01_冒険者ギルド
「買い取りお願いしたいのですが。」
「買い取り、ですか?素材は何ですか?」
「魔物です。ゴブリンとオークなのですが。」
「そうですね、…えっと、現物が無いと、部位によるとしか言えませんね。」
ここはコラペ王国南部のジンジャー伯爵領都にある冒険者ギルドだ。
道すがら狩った魔物を売ろうと、まずは受付のお姉さんに相談してみた。
しかし、お姉さんも実物でも見なければ何とも言えないらしい。
それも当然か、まさか僕のような少年が魔物を何体も丸ごと持ち運んでいるとは思うまい。
持ち込むにしても、その一部を切り分けて持って来ているものと思っているのだろう。
…でも、説明が面倒だなぁ。
ギルド内には他にも冒険者が居て、一部は僕を気に掛けている者も居る。
そんな中で『収納』系の魔術が使える事が知られると、うっとおしい事になりそうだ。
「あの、解体室ってありますか?」
「はい?…ありますけど。」
「案内してもらって良いですか?」
「え、ええ。こちらです。」
冒険者ギルドには、大体、素材解体用の部屋が用意されており、専門の解体師が居たりする場合もある。
ギルド受付嬢さんは、疑問に思いながらも案内してくれた。
「ん?なんだ、その子は?」
「あ、ギルマスこちらに居ましたか。この子が買い取り希望らしくて、説明してました。」
「買い取りぃ?何を持ち込んだんだ?」
「いえ、それが…。」
「魔物です。ギルマスさんなら、ここで直接買い取り交渉しても良いですか?」
調度良くギルドマスターが解体室に居たみたいだ。
なら、ギルマスさんと、他の冒険者の居ないこの場で交渉するのが都合良さそうだ。
「魔物って…。ここに持って来る気か?」
「あ、いえ。ここに出します。」
「「は?」」
ドンッ!!
お誂え向きのスペースが有ったので、そこに『アイテムボックス』から魔物を出してみた。
内訳は、ゴブリン3体、オーク1体、一角兎1羽だ。
「うわぁっ?!」
「なっ?!」
受付さんは驚いて悲鳴を上げた。
ギルマスの方も驚いてるみたいだけど、魔物に、と言うわけでは無さそうた。
「…『収納』持ちだと?!」
さすが、僕の魔術だという事に気付いたみたいた。
「これで、いくらになりますかね?」
「え?そ、そうだな。…銀貨7枚、ってとこか。」
お、意外と良い値じゃない?
「あ、じゃあそれで良いので、手続きお願い出来ますか?」
「いやいや、待て待て待て!」
あれ?物言いが付いたぞ?
「キャロット、手続き頼む。くれぐれも、彼の魔術のことは他言無用だぞ!…君は俺の部屋で面談だ、こっち来い!」
あれ、僕また何かやっちゃいました?
…いや、早いよ!
はあ、お説教覚悟でついて行くか。
こういう時は自分が麻痺してる感覚がおかしいと気付かせてくれる良い機会だ。
素直に従っておく。
「で、魔術師って事で良いんだよな?」
ギルマスの部屋らしき所に通されると、お茶を出されながらそう聞かれた。
「はい。あと、剣も使えます。」
「…冒険者なんだろ?クラスは?」
「えっと…。」
チャラッ。
僕は、クラスを示すプレートを付けたネックレスを掲げて答える。
「Eクラスです。」
プレートは付け替え式で、人によってはブレスレットや鎧に付ける人も居る。
僕は、旧ホーンテップ領で登録した時に買ったネックレスをそのまま使用している。
クラスについては、この周囲の国々では表記が統一されているはずだ。
最低クラスがFで、これは採取しか出来ない小児や、普段は別に仕事をしていて兼業で小物の狩りや採取だけするようなヒトに割り当てられるクラスだ。
そこから、戦闘参加出来ると認められるとEクラスに上がる事ができる。
ちなみに、Dクラスまでは有資格者の推薦で取得が可能で、僕もゴトーさんに「推薦しても良いぞ」と言われたが断った。
Eクラスが初心者とすると、Dクラスは経験を積み、冒険者として一通りの作業を理解出来ている者が取得出来るクラスだ。
僕は当時、家の仕事や魔術の研究やらで忙しく、冒険者としての実作業なんて出来なかった。
だから、今の僕は初心者、Eクラスで相当と思っている。
「はぁ?!なんで『収納』持ちがEクラスなんだよ?最低でも、Cクラスは確実だろ?」
ギルマスは納得出来ないみたいだ。
「経験」という面以外でも、「特殊技能を保持」していると認められれば、クラスを上げる事はできる。
通常、仕事をいくつかこなして、実績を積まないとCクラスは認定されないが、特殊技能を有している者もその技能の特異性を認められればCクラス以上の認定を受ける事が出来るのだ。
「魔術師」なら普通は、それだけでCクラス相当とされる。
さらに、実績を積んだりレアな魔術が使えるようになればBクラス認定も全然ありうる。
そんなレアな魔術の一つが『収納』だ。
これが使える魔術師が居るだけでパーティの機動性は飛躍的に向上するし、荷運びの護衛を受ければ術者一人分の輸送費で馬車一台分の経費が浮く。
当然、ギルドとしてもそんな人材は手放したく無いので、高クラス待遇を認めるのだ。
「いやぁ、あんまりクラス上げるのは興味無いんですよね。前に居たギルドでも、魔術師である事は隠していたくらいですし。」
旧ホーンテップ領に居た頃は、魔術が使える事を誰にも知られるわけにはいかなかった。
だから、クラスもEのままで居た。
ギルド内のクラスが上がる利点は、指名依頼の際に値段交渉の相場が上がるくらいで、僕は魅力を感じなかったし。
「なんでだよ、待遇も良くなるし、周りからも一目置かれるんだぞ?」
「でもその分、ギルドの雑用を押し付けられたり、知らない人に絡まれる事も多くなるし、うっとおしさのが遥かに勝るんですよね〜。」
「うぅ…。」
高クラスのデメリットを的確に言い当てられて、二の句が継げない様子のギルマス。
Cクラス以上の者は、たまにギルドから強制でクエストを受けさせられる事がある。
そういうクエストは、たいてい割に合わないものが多いのだが、冒険者側もクラス認定を受けている手前、その手の依頼は断り難いのだ。
…僕の剣の師匠であるゴトーさん(Bクラス)も、それ絡みでよく愚痴を溢してたっけ、懐しい。
「そもそも、地位や名声が欲しいなら、もっと別の生き方してますよ。そういう事が出来るだけのスキルを身に着けてる自覚もあります。分かった上で、気ままな一人旅をしてるんですよ。」
魔術の師匠にも「人族の国なら宮廷魔術師にだって成れる」と、お墨付きも貰っているが、あえてそんな堅苦しい生き方から外れてのんびりしてるのだ、放っておいてほしい。
「…はあ、分かった。成人前ならちゃんと説明しとかなきゃなと思ったが、そこまでメリデメ把握した上でそうしてるなら、これ以上何も言わん。」
ギルマスが諦めたように呟く。
「ただなぁ、せめてDクラスだけ取っておく事を薦めるぞ。Eクラスだと受けられないクエストもあるしな。Dクラスなら、建前上はどんなクエストも受けられるという事になってるからな。」
「なるほど。」
確かに、何かクエストを受けたくなっても、クラス制限で受けられないというのは嫌かな。
あと、今のクラスプレートには「ホーンテップ」の支部名が書いてあって、気になってたんだよね。
他国の地名とは言え、古い地名のままでは怪しまれるかも知れない。
「…分かりました。では、Dクラス認定をお願い出来ますか?」
「おお!もちろん良いぞ。クラスプレートの作成に4日くらい掛かるが、良いか?」
ギルマスは嬉しそうだ。
将来有望な冒険者のクラスプレートに、自分のギルドの名前が入っていればそれだけで支部の宣伝にもなる。
ギルドマスターとしては喜ばしい事なのだろう。
「大丈夫です。簡単なクエストでもやりながら、時間を潰して待ってますよ。」
「分かった。話は通しておくから、受付のキャロットに一日毎にでも聞いてくれ。」
「はい。…あと、一つ疑問だったんですが。」
「ん?なんだ?」
「なんでさっき解体室に居たんですか?」
「ああ…。俺はもともと解体屋だったんだよ。んで、先代のギルマスが引退する時に、俺が後継に指名されたんだ。…スタッフの中では一番とうが立ってたからな。今でも持ち込みが有れば俺が解体してるんだ。」
あ、解体専門のスタッフがギルマスになったパターンだったんだ。
なんで都合良くギルマスが解体室に居るのか疑問だったんだよね。
…神経質すぎるかなぁ、自分?
「…今日は道具の手入れをしてたな。まさか、あんな量の持ち込みがあるとは思わなかったが…。」
「あれ?そんなに量多かったです?」
「そりゃな、丸ごとだもんよ。普通のパーティなら、現場で持ち運べる分だけ解体して持って来るからなぁ。」
そういやそうか。
『アイテムボックス』さまさまだね。
普通のパーティは、森の中からオークの体を担いで来なくちゃいけないんだよなぁ。
そりゃ、小分けにしたくもなるか。
「今日の素材が飯屋に並ぶのは、早くて明日の夜になるな。ま、気が向いたら食べとくと良いぜ。」
「ああ、そうですね。…せっかくなんで、お薦めのお店も聞いて良いですか?」
「そうだな、たとえば──」
以外に気さくなギルマスで良かった。
僕は数日間、この町に留まることにした。