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僕と私とネズミとあなたと

作者: はくちゃま

ここは私たちが知らない、あなたが知らない島。

 いっぱいの木に囲まれたこの島にどうぶつたちが住む村がありました。どうぶつたちも私たちを知りません。あなたのことも知りません。



「ああ、今日はすこし暑いな」



 ネズミはお腹が空いていて、お昼ごはんに村の離れにある大きな木、その木に成るおいしいおいしいリンゴを食べるために歩いています。

 お腹が空いて苦しいことを忘れるために、ネズミは目をつむり、まぶたの裏の真っ暗の中にリンゴをお絵描きしながら歩いていました。



 すると……。


「ドッテ―ン!」


 ネズミは深い、深い穴に落ちてしまいました。


「いてて、おかしいなー。昨日はこんな穴なかったのに」


 ネズミは穴から出ようと必死に土の壁を登ろうとしました。

 でも指が痛くて痛くて、とても登れませんでした。



「お――い!お――い!助けてよ――!」



 すると、陽気な声が聞こえてきました。



「なんだネズミ君、なにがよくてそんなところにいるんだい?」



「あ!太陽君!お願いだよ、ここから出たいんだ、手伝ってくれないかい?」



「ははは、それは無理だよ、いまからお月さんとデートの約束をしてるんだ。ガールフレンドを待たせたら嫌われちゃうだろ?いま最高に燃えてるのさ!」



「そんなぁ……」



「ネズミ君にはぼく以外にも友達がいるじゃないか、きっと大丈夫さ!」



 ネズミはしばらく穴から見える太陽君とお話をしました。時間が経って太陽君が穴から見えなってお別れしました。



「太陽君はいつも夜まで遊んでくれるのに、今日はそっけないなぁ」



 ネズミはまた助けを呼びました。大きな大きな声でいっしょうけんめい助けを呼びました。そしたら……。



「よお、ネズミじゃないか」



 ひょっこりと顔をだしたカエル君がこちらを覗いていました。


 

「カエル君!お願いだよ助けてよ!」



「いいとも」



 カエル君はピョンと飛び、穴に入りました。



「僕に名案があるんだ。ネズミ、僕に掴まりたまえよ。そしたら穴の外までひとっとびさ」



 ネズミは言われたと通りカエルの背中に掴まり、カエル君は全力でジャンプしました。でも、穴の外まであとちょっとなのに何回飛んでも出られません。



「ネズミ、君意外と重いんだな。これは出られそうにないよ。ごめんね、それじゃあね」



「そんな!きみのそのすごいジャンプならきっとできるさ!」



「いつまでもしてたら、疲れて僕がでられなくなっちゃうだろ?」



「グウ~~~~」



 ネズミのお腹が鳴りました。お腹が空いていたことを思い出したネズミは苦しくなってしまいました。



「なんだ、腹が減っているのか。なら待っていたまえ」



 カエルはピョンと飛び、穴から出て行ってしまいました。



「ピョン!ピョン!これでもか!」


 

 ネズミはカエルの真似をしてジャンプしました。でも何回やっても外には出られそうにありません。



 しばらくすると土の壁が盛り上がり、そこからモグラ君が飛び出てきました。



「やあネズミ君、この穴きみが掘ったのかい?すごいね」



「違うよ、落ちちゃったんだ。助けてくれないかい?」



「君も穴を掘ればいい、そうすればでられるさ」



 ネズミはモグラ君に教えてもらった通りに手で穴を掘りましたが、指が痛くて痛くて硬い土はとても掘れません。



「モグラ君無理だよ、だって僕には君みたいな立派な爪はないんだ」



「それじゃあ仕方ないな。僕はお腹が空いていてご飯を探しているんだ。お腹がいっぱいになったらまた来るよ」



 そう言いモグラ君はまた穴を掘ってどこかへ行ってしまいました。ネズミもモグラ君が掘った穴に入ろうとしましたが小さくて頭しか入りません。



 「ネズミ、なにをしているんだ」



 穴から顔を抜くと、となりにはカエル君がいました。手にはあのおいしいリンゴを2つ持っています。二人はリンゴを一緒にたべました。



「おいしいよカエル君、本当にありがとう」



「いいってことよ、でもネズミよ。僕たちがいつも食べてるリンゴは木から落ちたリンゴだろ?これも美味いが木に成ってるリンゴはもっと美味いらしい。ほっぺがリンゴみたいに赤くなるんだとよ。カラスの奴ですらあんなに高くは飛べないみたいだ」



「君ならすごいジャンプで木に成ってるリンゴも取れるだろ?」



「いや、僕にだって出来ないことはある。あんな高いんじゃ届かないよ」



 ネズミは驚きました。あんなにすごいジャンプができるカエル君なら太陽君とハイタッチができると思っていたからです。カエル君でも取れないリンゴなんて自分が食べれる訳がない。ずっとずっとずーっと食べれないと思いました。

 でも、別にいっかと思いました。だってこのリンゴも美味しいんだから。



 カエル君が帰った後、そらはすっかりオレンジ色になってしまいました。カァーっとカラス君が空を飛ぶのが見えました。



「いいな、カラス君は、だってあんなに立派な翼があるんだもの。僕に翼があれば、こんな穴からすぐに出られるのにさ」



 ネズミ君はもう寝ようと、目を閉じました。真っ暗で、夜にも思えます。ホントは夜じゃないのにです。もしかしたら一晩中、もっともしかしたらずっとこの穴から出られない。そんなことを思い、少し悲しくなりました。



「おい、お前、起きろお前」



 ネズミが目を開けると、見たことのないものが鼻に乗っていました。



「君は誰だい?」



「俺様か?俺様はミミズってんだ。お前はネズミだな?そうだろ?」



「どうして僕の名前を?」



「お前は俺様なんか小さくて興味もないだろうな、でも俺様はお前を知ってる。というか、この世界のことをぜーんぶ知ってるさ。俺様は小さいからぜんぶ見えるんだ。それもよーく見える。お前らはデカいからな」



 ネズミは驚きました。世界のぜんぶを知ってるミミズに驚きました。あの物知りなフクロウ君だって知らないことがあるのにです。ネズミはカエル君に聞いた木に成ったリンゴのことを思い出しました。



「それじゃあ、あの木に成ったリンゴの味も知ってるんだ!ねえ、どんな味なの!?」



「ん……?ああ、あれか!あれは美味かったさ!ジューシーで歯ごたえもよくて見た目もよくてなにしろ香りがいい!」



「うわぁー!すごい!すごいや!いいなぁミミズ君は」



 でもネズミ君が一番驚いたのは、ミミズ君には爪もないしジャンプする後ろ脚もないし翼もないのです。どうやってあのリンゴを取ったのか不思議でたまりませんでした。



「ミミズ君はどうやってあのリンゴを取ったの?僕にもできるかな!?」



 ミミズ君はしばらく考えていいました。



 「それは無理だね、君はあんな高い所にあるリンゴを取れっこない。君はないものを欲しがるからね」

 


 「え、そんなぁ……」



 「大して頑張る気もないし、やる前から諦めてる。そうだよな、君には翼もジャンプ力も立派な爪もない。どうやってあのリンゴを取るのさ?」



 ネズミは黙ってしまいました。涙がでそうになったからです。ミミズに言われたことにあまりに傷ついたのではありません。なんだか少し悔しくて、自分が情けなくなってしまったのです。ミミズはお構いなしに続けます。



「だいたいさ、あんなのいいもんじゃないって。そんなに頑張ってあのリンゴを取ってもさ、あんまいいもんじゃないぜ?どうせ疲れるしリンゴの味なんか覚えてねーんだからさ。そうだ!リンゴなんて本当はないんだよ!そうだそうだ!」



 ネズミは上を見上げました。でないと涙がぽろぽろ落ちてしまうから。我慢できずに誰かに助けを呼ぶように穴の外を見ました。

 すると穴から見える真っ暗の中にお月さんがポッカリ、こちらを見ていました。お月さんは優しい声で言いました。



「こんばんは、二人とも。話はきかせてもらいましたよ、盗み聞きでわるいけど」



「お月さん、お月さん、僕はどうしてネズミなのですか?どうしてカエル君やモグラ君やカラス君やミミズさんのようになれないのですか?」



「ネズミさん、よく泣きませんでしたね、ネズミさんだから泣かなかったのです。すごいことですよ……」



 それを聞きネズミはポロポロ泣いてしまいました。お月さんを見上げているのにポロポロ泣いてしまいました。それを見たお月さんはにっこり笑い。今度はミミズに話しかけました。優しい声で話しかけました。



「ミミズさん、海って知っていますか?私は見たことがなくて、ずっと見たいと願い続けてます」



「うみ?ああ、ありゃすんげーよ?色はこの綺麗な石と同じグレーでな、んで驚くなよ?大きさはなんと比べるもののなくデカいあのリンゴの木よりもすこーし大きいんだ!」



「そうですか、素晴らしいものなのですね、それは見てみたい。ミミズさんは物知りですね」



「当たり前だ、でもお月さんは小さいからなぁ、あんなデカいうみの全部は分からないだろうな」



「ほんとうによくわかってらっしゃる。私も海の全部は分かる気がしません」



 ネズミはミミズには驚かされるばかりです。だってあのフクロウ君がかなわないと言っていたお月さんよりも物知りなのですから。うみに想像をふくらませ、涙はすっかり出なくなりました。お月さんはネズミの方を見て言いました。



「ネズミさん、海を見にいってはいかが?聞けばあの大きなリンゴの木のさらに向こうにあるといいます」



「でもリンゴの木の向こうには背の低い木しかないってカラス君が言ってたよ?」



「その背の低い木々の向こうには何があるのですか?カラス君は行ったことがあるのですか?」



「いや、カラス君も同じ景色でつまらないからいつも途中で引き返すらしいんだ」



「じゃあ誰も知りませんね」



「でも、僕にできるのかな」



「大丈夫です。私も一緒にいきます。太陽君にも手伝うように私からお願いをします。みんなで海を見に行きましょう?」



 お月さんは、そろそろ穴から見えなくなってしまいそうでした。ネズミはまだ迷っています。お月さんはいいました。



「答えはいつになってもいいです。私たちはずっとずーっと待ち続けます。ただ私は、あの大きな木に成るリンゴ、とっても羨ましいし、気になって眠れません」



 お月さんはそう言い、穴からは見えなくなってしまいました。ミミズはネズミに言いました。



「ところでお前とは気が合うな!知らないことはぜーんぶ俺様が教えてやる。一緒にこの穴で暮らさないか?」



 ネズミは言いました。



「君と話すのは楽しいけどやめておくよ、やっぱり本当は僕あの木になったリンゴも食べたいし、うみってやつもこの目で見たいんだ。たまらなくどうしようもなくさ」



「ふーん、そうかい」



「それに土の中はもううんざりだよ、硬くて暗くて寒いし、ミミズ君もそう思わない?」



「まぁ、居心地がいいのさ」



 気が付けばあたりも明るくなってきてニワトリちゃんの合唱が聞こえます。すると「ドシーン、ドシーン」と大きな足音が聞こえてきました。



「おーい」



 穴の外を見るとカエル君とモグラ君と太陽君と、それからゾウ君もいました。



「ネズミ君、助けにきたゾウ、ほら早く僕の鼻に掴まって」



 ゾウ君が鼻を穴の底までたらしてネズミ君はそれに掴まりました。ネズミはミミズに言いました。



「君も一緒に来ない?みんなときっといい友達になれるよ!」



 ミミズはムスっとした顔で答えます。



「嫌だね。太陽なんか暑苦しい、カエルも下品だしモグラなんかもってのほかさ、ゾウが俺様に気付かず踏みつぶされちゃたまらんしな」



「そうか、残念だよ。でも話せて楽しかったよ!また会おうね」



 ミミズはなにも言わずにモグラ君の掘った暗ーい暗ーい小さな穴に這って行きました。ゾウはグイっと鼻を持ち上げてネズミはようやく穴から出ることができました。



 ネズミは改めてお礼を言いました。みんなの顔は、とっても誇らしげでした。この穴は、また誰かが落ちてしまわぬようにみんなで土を被せて埋めました。もうこれでネズミのように嫌な思いをする友達はいません。



「グウ〜〜〜〜」


 

 穴を埋め終わると、みんなのお腹の虫が鳴りました。お腹の虫はみーんなの中にいます。



「リンゴを取りに行こう」



 ゾウ君が言いました。ゾウ君の背中にみんなで乗ってリンゴの成る大きな木のところへ行きました。途中で散歩をしていたカラス君とフクロウ君にも会い、ゾウ君の背中は友達でいっぱいになりました。大きな木のあたりにはいつも食べている落ちた美味しそうなリンゴがたくさんあります。でも高い木の上にはもっと美味しそうなリンゴが成っていました。ネズミは言いました。



「あの木になったリンゴ食べてみたいな」



 でもカエル君は言いました。



「僕も君もカラス君ももぐら君もフクロウ君もゾウ君でさえ無理なんだ。できっこない」



「でもカエル君もみんなもあのリンゴを食べたいだろう?みんなで力を合わせればきっとできるさ、僕に考えがある」



 ネズミはみんなを集め、ある作戦を話しました。



「それならできるかも」



 みんなは言いました。みんなの顔は嬉しそうです。それもそのはず、だってあの木のリンゴを食べられるのですから。みんなツタで鉢巻を巻きました。



「作戦開始!」



 ネズミがそう告げ、ゾウ君が鼻を使ってカエル君を背負ったモグラ君を力いっぱい空に飛ばしました。モグラ君は高い所でその立派な爪で木にしがみつきました。そしてカエル君がモグラ君の背中を蹴ってたかーいジャンプをしました。そのカエルを上空でキャッチしたカラス君とフクロウ君が一個のリンゴに向かってカエル君を投げ飛ばしました。カエル君はなんとあの木に成ったリンゴの1つにしがみつき揺さぶり、プツンとリンゴが外れてカエル君はリンゴと一緒に地面に真っ逆さま。下にいたみんなは用意していたクモの巣を広げ、カエル君をキャッチしたのです!



「やった!成功だ!」



 みんなは手を取り合って喜びました。みんなで手を取り合って喜びました。太陽君も満足そうです。



「あーはははははははは!おっかしーや!」



 後ろから大きな笑い声が聞こえました。振り向くとミミズがいました。大きな大きな声で笑っています。そして大声で言います。



「やいネズミ!お前はやっぱりなにも出来ないじゃないか!あのリンゴはお前以外のおかげで取れたんだ!」



 フクロウ君がミミズに聞きました。



「あなた、いつから見ていたのですか?」



「ぜんぶ見てたさ、お前らがコソコソ話してるのも、ゾウがそいつらを鼻で投げたところからもぜーんぶだ」



 それを聞いたみんなは言いました。



「きみ!なーんにも知らないじゃないか!!ぜーんぶネズミ君のおかげさ!」



 みんなに笑われたミミズは怒りました。



「俺様がなにもしらないだと!ふざけるな!ふざけるな!」



 それを聞いたみんなはもっとおかしくなって笑いました。



 それからミミズはだんだん恥ずかしくなって、ぷいとそっぽを向いて、大きなリンゴの木とは反対の方へ這って行ってしまいました。



 ようやく笑いがおさまった後、カエル君がもっているさっき取ったリンゴを見ます。一度見たらじゅるりとよだれが止まりません。見た目は別に落ちているリンゴと変わりません。1つしかないので順番にみんなでかじりました。でも…………。



「いつものリンゴと同じ味じゃないか!」



 そうです、そこらへんに落ちているリンゴも、木に成ったリンゴも同じ味だったのです。いったいだれが木に成ったリンゴは特別おいしいなどと言い出したのでしょう?



 ただネズミは言いました。



 「でも、なんか美味しいね」



 カラス君も続けて言います。



 「というか、なんかすっきりしたさ」



 みんなは「それだ!」と言いました。



 でもネズミだけはこころにムズムズがありました。我慢できなくなったネズミは言いました。



「ねぇ!みんなでうみを見に行こう!」

 


 ネズミはみんなに、昨日お月さんに聞いた”うみ”のことをお話ししました。



 ネズミがあんまりにも”うみ”というものは素晴らしい……らしいというものだから、みんなもだんだん気になり始めました。誰も”うみ”というものは見たことがないのに、無理だという者はいませんでした。こうしてみんな、リンゴの木の向こうへ歩き始めました。みんなが”うみ”を見たくなってしかたがなかったのです。歩いている間にも”うみ”について話し合いました。みんなもどんどんムズムズしてきて、気付かぬうちに早足になっていました。でもみんなの言うことは、結局は同じです。それはというと。



「そんなの……知りたいに決まってるじゃないか!!」



 広い青空に浮いた太陽君はそんなみんなの様子を見てひとりだけ、口を手で塞いで、みんなとは少し違った”ムズムズ”を感じていたのでした。


 


 ところ変わって、ここはみんなが去った後の大きなリンゴの木、そこにあの子たちが取ったリンゴの食べ残しが落ちていました。それを一生懸命に食べているのは、そうミミズです。彼はほっぺたをリンゴのように大きくして言いました。



「うますぎる!こんなにうまいリンゴは他にあるわけがない!!」と。



 いつまでもいつまでも、そう言いましたとさ。

幼児が読んでいつか大人になったら思い出してほしい。

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