03話
そしてこんな日々が続くと、まぁ当然だけどフランツと口喧嘩をする事が増えていった。 でも喧嘩をする度にフランツは「もういい別れる」と言ってきた。 私は何もフランツと別れたいという訳では決して無かったので、私はその言葉が出てくる度に喧嘩の内容に関わらず最終的には私が謝るというのがいつもの流れだった。
でも私はそれでもいいと思っていた。 だって私は彼の事が好きだというこの気持ちは本物だと思っていたから。
それに今は両親と離れて、初めての自由な暮らしというのがとても新鮮で楽しく感じているから少しヤンチャしてるだけなんだ。 だからいつか時が来くれば、あの優しかった頃のフランツに戻ってくれるはずだ。 だから私はそれまで彼の事を好きでい続けようと思っていた……だけど……
「はぁ……」
やはりこういう生活が続いてしまうと、気がつかない内に私のフランツに対する好きという気持ちはどんどんと摩耗していってようだ。 そして私の心の中からフランツが好きだという感情が無くなっている事にようやく気が付けたのは……幸か不幸か今日の浮気現場を目撃したからであった。
◇◇◇◇
フランツの浮気現場を見てしまった後、私はそのまま自身の屋敷に直帰してからひたすらぼーっとしていた。
浮気していた事に関しては確かに辛いという気持ちは若干ある。 でもそういう気持ちは本当に若干しかなくて、私の心の中の95%くらいは「なんかもうどうでもいいなぁ」っていう気持ちで占めていた。 理由はこの数ヶ月で愛想が尽きたからだろう。
「……ははっ」
私はそんな自分の心の変化にビックリしてつい笑ってしまった。 きっと1年以上前の私だったらこんな気持ちにはなってない。 きっとホテル街に仲良く入っていく直前に私は飛び出してフランツの腕を掴んでそのまま走り去ったと思う。 そして「何をしてるのよ!」と、本気でフランツの事を怒っただろうし、もしかしたら涙も流したかもしれない。
それが今じゃ「あぁ何かもうどうでもいいや……」っていう気持ちになってしまうなんて。 フランツの事は幼少の頃から大好きで、許嫁になってからもう10年以上も経っている人なのに……それがたったの数ヶ月でここまで愛想が尽きるなんて想像もしてなかった。
「……もう潮時なのかな」
この数ヶ月間でフランツとの会話はだいぶ減ってきたし、ここ最近は喧嘩を全然していなかった。 だから“彼の浮気”というちょうど良い喧嘩材料が今手に入ったわけなんだけど……でも私の心は少し複雑だった。
「失礼します、お嬢様」
私はそんな事を思っていると、私の部屋に一人の従者が入ってきた。 彼の名前はルシウスと言い、私が幼少の頃から仕えて貰っている私専属の従者だ。 年齢は私と同じく17歳で顔立ちも整っている好青年で、幼い頃から共にこの屋敷で育ってきたので、ルシウスとも幼馴染の関係と言って良いだろう。
「ルシウス……どうだったかしら?」
「はい、やはり……黒ですね」
そう言ってルシウスはフランツと若い女性がホテルの中から出てきた所の写真を私に見してきた。 それは先ほど私がルシウスに頼んで撮ってきてもらった写真だ。
「そう……そうよね……」
「如何致しましょうか?」
私がそうポツリと呟くと、ルシウスは私に向かってそう尋ねてきた。 ルシウスは感情を表に出すタイプではないのだけど、今この瞬間のルシウスの顔はとても怒っている表情だった。 それはきっと……私のために怒ってくれているのだろう。
「ううん、気にしないでいいわ。 ルシウスも私のために怒ってくれてありがとう」
「で、ですが……それではお嬢様があまりにも不憫です……」
ルシウスは私のためにそう言ってくれた。 普段のルシウスは私の従者であるという信念から常に表情を読み取らせないように立振る舞っているのに、そんなルシウスが今は表情を露わにして私のために怒ってくれている。 それは本当はあまり喜んではいけない事なんだろうけど……でも私のために怒ってくれる優しい味方が身近に居てくれるという事にとても安堵させられていた。
「この証拠があれば幾らでも制裁は加えされる事は可能です。 お望みでしたら、さらなる証拠も集めて御覧に入れます」
続けてルシウスはこう言ってきた。 確かにこんな証拠があればフランツの事は簡単に制裁を加えさせる事が出来るだろう。 でも……