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12_後日談(南部白日騎士団)

「ユノ!お疲れ!」

役場を出た所でユノは声を掛けられた。

「あ、フリージアさん、おつかれさま。今上がりですか?」

「もう、「さん」付けは要らないって。」

相手は、容疑が晴れ、監視の意味もあって白日騎士団に入団したフリージアであった。

「あ、…すみません、つい癖で。」

「しょうがないな。…わたしも上がりだから、一緒に行こう。どうせ、あのギルドに行くんでしょ?」

「ええまぁ、騎士団長も居るかも知れませんし。」

「…他にも、可愛い少年「も」居るかも、ってこと?」


ピタッ!!


図星を指されたためか、ユノが固まる。

「…イ、イイエ、ソンナコトナイデスヨ?」

「あはは、大丈夫。ノエルじゃないんだから、ユノが少年好きに趣旨替えしたなんて思わないって。クロー君でしょ?」

「う゛っ…!」

重ねて図星を指され、ユノが言葉に詰まる。

「不思議な子だったね。あれから一ヶ月くらい?」

「…そうですね。」

白日騎士団が単独で「魔王教」支部に攻め込んでから、1ヶ月が経とうとしていた。

「…そんなに気に入ってたの?」

「っ?!……………まぁ、ですね。」

「そっかぁ。わたしも、もっかい会っておきたかったな。結局、祝勝会の後、すぐに居なくなっちゃったんだよね?」

「そうです。ギルドマスターやキャロットに聞いても、行方は分からないと言われました。」

そこまで聞いてフリージアは、ユノが割と本気でクロー君の行方を探していた事に、声を出さずに驚く。

「そっか。でも、あの子が旅をしてるなら、また会う事もあるでしょ。」

「そうですね。…そういえば、お父様はお元気ですか?」

ユノは、やや強引に話題を変えた。

「うん、もう元気になったよ!今は、この町で仕事してる。これも、みんなのおかげだよ。」

「そんな、…でも騎士団長のおかげ、というのはそうですね。」

「うんうん。わたしも団員として真面目に仕事して、恩返ししてゆくよ。」

「そうですか。貴女が加わって、私達もとても助かる事が多いですよ。」

「そっか、へへ。…でも、結局あの黒いのはなんだったのかな?あれも、お父さんを助けてくれたのは間違いないんだけど…。」

フリージアが思い出したようにつぶやく。

「そうですね。あれ以降、目撃情報が無いので、警戒しなくちゃいけないのか、も分かりませんしね。」

「目撃情報か…。ちなみにわたし、あの日の前日に、アレに追い回されたんだよね。もしかして、わたしに関わる何かなのかな?」

フリージアの言葉に、ユノはピクッと耳を動かす。

「…は?いや、初耳なんですけど?」

「あれ、そうだっけ?…あの頃の事は、いろんなヒトにいろいろ聞かれたから、誰にどこまで話してるか、曖昧なんだよね。」

「そうですか。…ちなみに、貴女はあの屋根伝いに飛び回る移動方法を使ってたんですよね?」

「そうだね。「魔王教」側として情報収集した最後の日だね。」

「あんなデタラメな機動性を追い回す、なんて化け物じみてますね。………ん?」

「え?どったの?」

突然、立ち止まり考え出したユノを、フリージアが振り返る。

「思い出したんですが、その日の翌日、クロー君が「フリージアさんが、中央区から来て南の森に入って行くのを見た」と言っていました。」

「……え?!」

「今にして思えば、貴女の機動性について行くなんて、普通は出来ませんよね?」

「う、うん。…なんならあの日は、アレを撒くために遠回りしてたし。徒歩でわたしに追い着くのは無理じゃないかな?」

「…それに、貴女の話が本当なら、クロー君も「黒い何か」を見てないとおかしくないですかね?でも、クロー君はソレについては言及しなかった…。」

「そうかな…。あの黒いのは、夜に下から見上げても気付けないかも知れないけど。」

「…何を言いたいかというと、あの黒いのがクロー君だったんじゃないか、という事です。」

「はぁっ?!」

突拍子もないユノの考えを聞き、フリージアの口から変な声が漏れる。

「そう考えると辻褄が合いませんか?あの黒いのが現れたのだって、クロー君が居た時期と重なるじゃないですか?」

「そんな、まさか…。」

とは言うが、フリージアも明確に否定の言葉が継げない。


あの事件の際、領軍側にも「魔王教」側にも不可解な介入があった事が明らかになっている。

領軍側は、白日騎士団をどうにか止めようと走らせた伝令が、ことごとく何者かの襲撃を受けた。

また、森で待機していたはずの者も、同様に意識を失わされている。

「魔王教」側も、幹部が謎の襲撃を受けて怪我を負ったし、対軍装置も爆破されている。

それらの事象も、陰からあの黒いのが介入したもので、その正体がクロー君だとしたら、納得できる。


「…けど、その説だと、クロー君が王宮魔術師、…いや、賢者レベルの魔術師でなければ説明がつかないよ。」

「…そうですよね。彼はどう見ても人族でした。なら、年齢も見た目通りでしょう。あの歳でそれほど高位の魔術を修めてる筈が無いですよね。」

魔術師は希少で、体得するのにどうしても時間がかかる。

そんな常識が、彼女らが真実に辿り着くのを妨げていた。

「……。」

「……。」

そもそもが、仮定を前提にした話なのだ、互いに確証も持てず黙り込んでしまった。

「何してるの?ふたりとも、そんな所で。」

道の端で無言で考え込んでいる二人を見つけたノエルが、声を掛ける。

「あ、いえ…。」

「ちょっと、クロー君の事思い出してた。」

「クロー君?…あ〜、ミステリアスな子だったね。突然、別れも言わずに行っちゃって、残念じゃったよ。」

ミステリアス、その言葉が全てなような気がした。

あの子の真相は、もう分からない。

けれど、「後悔するなら、全てを知り万策尽くした上で後悔する方が良い」と言ってくれたのは事実だ。

あの言葉に背中を押され、ユノは全てを包み隠さずノエルに伝えることができた。

そして今、ユノの目の前には変わらずノエルとフリージアが居る。

クロー君に初めて会った日時点では、考えられなかったその奇跡に、ユノは心の内で改めて神に感謝するのだった。

「そう言えば、「魔王教」の司祭の遺体が領軍宿舎前に置かれてたのも、その頃だったね。あれもミステリーだったな。」

フリージアが、また思い出したようにつぶやく。


クローを呼んだ祝勝会をやった翌日に、その事件は起こった。

中央区でも、役場に隣接する領軍用の宿舎前、朝で人通りもあった場所に、忽然と遺体が現れたのだ。

調べたところ、その遺体は「魔王教」の司祭であったエルフのもので、その体には矢のようなもので射たれた傷が複数箇所あったという。

真っ先に関与が疑われたのはフリージアだったが、その時間帯に父親の介護をしていた事を証明する証人が複数居て、関与は否定された。

他にそんな事が出来そうな者もおらず、かと言って死因と思われる矢がきれいに除かれている事から、自殺も考えられない。

遺体をどうやって運んだのか、目的は、何もかもが分からない事件だった。

ただ、少なくとも「魔王教」の信者の仕業には違いあるまいと、領軍はアプリコット公爵が帰途に着くまで厳戒態勢を緩める事は無かった。


「そうそう。でも、一連の事件を聞いてアプリコット様も、ちょっと「魔王教」を追い詰めすぎたかも、と反省されてたよ。」

「…は?公爵様が、反省?」

「うん。私が、フリージアみたいに人質を取られて仕方なしに働かされてる者が居る事を話したら、それもショックだったみたい。」

「…へ?話す?なにを…。」

いまいちノエルの言っている事が理解出来ず、困惑するフリージア。

そこに、ユノが補足を加える。

「…すごかったですよ。伯爵様よりも公爵様と打ち解けてましたからね。私達はあくまで護衛のはずなのに。」

白日騎士団は女性だけで構成された騎士団だ。

なので見栄えが良いため、他領の貴族が訪問される際は、必ず駆り出される。

アプリコット公爵が訪問した際も、謹慎中にも関わらず例外として呼び出された。

「アプリコット様とは小さい頃から何度も会っとるから、お友達なんじゃよ!」

「……。」

改めて、ノエル騎士団長が伯爵令嬢である事を思い出し、そして、公爵様を「お友達」と言ってのけるノエルの豪胆さに言葉も無いフリージアであった。

「アプリコット公爵様も、話に聞く印象とは違い、温和でお優しそうな方でしたよ。」

「へ、へぇ…。」

ユノの補足に、フリージアはようやく言葉を発することが出来た。

「そこまで行くと、貴族としても充分やっていけそうなのに、なんで騎士を目指したの?」

「それは、騎士の方が格好良いから!」

「はぁ……。」

フリージアが呆れたような声を漏らす。

「あと単純に、貴族の生活なんて堅苦し過ぎて、いやだったんよ。小さい頃は町の子達が遊んでいるのを遠目で見て、なんで私は一緒に遊んじゃいけないんだろうって、ずっと思ってたけんね。」

「そうですか…。」

「そう!だから今は、皆と好きなだけ一緒に居られて楽しいよ!」


ギュッ!


そう言うと、ノエルは二人に抱きついた。

「──っ!!」

「ちょっと、ノエル!」

「ヘヘへ。」

そんな風にじゃれる三人に、後輩も加わってくる。

「あ〜っ!ユノさん、探しましたよ。」

「おや?どうしました、メイ?」

「ど〜したも、まだ引き継ぎが出来てなかったとこがあって、エイプリルを使って探してたし!」

「わんっ!」

犬獣人であるエイプリルが、名前を出されて吠える。

「あら、騒がしいと思ったら、皆さんおそろいで。相変わらず、鼻が良いですね?」

「あ、キャロット。…そう言うってことは?!」

「はい。入荷ありましたよ、オーク肉。」

「やたっ!食べてく食べてく!」

「…今回は量が多く無いので、おかわりは控えて下さいね?」

「「は〜い!」」


斯くしてジンジャー領には、一月前と変わらぬ、ほのぼのとした日常が続いてゆくのだった。

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