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28_凱旋

「じゃあ、帰りましょうか?」

いつの間にか、クロー少年はパーティに馴染んでしまっている。

「でもなぁ。討伐の証拠は持って帰らないと、クエストクリアと認められないぞ?」

「あ、大丈夫です。」

ロゼッタの指摘に、クローは軽く答える。

「えっ?」

言葉の意図が分からず反応に困るロゼッタを尻目に、クローは穴を下り、アーク・ボアの死体に触れる。

次の瞬間──


ボコッ。


アーク・ボアの死体が消え、クローの足元に空間が生まれた。

「うわっと!」

巨大な空間が生まれたことにより、周囲が崩れ始め、慌ててクローは穴から脱出した。

「…あの巨体を『収納』だと?!」

その様子を見守っていた中で、一番反応が大きかったのがヴェロニカだった。

同じ魔術師として『収納』魔術の事は知っていたものの、巨大なアーク・ボアの体をそのまま格納し得る魔術など、聞いたことが無かった。

「キミっ、今のは『収納』だろ?!なぜ、あんな巨体を格納出来るんだ?!」

「え?…う〜ん、流石にそれは秘伝、と言う事で。パーティを組んでも無い方に、そこまでお教えする事は出来ません。」

「そ、そうか。そうだな。済まない、無礼な要求だった。」

「いえいえ、同じ魔術師として気になる気持ちも分かりますから。気にしてませんよ。」

大人な対応だ。

先程から少年の態度を見ていて気付くのが、反応がいちいち落ち着いている事だ。

思えば昨日のギルドでの遣り取りでも、終始、冷静な対応をしていた。

「そうだ!そちらのパーティのリーダーはどなたですか?交渉したい事があるのですが。」

「えっ、…と、リーダーは私、エクレアよ。」

普段なら交渉にはクロワが当たるのだが、そのクロワは気絶しマフィンに担がれている。

となると、リーダーのエクレアが直接、交渉を行う必要がある。

「ああ、身構えなくて大丈夫ですよ。簡単な提案です。このアーク・ボアの討伐報酬を半分お譲りしますので、そちらのパーティがこのアーク・ボアを倒した、と言う事にしてくれませんか?」

「え、半分って…。」

「ん〜…、クエスト報酬が金貨20枚ですから、その半分の10枚、1人2枚ずつの計算になりますね。」

「え……。」

エクレアの心が揺らぐ。

何も考えなければ、討伐したという名声と、本来、手に入らない筈のクエスト報酬の二つがタダで手に入る、美味しい取り引きだ。

だが、あまりに話が上手すぎる。

クロワなら、この交渉の裏の意図も理解して話しを進めるはずだ。

「なぜそんな交渉を?そんな交渉しなくたって、アタシらはあんたが1人でアーク・ボアと戦ったと話す事に異を唱えたりするような、恥知らずな事はしないよ?」

ロゼッタが助け船を出す。

ロゼッタは、エクレア達が数に頼って「自分達がアーク・ボアを倒した。クローが嘘を吐いている」と言い、強引に自分達の手柄にされる事、をクローが心配してると思ったようだ。

「ああ、そんな事は心配して無かったです。」

しかし、クローはその考えをすぐに否定した。

「単純に、僕が「倒しました」と言っても信用されないかな、と思いまして。それに、僕にはアーク・ボア本体を売ったお金も入りますから、それだけでしばらくはお金に困りません。なら、あまり注目されない方が、今後やり易いんです。僕の魔術目当てでしつこくパーティ勧誘されるのも、うっとおしいですし。」

聞けばなるほど、納得の理由だ。

この後、クローは『収納』したアーク・ボアの死体をギルドで取り出す事になる。そうなれば、その『収納』目当てでクローを勧誘しようとするパーティも現れるだろう。

その上、ほぼ1人でアーク・ボアを倒せるほどの手練れとなると、勧誘が激しいものになる事は必至だ。

そんな面倒を回避するためならば、多少のお金を払う事も已む無し、と言ったところだろう。

そして共闘して討伐したと言うなら、せめてクエスト報酬は折半としないと、話が合わない。

エクレアはクロワ以外のメンバーを見渡す。

皆、これ以上の異論は無いのか、無言で頷き返した。

「分かったわ。貴方の提案を呑みましょう。」

「ありがとうございます。助かります。」


彼らがこの選択を後悔するのは、もうちょっと先の話となる。


************


その後、ギルドがある町には、日が暮れないうちに帰り着くことが出来た。

その日は皆、疲れからか泥のように眠った。

翌朝、クロワを除く5人でギルドへ報告に行くと、案の定、大騒ぎとなった。

まず、討伐不可能と思われたアーク・ボアが討伐されたと騒ぎになる。

そして、その実物を持ち帰ったと、また騒ぎになる。

さらに、とてもギルド内に収まらないため、町の広場でクローがアーク・ボアの骸を出すと、町中の人々を巻き込む騒ぎとなった。

ちなみに、クローが持ち運びを行っている事がバレないように、クローはローブで姿が見られないようにされている。


この騒ぎでギルドは軽い宴会状態となった。

なにせ、「魔獣の森」に入るための障害となっていたアーク・ボアが討伐され、これで冒険者達がまた「魔獣の森」に潜る事が出来るようになったのだ。

ギルドとしても、アーク・ボアの骸か持ち帰られた事で、これを解体し売り捌けば相当な利益が見込める。

ただし、あまりにもアーク・ボアが巨大なため、買い手が付くまでの間は、クローはこのギルドに足止めされる事となった。

クローとしても、急ぐ旅でなし、『収納』係としてギルドに留まる事は了承した。


こうして、この町のアーク・ボア騒動は、1人の少年の手腕によって解決した。

だが、その事実を知る者は、片手で数えられるほどしか居ないのだった。

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