10_フリージア
「フリージア?!どうして?!」
「…ごめん、ノエル。」
…どんな状況?
司祭エルフを片付けて戻って来てみると、そこは修羅場だった。
フリージアさんとノエル騎士団長が対峙している。
ノエルさんの後ろには団員さん達が揃っている。
皆さん、所々怪我をしているが、致命的な傷は無さそうだ。
一方、フリージアさんの後ろには男性が二人。
一人は「魔王教」関係者っぽいが、もう一人は、…なんかやつれて弱々しい。
「どうした?!さっさとやってしまえ!お前の魔術なら簡単だろう?父親がどうなっても良いのか?!」
「…うぅ。」
「父さんっ!…くっ。」
…あ〜〜。(察し)
弱々しい方がフリージアさんのお父さんなのか。
それが捕らえられ、フリージアさんは仕方なしに「魔王教」のために動いていた、と。
で、追い詰められた「魔王教」徒が、お父さんを引っ張り出してフリージアさんを脅してるんだ。
…これ、フリージアさんは全く悪くないんじゃないか?
「…ユノ副団長。これ、どうしましょう?」
「とりあえず、固まっていたら危ない。いつでも退避出来るように──」
ユノさんが指示を出そうとした時、ノエルさんがスッと前に出た。
「皆はそこに居て。」
「騎士団長ぉ?!危険です!」
静止も聞かず、ノエルさんはフリージアさんと距離を詰める。
「来ないで!ノエル!」
「ほら、撃ってきなよ。この距離なら外さないでしょ?」
「出来るわけ無いでしょ、そんな事!!」
「私一人が受ければ、お父さんも皆も助かる、なら私が受け留めるよ、さあ!」
「そんな…。」
「早くやれ!こんな時のためにお前を呼び寄せたのだぞ!さあ、早く!」
二人の言い合いに業を煮やしたのか、男が叫ぶ。
「…を……て。」
ん?
あ、フリージアさんのお父さん起きてたのか。
「お前のために、そんな事を言ってくれるヒトを傷付けてはいけない!…俺を撃て!」
「父さん?!なにを…。」
「っ?!貴様、黙っていろ!」
「…く、私はもう充分生きた。もう、お母さんの所に行っても良いだろう?…俺は、お前の足枷になりたくない。」
この場に不釣り合いなほど、穏やかに彼は語った。
…これが父親というものか。
前世で僕はついに父親になることなど叶わなかった。
そして、今世の父親はあんなのだった。
だから僕は、父親の想いなんて理解出来ていなかった。
そんな僕にフリージアさんのお父さんの言葉は深く刺さった。
「黙れぇ!貴様ぁ!」
「…ぐっ!」
男が羽交い締めにしたまま、首を締め上げ、強引に黙らせる。
「父さん…。」
それを見たフリージアさんは、意を決したように呪文を唱え出す。
「フリージア!」
ノエルさんが叫ぶ。
フリージアさんのしようとしている事が分かっているかのように。
「…ごめん、ノエル。」
フリージアさんが、正面のノエルさんに謝る。
「そして──」
くるっ。
フリージアさんは向きを変えた。
「ごめん、父さんっ!『火球』!」
フリージアさんが、二人に向けて魔術を放った!
「魔王教」の男は、咄嗟にフリージアさんのお父さんを突き飛ばし、盾にしようとする。
だが、そんな事は許さない!
ある程度予想していた僕は、出来得る限りで最速の動きで場に乱入し、フリージアさんのお父さんを抱き抱える。
そして、男を掴み後ろに引っ張る。
反動で僕は『火球』から僅かながら遠ざかる。
反対に、男は『火球』の軌道上に放り出された。
ドガンッ!!
『火球』が炸裂する。
男を盾にした僕は、『闇纏い』に集中する。
…流石に、直撃でなければ『火球』の余波で『闇纏い』の装甲が溶かされる事は無かった。
僕が庇っていたフリージアさんのお父さんも無事だ。
「父さんっ!!…えっ、な、何?!」
フリージアさんが、僕に気付いて困惑する。
ざわ…
フリージアさん以外のヒト達も、爆発跡に突然、真っ黒な魔物のようなモノが現れた事に気付き、驚いているようだ。
「…まさか、庇ってくれたの?」
体制的に、真っ黒いモノが父に覆いかぶさって、爆発から守っていた事が分かったようだ。
僕は、フリージアさんのお父さんをそっと地面に横たえ、立ち上がる。
爆発の瞬間に気絶してしまったようだが、息はしているし、大丈夫だろう。
僕は、スッとその場を離れる。
「えっ?!ま、待って!貴方は一体…?」
フリージアさんの静止を振り切り、皆が見えない場所まで移動する。
これ以上、話をややこしくしたく無かったし、何より散々魔術を使いまくったせいで、魔力残量が乏しい。
残りは、ここから町までギリギリ帰れるくらいだ。
「…騎士団方、無事かー?!」
ドタドタドタッ!
白日騎士団が単独行動を取った事に気付いた領軍が駆け付けたみたいだ。
すでに「魔王教」側は、組織的な抵抗が出来る状況じゃない。
駆け付けた軍も、ここから「魔王教」徒を惨殺するつもりは無さそうだ。
また、フリージアさんのお父さんのように、捕らえられたヒトがまだ居たようだ。
話を聞くためにも、可能な限り全員を町まで連行するつもりらしい。
…もう良いかな?
屋奥の屋上で成り行きを見守っていた僕は、これ以上事態が動く事は無さそうと判断して、その場を後にした。




