[ひきころ]バレンタイン特別配信枠![断章]
「やっほぉーっ☆シェリー様の昆布巻き配信バレンタインSPッ、はぁーじまぁーるよぉーっ!!!」
音量注意のコメントが流れるより早く、暗転明けに仁義なき挨拶。よく訓練された常連視聴者達は聴覚保護の恩恵に預かり返しのコメント。
>待ってた
>[今日のチョコ代です]<
>はえーよ
>可愛い配信スペースだな
「そうそうそうでしょう!?いやぁ〜、この日にぴったりだと思ってねぇ〜?買ったわ!」
褒められたシェリーは上機嫌になって周囲を映してみる。ピンクと白を基調にしたラブリー空間は、水玉模様やハートマーク等々、かーなーり、『女の子らしい』雰囲気。たぶん(非暴走時の)アリサの方が似合う部屋。
>前年はクソホラーだったろ
>チョコの悪魔はもう嫌だ
>視聴者参加型だって喜んで参加したら…ネ…
>まさか1vs100の非対称でボコられるとは
>あれが自作ゲームだというんだから驚きだよ
>もうゲーム売れよ
>第二回まだ?
そう、シェリーのバレンタインといえば『プレゼントフォーデス☆』。タイトル画面だけはらぶらぶらぶりー(死語)の雰囲気を醸し出しながら、運良く、あるいは悪く参加した先の待機室はまるで地下牢獄。勿論配信からは隔絶され、いざゲームが始まったかと思えば悪魔の咆哮(CV:アリサ)が響き渡り純度100%の狂哮を受けた者らは阿鼻叫喚。悪魔を倒すか地下からの脱出を目指して選ばれし100人は地下を駆けずり回ったのだ──!
ちなみに、1発ネタとはいえ視聴者にはかなり好評だった。閑話休題。
「ごめんね。私、過去を振り返らない女だから。財布も軽い、こんな気持ち初めて──」
シェリーはあからさまにカメラから目を逸らし、遠くを見つめる。どこまでも遠く、遠く、遠い星を掴むように。
>おいバカやめろ
>いやまていくら払った???
>頭から喰われそう
前年までのシェリーなら大凡しないだろう部屋の選択に、やはり視聴者は困惑気味。もしこれで視聴者参加型だとかついていたら地獄の再来かと身構えていたことだろう。
「ははは。ストアページ見てきてね☆」
>はい案件
>そんな訳……
>いやわざわざSPとか言ってるあたり……
シェリーに対する信用は地の底よりも低い。あるいは天の果てよりも高い。それは信頼を裏切る、期待を超えてくるという意味で。
「ふっ、ふっ、ふぅ〜……私は企業に屈し………屈し……たまに屈してるけど!!」
>おっ、そうだな
>そうだね
>そうだな
>そうですね
>いつものことだよ
>日常であるな
>もっと屈しろ
それに対して視聴者の結束は硬い。特にシェリーをイジることに関しては、本当に。
「ひどいな視聴者共!?」
はぁー、とため息。ついでにオファ……オファニエ……
>ごめんなさい
>ゆるして
>まだ死にたくはない
>今のはただの挨拶ですよ
>待って!待ってください!
>ヤダーッ!
「ダメです」
ギャラリリャァリリァァリャァァァンン!!!
>マ"ッ"
>油断してグワァァァァ!!??
>何も聞こえなくなった
>くっ…予備の在庫を切らしていた…
>嘘だろ兄貴
響き渡るオファニエルの大・歓・声。砕け散る視聴者の耳栓鼓膜は塵芥となって、ド派手に脱線した話を叩き直す。
「──さて。そろそろ本題行っていいかな?」
平和と幸福を示すアルカイックスマイルを浮かべ、シェリーは語り始める。あとオファニエルもギャリララ回ってる。
>うっす
>はい……
>結局今日の配信何するの
「そーれーはーねー」
勿体ぶりながらゆっくりと、焦らすように。鉄砲水を防ぐ堤防のように。イタズラ心を、忘れないように。
>なぁーにぃー?
>はよ言え
「コラボ配信ッ!!!!」
上からパンした配信ロゴがドーン!ドーン!忌々しきケルベロスじゃないがオルトロスが如き二大巨頭のように二つの配信チャンネルが並び立った。
>いぇぇぇぇぇぇい!!!
>やったー!!!!
>で、相手は
>誰よその女!
>………ん?
>やばいのきたな
シェリーの隣の床から茶色の何かが染み出して、それは人形を形取っていく。まずは足と草履、そこから脚部と足袋、腰と袴、胸にサラシ、腕と白衣。首から頭が出来上がって、生えた赤茶髪に簪が刺さって完成。
「呼ばれ飛び出てじゃじゃっっじゃぁぁんっっ!!タンジェたそのお出ましだぜぇいっ☆」
とある焔嵐龍を模った巫女服を纏う彼女はタンジェと名乗るシェリーと同じゲーム配信者。とはいえメインジャンルは音ゲーや乙ゲーで、シェリーのよくやるアクションとRPGとは無縁。これまた異色の組み合わせという他ないだろう。
>うわぁ
>変態きたな
>そのアバター操作is何
「うん、私も思うけどなんなのそれ。ボーン管理バグってるでしょ。エラーひとつも吐いてないの気持ち悪いよ」
先ほどの登場もモデルを構成するポリゴン一つを分解して待機、呼ばれたタイミングに合わせて下から"マニュアル操作"で再構成したもの。流石のシェリーでもそこまではできない。できても手足の一本くらいか。
「は?痛覚オンなのに暴れられてるお前の方がドン引きだが?」
ただしシェリーもシェリーで痛覚100%で燃えたり切り刻まれたり潰されたりetc,様々なアホい死に方を経験してきた。一般視聴者からしてみればどちらも変わらない。
「あ?」
「お?」
>仲悪くて草
>仲良くて草
>お前らは仲良いな
>[一触即発]
ぎにににににと啀み合い、睨み合い。頭突きまでして離れる。
「今日はこいつをぶっ飛ばすからね!視聴者共期待しておけよ!」
浮遊中のシェリーのオファニエルもギャリルルルァと言っています。最早扱いが守護霊か何かである。
>はいはい期待してますよ
>相手は雑魚だろ
>いやそれはどうかな…
「はーっはっは、言ってくれるねぇ?ただの殺戮者如きがァ、タンジェちゃんの超テクに勝てる訳ねえだろァ?」
同じく浮遊してきたのはアプリアイコン。肩から生えた三本目の腕がそれを殴打してKBGを起動。周囲のラブリー空間が剥がれ、砕け、変遷していく。
>今の見た…?
>見てない
>見てはいけないものだったから見てない
>ぬるっと生えてきてた
>#[皆さん、SAN値チェックです]#
結果、二人が至った世界は『ストリートチャンプ∞』。これの発売時期自体はVR黎明期だが、そのタイトルの通り無限とも言えるアップデートを迎えた不朽の格闘ゲーム。操作キャラクターから繰り出す技を自由にカスタム可能し戦え、隔月で行われる公式大会と毎年恒例ワールドチャンプス杯は毎度大人気。つまり今日のコラボ配信は文字通りの"殴り合い"というわけか。
>SCIじゃん
>お、期待
>てかこのタイトル二人ともやってたのね
「ルールは三本先取、ステージはランダム。ギミックはあり、つまりただの殺し合い!」
>いつものルールね
>おk
>オーソドックスだわな
シェリーが取り出した先鋒は海賊女。ガタイを良くして耐久力を上昇。低くなった機動力はピストルで補った鈍足オールラウンダー型。
「だから参ったって言わせてあげる。ゆっくり期待していってね?」
>声と見た目とセリフはいいな
>じゃあどこがダメなんだよ
>モーション
>あぁ…
タンジェが変化した先鋒は溟いフードを深く被った小さなアサッシン。鋭利でキモいナイフを片手に持ったスピードアタッカーだろうか。
『Ready──』
開戦を暗示する赤文字が燃えていく。導火線は彼女らの闘志に繋がっている。
『──Go!』
「「死ねェ!」」
シェリーは挨拶代わりのクイックショット。ゲージを消費しないCT技で、最速カスタムなら攻撃発生を1Fにまで縮められる銃カテゴリの人気技。それをタンジェは地を這って回避、キモさに引いた顔面を顎の下からカチ割ると振り上げた凶刃を頭を仰け反らせカウンタームーンサルトで回避。
>早い早い早い
>あの…
>お前ら格ゲーマーじゃないだろ??
「ぐぇへっ!?」
>いただきました
>これはつかえる
>つかうな
先の攻撃に高威力のCT技を使ったせいで硬直したタンジェの鳩尾に爪先がヒット。外見以上に脆いのかHPゲージは2割ほど削れた、が。蹴り飛ばしたはずの身体は、シェリーの足から離れない。その違和感にシェリーはすぐに気づいた。
「お前『全身掴み判定』かよ!?」
>キモい……
>狭間の地にいそう
>ごめん見た目もダメだわ
>そうだよなぁ!!!
そう、タンジェの先鋒に名前をつけるとしたら、それは"異形の暗殺者"。フードの下は大量の腕があり、先ほど地面を這って避けたのもその手達によるもの。今の流れを簡潔に説明するにはカウンター誘発カウンター掴みという他ない。気持ち悪い。
「まだ両手空いてるんだよねぇ〜…!」
ムーンサルトのモーションが終わり、重力に屈して降りた足と共に接地したタンジェは胸倉を掴んで押し倒す。負けじと放たれた反撃の弾丸は受けてしまったが、この距離ではガードは不可能。
>ガタッ!
>座ってろ
>どう見ても捕食シーンだろコレ
「じゃあねぇ〜♪」
被弾分で稼いだゲージを消費して放つ致命の一撃。残りのHP割合を参照して威力の上がる超接近技。赤くなった体力で放つ、その威力は、勿論。
「ぬわぁぁーーーーっっ!!」
『K.O!!』
一撃必殺。勿論わずかなリーチさえも犠牲にした火力特化故のこととはいえ、酷い浪漫砲である。
Sherry:0-1:Tange
「痛っったぁ……!なんだよ今の!私のハインドがワンパン!?ふざけんだろその威力ぅ…!」
恨むシェリーの次鋒はサードムーンほどではないが大きな刃を持つ剣を持つ女騎士。露出は多いため、通常の騎士ビルドよりは耐久は低いものの、瞬間的な敏捷は高いだろうか。
>エッッッ
>ふふ…下品なんですが…
>通報した
「ファンメありがとうございま〜す♡」
>うぉ……
>わからせたい
>いやこれわからせされてる最中の……
対してタンジェの次鋒は聖職者。ただし、その髪も、瞳も、煌々と燃えているものとする。推測できるのは属性くらいか。先鋒が変態すぎたせいで詳細な型の推定がうまくいかない。
『Ready──』
互いに狙いを定め、今か今かと火蓋の落ちる時を待っている。
『──Go!』
「メギドパンチ!」
なのでまずはタンジェが右ストレート。膝と背中から焔を噴いて加速しながら。10メートルの間を即座に詰めて、殴らんと拳を叩きつける。
>げぇっ!自傷ブースター!
>知っているのか雷電!
>制御が難しすぎてすぐ断念した変態ビルドだよ…
「それ好きだねえ!!」
だが対シェリーに於いて、"知られている"というのはディスアドバンテージ。RTA走者という能力が基礎にある彼女に、同じ戦いがそう効くはずはない。無敵の付いたCTサイドステップで身を捻り、冷静に腕を一刀両断。大きくHPが減って部位欠損も発生。
>うわ強い
>なんで見えてんだよ…
>さっきも反応はできてたぞ。こわ。
「でもま、もう片手しかないみたいだけど〜!」
手数の減ったタンジェに迫る切り返し。タンジェは踵から焔を噴いて緊急回避、そのまま口からブレスを吐いて範囲攻撃。
「燃えろーっ!」
シェリーは思わずガードを貼り……はしない。だって、慣れている。この程度の熱量は。
「跳・大回転!」
>ここでゲージ切るのか
>…なぜそんなマイナーゲージ技を…
>ああ、なるほど。CTの回転切りとゲージの跳躍混ぜてる
>この組み合わせ初めて知ったわ。使お
ブレスを突っ切って、シェリーの両手剣が跳んでくる。命を刈り取る形をしているだろう。ゲージの代わりに体力を消費して戦う自傷ビルドの弱点は、ダメージ覚悟の決死隊!
「サヨナラ!!」
『K.O!!』
自己燃焼系聖職者はしめやかに爆発四散。死んだのだ。
Sherry:1-1:Tange
「特攻系好きすぎない?」
>本当にそう
>一周回って心地よい散りっぷり
呆れ交じりのジト目で繰り出したシェリーの中堅は双刀の女武者。ポニーテールと纏め髪から覗く頸が魅力的。
「浪漫こそ必勝、おとなしく死ーねーよー!」
>うわぁ…うわぁ……
>これコスト制限入ってるの???
>多分図体デカくした上で耐久と弾薬削ってる
地団駄を踏むタンジェの中堅は一言で言えば機械神。機械で出来た身体に大量の武器を仕込んだ完全火力偏重型。フルバーストで敵は死ぬ。
『Ready──Go!』
開戦直後、タンジェはトリガーを引く。
「ALL BAAAAANG!!!」
腹部からマシンガン、腕からはミサイル、瞳からレーザー、腰のレールガンに脚部のグレネードランチャー。そして何より腕は!
「弾幕貼るロケットパンチは聞いてない!!!」
>弾幕が分厚すぎる
>笑うわこんなん
>即死です本当にありがとうございました
全方位に鉛弾を放ちながら目標を追尾するスーパーロケパンである!キレながらシェリーは対処するしかない、私だって攻めたいのにとフラストレーションがゴリゴリっと溜まってきたがまだ我慢。
ガカカカカキィ──ン、ビュバァン!
>Oh…サァムライ……
>[おひねり]
気合を入れ、キメるは曲芸。無数の弾丸を幾らか斬り落とし、レーザーは刀身で反射。レールガンを回避する隙間をつくって、からのグレネードは──
「蹴鞠アタァーック!」
>お前平安武士かよォ!
>そんなのいねえよ
>いるわ馬鹿
──蹴り返し!ロケパンの拳とゴッツンコ!ああ、誘爆して大惨事だ!!これは爆発ダメージが加速してしまう!
「なんも見えねえ」
硝煙は雲を作って二人の視界を塞いだ。けれどタンジェは攻撃の手を緩めない。だからシェリーだって、反撃の手は緩めない。
>カメラ側も死んでおります
>もうダメだ…
>近づけねえよこんなの
「じゃあ終いだねぇ!」
縮地。無敵ワープのゲージ技。そして継続してあるだろう攻撃判定に合わせてカウンター技を起動、シェリー風に言えば積極的反撃。予備動作も何も見えてなかったタンジェへは当然直撃。
>草
>カウンターは置くもの
>そうはならんやろ
>なっとる!やろ!がい!
「それは酷すぎるってァー!!!!」
『K.O!!』
機械神は東方のサァムライに無事破壊された。文明より人の技術が強いことはままあることである。
Sherry:2-1:Tange
「はぁーっはっはっはぁーっ!!このまま3タテして私の勝ち逃げしてやるぅ〜っへぇい!」
調子に乗ったシェリーの副将は巨大槌。身長を低くして筋力を上げたある種貴重なロリシェリー。ただし勝利の勢いに調子付いている姿はドワーフのよう。
>かわいい…
>持ってるハンマーが可愛くない
>刺々しすぎで草
「子供の姿になったって手加減はしない……全力で潰す……」
怒りを激らせるタンジェ。副将に出したのは魔法使い。ただし厨二病寄り。腕に包帯とシルバーを巻いてくふふと笑う。
>見た目は厨二、中身は子供
>子供vs子供…ってコト…!?
>これはオチが見えるぞ
『Ready──』
シェリーは槌を構え、タンジェは杖を回す。どちらも臨戦体制、或いは……
『──Go!』
「重溜めェ!」「魔力覚醒ィ!」
>読み間違えたわ
>えぇ…
>だってお互い殴りに行くと思うじゃん!
……強化スキルの即行使の為。槌には闘気が纏われて、杖からは溢れんばかりの魔力が光って見える。一拍置いてお互いの攻撃技が発動。
「バッティングセンターにようこそ!ゆっくり見逃していってね!」
まずはタンジェより魔力弾のグミ撃ち。弾幕はパワーという先人の教えを胸に、火力を高めた多属性の乱れる雨を降らす。
>こわ…火力こわ…
>特化の魔力覚醒ビルドは初手火力高いからな……
>実弾ビルドと何が違うの?
>融通が効くか効かないかだな。効率だけなら実弾がいい
>スタミナ、CT、ゲージ、実弾、魔力、etc……気にするパラメータ多くない?
>それがストチャの楽しいところだよ
「バッターボックスないのに何言ってんのコイツ!?」
溜め、打ち返し溜め、次にぶん回して幾らかの弾を返す。が、まるで足りない。被弾が重なって重なって重なって、シェリーのHPはみるみるうちに削れてく。互いにゲージは増えていく。
「ほんっと、に追いつかない…なにこの、量は……!!」
目に手が追いつかない。双刀なら先の積極的反撃で突っ込めただろうが、このドワーフシェリーは悪癖の詰まった重量武器使い。そんなイカれ技は、残念ながら……今はない。だからやるのは一か八か、ゲージを燃やして喉に供給。放つは遠隔耳破壊。
「『Woooooooo!!!!』」
>この配信本当に耳に悪い
>死んだかと思ったよ
>お急ぎ便で鼓膜頼んでおいて助かった
>鼓膜ニキ俺にも分けて
「うぎゃぁ!?」
当然火力に極振りしたタンジェにそれを避ける耐える余裕はない。思わず膝を屈して、弾幕が……止まらない!
「え」
>うわ
>……まさか自動連打?
>狙いつかないのそういう理由かよww
手に持つ杖は、相変わらず周囲に魔力弾を生成し、撃ち続ける。そう、タンジェは魔力覚醒でHPさえも魔力に回した上で、魔力が尽きるまで弾を撃ち続ける杖を起動したのだ。代償として加減も狙いもできないが、その分密度と速度は折り紙つき。これが本当の暴走魔法。
「デッドボール、バッターアウトォ!」
>逆だ逆!
>審判のセリフだよそれ!
『K.O!!』
うそーんと世を憂い諦めたシェリーの顔面に魔力弾が連続ヒット。見せられないよ!が思わず走り出したくなるような酷い有様であった。
Sherry:2-2:Tange
「ころ…ひきころしてやるぞタンジェェェ──!」
結果を開けてみれば大将戦。現れた大将は勿論『英雄シェリー』。コストをたらふく注ぎ込んだ贅沢な専用兵装のオファニエルII世もゴキゲンにぎゃりるらら回っている。
>\\[オファニエルktkr!!!]//
>[待ってました]
>やったぜ!
>これで勝つる
「Breaaaaaaaaak!!!!」
対するタンジェの大将は……ドラゴンだろうか。ヒトガタを中心としてバグだらけのエフェクトに隠された竜の翼と爪、角を持っている。
>一番異形で草
>えっ何これは……
>有識者これ何?
>知らない
>多分……基礎性能特化型
「へぇ……武装特化と基礎特化かぁ……いいじゃん。今の私らに相応しい」
「Yeaaaaaaa!!!!」
>…これ言語機能まで削ってる?
>草
>ねーよ…とは言い切れないのが…w
『Ready──』
勝っても負けても最終戦、最後に勝つのは英雄か、それとも破竜か。それは、神のみぞ知る。
『──Go!』
開幕オファニエルII世……とにかくオファニエルは地面に叩きつけられた勢いをバネに、シェリーをギャギャガリガリガリァァァと前方に引っ張っていく。
「調整に苦労したんだぜこれぇーっ!」
>専用兵装型コスト調整難しいのに…
>費用対効果見合わないんだよなぁ
>わかる
>あえて重くしてるところあると思う
>そりゃあ、ね…
「Deeeeeeeathhhhh!!!」
それを見たタンジェは羽ばたいて、爪を振るうのみ。しかし、それだけで……ざくり石畳は大きく削れる。引っ掻き痕を見る限り、爪本体だけでなく……バグのエフェクト部分にまで攻撃判定があるようだ。しかも腐食系。当たったら……言うまでもない。
>ひぇっ
>射程見た目以上にデカくて草なの
>死ゾ
「なるほどノーダメでぶち殺せってか!ははは無理ゲーだよ……」
オファニエルを作り上げるのに、ストチャの英雄シェリーは本体性能が非常に脆弱。その耐久を補うためのデッドイーターも、ここにはない。理不尽移動のハンティング・ジャー、盾になるブロック・ロックだって足りなかった。言葉を選ばなければ、この英雄はハリボテなのだ。
>できないの?
>ふーん
>[ ]
だけれど、こうも視聴者らから最大に応援されては、負けるわけにいかない。
「やってやろうじゃねえかこの野郎ッッ!!」
>いつもの
>\[伝統芸能]/
>[煽り耐性ゼロ]
>勝利確定
足を軸にしてヘアピンターン、振り下ろした爪が上がるころ、シェリーは方向転換を完了させた。けれどあちらも頭はこちらを向いている。その顎門を開いて息を吸い、放たれるはため息か。
「Bleeeeeeeeess!!!!」
いいや、竜の吐く息とは、それすなわちドラゴンブレス。ゲージCTなしのバグ火炎が石畳をのたうち回り、シェリーを飲み込まんとするが……シェリーは勿論直進し続ける。
「実はさぁ、一つだけ……持ち込んでるのあるんだよねぇ……!」
オファニエルが変形し、宝石が引っ込んだ。そしてこのオファニエルの種別といえば『機械』であり、それの代わりに出てくるのも…『機械』でなくてはならない。つまり、『ロケット』が出てきたって不思議ではない!
>草
>そうなるかぁ……
>まぁ再現品だし、多少はね?
>そのうち本家にもつきそうなの
「跳ぶぜ[バーニング・リープ]ゥ!」
>跳べよぉぉぉぉ!!!!
>マッドサイエンティストだよお前…
>どうやって積んだの????
>とりあえず終わった後ビルド公開してほしい
オファニエルに持たせられた唯一のゲージの使い道。ロケットによる強引な空中推進力の付与。障害物と地形の破壊で稼いだゲージを消費して、ブレスを吐き続けるタンジェの上を取った。そして。
「超☆月輪大回転ッ!」
こちらはシェリーが持てた唯一のCT技、『ゲームの強制力』を悪用した空中での急速方向転換。斜め上に向かっていたオファニエルは頭上でシェリーを中心とした円周運動に移り。そのまま、落下する。重力に、遠心力と想いを乗せて。
>お目目回る
>三半規管バイバイアタック
>痛覚100なんだよね??
>怖い……
「Whaaaaaa──!?」
竜殺しは、為された。
『K.O!!』
顔面から下はぐちゃぐちゃの挽肉に。全身弱点部位にしてまで得た超火力は、それを上回る偏愛に負けたのだ。
Sherry:3-2:Tange
Winner:Sherry!
「よっしゃ私の勝ちぃーっ!!」
>おめ
>流石にね…
>いやタンジェも強かったからな??
>順番違ってたらわからなかったゾ
対戦が終わり、一旦ストチャからはログアウトした二人。シェリーは飛び上がって喜ぶが、対するタンジェは物理的に溶けて悔しさを表現。まるで時間がたって溶けたチョコのよう。
「うぇぇぇ……負けたぁぁ……」
>顔面が崩れてる……
>こいつ格ゲーの外の方が強いんじゃね?
>ちょっと思った
秘技、モデル崩し。ポリゴンの直接操作で動かしているからこの程度のギャグモーションはお手のもの。ある種負け芸が身に付いているとも言える、かもしれない。
「私の勝ち。なんで負けたか、次のゲームまでに考えておいてね」
腰に手をやって、胸を張って、満面のドヤ顔。むふぅだなんて効果音が似合ってしまうかもしれない。
>盛大な煽りっぷり流石です
>この後負けたら面白いのに
>[ksk]
「くそう……次は、勝って泣かすからな…」
「次も、勝って煽り散らかしま〜すww」
だなんて、ご機嫌に火花を散らしているうち。一つのコメントがやけに目についた。
>で、どこがバレンタインSPなの?
「「…………」」
>確かに
>そうかな…そうかも……
>見惚れて忘れてたわ草
「……やべぇ企画説明忘れてた!!!」
これがガバの女王の貫禄。コメントを見てからの一時停止と、シームレスな誤魔化し笑顔。そして堂々と明かされる笑撃の事実。
「なぁぁぁにやってんのこの女ァ!?」
勿論コラボ相手も対戦に夢中で忘れていたのだが。ここは全力で棚に上げて追求する。だってその方が面白いもの。
「対戦で勝利した配信者からはぁ、勝利数に応じて視聴者達に向けてチョコが贈られまーす!!!ハッピーバレンタイン、ってワケよ!」
沈黙が起き、続いて流れる歓喜のコメント達。この時点でシェリーの一勝分のチョコは確定している。
>は?それマ?
>\\[絶対にください]//
>ミーシャの圧よ
「ちなみにお届け先を入力するフォームはこっち、費用は二人の得たスパチャ代から出るよ。ファン還元祭だと思いなさいな!」
>やったー!!
>ちょこ…ちょこ……げへへ……
>これがチョコを貰えなかった非リアの成れの果てか…
無論視聴者達はフォームに殺到。シェリーが個人勢なのに割と人気があるのはこういう一面もあるから、かもしれない。
「あ、勿論届け先が誰になるかは抽選だから届かなかった子はごめんねー。そう無限の資金を使うわけにもいかないから…」
>流石にね
>タンジェ、マジで謎に金あるからな…
>音ゲー会社作った時は笑った
抜けていた重要情報はタンジェが補足。実務面だけは真面目らしい。いつものハイテンションはキャラ付けなのかも。そして言うべきことを言った二人は、改めてカメラに向かってポーズをとって叫んだ。
「「ってなわけで、私の応援、よろしく!!」」
──二人のコラボ配信は、まだ。始まったばかりだ。