09_対魔術師戦
くっ!
しまった対策されてる。
僕は、司祭エルフを追って森に入った。
しかし、そこで感知系魔術が利かなくなってしまった。
足に怪我を負わせてるので、捕捉出来ないほど遠くに逃げられる事は無いはず。
それなのに、『空間把握』、『熱源感知』、『魔力感知』のいずれにも、司祭エルフの反応が無い。
やはり、あいつも魔術師だったか。
おそらく魔術を打ち消す類いの術を使っているのだろう。
でも、司祭のくせにあからさまに魔術を使うなんて、やはり「魔王教」はこの世界の宗教として異質だな。
この世界で一般的な宗教の司祭は、主に治癒魔術を習得しているのだが、彼らは皆、それが「神の奇跡」と信じている。
実際には彼らは、『治癒魔術』の発動に必要な呪文を含んだ「祝詞」を口にし、法力と呼んでいる魔力を込めて魔術を発動させる。
イメージについても、彼らは患者が治癒するイメージを思い浮かべるので、魔術発動の要件は満たしている。
しかし、教会はこれを魔術とは認めない。
なぜなら、これが「神の奇跡」でなけれは、神の偉大さを説き、信徒を増やしたい彼らにとって都合が悪いからだ。
そのため、都合の悪い真実を語る魔術師という存在は、有名な宗教ではだいたい忌み嫌われている。
それなのに、今追っている司祭は、普通に魔術を使って逃走しようとしている。
ま、名前からして魔王を崇めていそうだし、魔王は魔術を使う存在だ。
ならば「魔王教」が魔術を忌避しないのは当然か。
さて、結構探しているが司祭エルフを見つけられない。
足に怪我を負わせているので、遠くまで行くはずはないのだが…。
隠れているのか?
魔術を全て遮断する類いの魔術は存在する。
僕も使えるが、これを使われてしまうと確かに感知系魔術に反応が無くなるかもしれない。
となると、下手に動き回るのは危険か。
逆に捕捉され、奇襲を食らうかも知れない。
魔術師同士、互いに決定的な武器を持っているようなものだ。
大事を取ってここは引き返そう…。
──と言うとでも思ったか?
パンッ!パンッ!パンッ!
「がっ?!」
疑わしい箇所に『銃魔術』を連射すると、司祭エルフが姿を見せた。
「な、なぜわかった…?!」
いや、だって…。
肉眼で見ると何の変哲も無い草むらなのに、『空間把握』『熱源感知』『魔力感知』のどれで見ても反応の無い空白地帯になってるんだもの。
そりゃ、誰だって怪しむよ。
せめて木の上で隠れていたなら、怪しまれなかったのに。
ま、足を怪我してて難しかったのかもしれないけどね。
でも、それをバカ正直に伝えるつもりはない。
「…私を、どうするつもりだ?」
…どうしよう?
ノリで追い掛けて来たけれど、正直、手に余るよなぁ。
「…今、治癒スレバ、マダ助カル。領軍ニ投降スル気ハアルカ?」
うん、軍に丸投げしちゃおう。
高確率でこのエルフは助からないと思うけど、やらかそうとした事も重大だし、ま、しゃあなし。
「誰が、人族のバカ共のもとへなど投降するものか!我らが崇高なる悲願など、奴らに理解など出来るはずもない。…貴様は軍の関係者なのか?」
「…答エル気ハナイ。」
「では何故、我らの邪魔をする?!」
何故、と言われてもね。
正直、「魔王教」と軍の争いなんて興味は無い。
会ったことも、聞いた事も無かった公爵様が暗殺されるかも、と言われてもピンと来ない。
ただ、可愛いお姉さん達が重症を負ったり、命を落としたりするのは、見たくなかった。
僕の動機はそんなとこだ。
まあ、そんな事は──
「答エル気ハナイ。」
「ならば、死ね!『火球』!!」
ザシュッ!!
僕は、『闇纏い』で火球を切り捨てる。
魔術を防ぐ効果もある『闇纏い』ならば、こんな事も出来る。
「…なっ?!」
起死回生を図って放った魔術を、あっさり無効化されて戸惑う司祭エルフ。
そもそも僕への問い掛けも、魔術を発動させるための時間稼ぎで、意味は無かったのだろう。
「…気ハ済ンダカ?」
「くそっ!くっそおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
打つ手が無くなった司祭エルフは、体内で魔力を循環させ始めた。
これは、…自爆か!
させるかっ!
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
既にリロード済みだった『銃魔術』を撃ち尽くした。
相手まで3メートルほど、外す距離じゃない。
司祭エルフは息絶えた。
どのみち、軍に引き渡しても拷問を受けて助からなかっただろうし、仕方なし。
…でも、気になる事も言っていたな。
「我らの悲願」ね…。
公爵様を暗殺する事を指してるとは思えないんだよね。
「人族のバカ共」とも言っていたし、もしかして「魔王教のエルフ」にとっての悲願、なのかな?
…ま、今は良いか。
そんな事より、ノエルさん達に加勢しに行かなくちゃ!
士気は騎士団の方が高いが、人数は「魔王教」の方が多い。
息切れしてきたら、一気に押し切られる事も考えられる。
僕は踵を返し、「魔王教」施設へ引き返した。




