るなら、最高だがな。
すでに潜伏先は用意している。
他支部から応援も呼んだし、手駒として魔術師まで用意出来た。
準備も抜かりない。
今は、今回の作戦の最終確認を行っているところだ。
我々支部幹部以外は、明日の迎撃に向けて既に休ませている。
「ジンジャー伯爵に計画が漏れたと分かった際は、どうしたものかと頭を悩ませましたが、なんとか一矢報いることが出来そうですな。」
「……。」
おや?
司祭様の御様子がおかしい。
窓の外を気にされている?
「…っ!!」
ガタッ!
司祭様が、突然、立ち上がった。
「えっ?!司祭様?どうか──」
しましたか?と、支部長が言い終える前に、それは起こった。
ピシッ!
「グアッ?!」
司祭の隣りにいた支部長が、いきなりうめき、倒れ込む。
なんだ?!
ピシッ、ピシッ!
今度は連続で音がして、さらに3人が同じように倒れ込む。
いったいどうした?!
矢でも撃ち込まれたか?
だが、倒れている者の足を見ても、矢など見えない。
そもそもここは室内だ。
矢などどうやって撃ち込まれるというのか?
ピシッ、ピシッ!
「ぐっ?!」
足が灼けるように痛い!
まるで、本当に矢でも刺さったかのようだ。
何だこれは?
見れば司祭様も傷を負われたようだが、怪我を押して部屋を出て行ってしまわれた。
「窓の外は、…何も見えませんね。少なくとも周囲には…。」
無事な者が外の様子を伺うが、何も分からぬらしい。
これほどの威力の攻撃を何処から?
そもそも、これは魔物の仕業なのか、ヒトの成したことなのか、それすら分からない。
「誰か、支える者を──」
ドオオォォォォォォン!!
「な、何だ?!」
爆音が轟き、振動で床が軋む。
「大変です!!爆裂魔術のような攻撃で、対軍器具のほとんどが使用不可となりました!」
「はあああぁぁぁぁ?!」
な、何だ?何が起こっている?!
「誰の仕業だ?侵入者か?裏切り者か?」
「それが、…突然、上空から火球が降りそそぎ、着弾とともに爆発するのを、この目で見ました!」
「なっ…?!そんな事が出来るのは──」
そこまで言って、言葉に詰まる。
普通の者は、そんな事が出来るのは神か悪魔だ、と言うだろう。
だが、我々はあくまで現実的に考える。
そんな事が出来るのは、魔王様ぐらいだ。
特に、我々の最も身近におられる『翼の魔王』様ならば、簡単にお出来になられるだろう。
しかし、である。
神にも等しい魔王様が、我らが崇める魔王様が、何故我々を害されるのだ?
これではまるで、我らの行いが御心にそぐわないかのようではないか?!
…分からない。
所詮、矮小な我らに魔王様の御意思など図りようもない。
今は、事態を収める事に注力するのだ。
幸い、領軍が攻めて来るまで、まだ時間はある。
ドンッ!!ドガッ!!
「…っ?!今度はなんだ?!」
「騎士団です!単独で攻めて来ましたっ!!」
「なんだとぅ?!」
なぜだ?!
領軍が動くのは明日の朝のはずだ!
しかも、騎士団だと?
あのお飾り騎士共は、今回の作戦に関与しないのではなかったのか?
…まさか、裏をかかれたのか?!
すべては小娘共の功績を積み上げるための準備だったとでも言うのか!
こちらは、百人規模の領軍と戦う準備をしていたのだ。
あんな小娘達など肩慣らしにしかならなかったはずだ。
だが現実は、先の爆発で皆浮足立っている。
もともとが寄せ集めのせいか、もはや烏合の衆だ。
それを指揮するはずの幹部も、謎の襲撃で満足に身動きも取れない。
なぜだ?
何故こうなってしまったんだぁぁぁぁっ?!




