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家族3

少しぼやけた視界で起き上ると、あの大きなベッドの上だった。少しぼーっとしていたが、何があったのかを思い出して慌てて首に触れた。息が出来ないほどいつも苦しむのに今はない。身体中が痛くなって動けなくなるのに痛くない。それに気づくと、すぐ隣から手が伸びて来た。ファナスさんが一緒に寝ていたみたいだ。


「起きたかい?」


「うん・・・」


僕が弱く頷くと、ファナスさんは身体を起こして僕の頭を撫でた。大きな手でなぜか偉い偉いと褒められるように撫でられ、僕は不思議そうにファナスさんを見つめた。


「リク、教会で何をされていたのか自分で分かる範囲でいい、教えてくれないか?」


ファナスさんが急にそう言ったが僕は困ってしまった。教会で何をされていたのかは前に答えたからだ。それ以外には無いから困った。それが伝わったのか、ファナスさんが苦笑いを浮かべた。


「ポーションを飲んで首に浮かび上がったモノがあった。そういったことがほかにもあったのか知りたいんだよ。リクだけダメだと言われたことや、リクだけが食べた物、飲んだものがあるか知りたい。」


ファナスさんの言葉に僕が思い出したことを伝えると、ファナスさんは側にあった紙に伝えたことを書きつけ何か確認しているみたいだった。サイドテーブルの上には書類の束がいくつか乗せられ、ベッドにも何個か乗せられていた。その書類の束を脇によけると、ファナスさんは僕の前に名前が書き連ねられた紙を差し出した。きれいな紙で、キラキラと輝いて見える。


「これからリクに大切なお願いがある。答えは今すぐじゃなくてもいい。でもいずれちゃんと決めてほしいと思う。リク、私の子供になって欲しい。父と子になりたい。」


ファナスさんが真剣な顔で言葉を告げたが、僕には意味が分からない言葉に聞こえた。それが表情に出ていたのか、ファナスさんは微笑み、誰かを呼ぶように手招きをした。いつの間にか部屋の中に綺麗な女性が居た。その隣に2人の少年が居た。


「リク、私の妻のアリーシャ。長男のカイル。次男のタクトだ。この家で共に暮らす家族だよ。」


「初めましてリクちゃん。アリーシャよ。」


「カイルだ。」


「タクトだよ。」


ベッドの側に来て3人が挨拶をしてくれると、僕の前に置かれている紙をアリーシャさんが見つめた。


「急に出会ってすぐに家族になりましょうなんて困ってしまうわよね。」


アリーシャさんが僕の表情を見てそう言ったけど、でもねと大切な事を話してくれた。


「リクちゃんの力はとても大切な力なの。それに、悪い人たちが欲しい力でもあるわ。教会で何をされていたのかは聞いたわ。このままお家に居てもいずれまた教会へ行くことになってしまうかもしれない。今度はちゃんとした教会だとは思うけれど、横のつながりがある教会なら、孤児である子供を移動させることは少ないけれどあるのよ。そうなればまた悪い教会へ行くかもしれない。それは嫌よね?」


「いやだ・・・」


僕が小さな声で教会には行きたくないと答えると、アリーシャさんは優しさの混じった眼差しで僕を見つめた。


「教会は孤児を新しい家族の元に案内する役割を持っているの。孤児を集め、みんなでどうやって暮らしているのかを教え、そして新しい家族の元へ行かせる。本来ならそうやって子供たちをちゃんと守れる場所へ送り出すの。でも孤児だからという理由で教会に縛り付ける場所もある。リクちゃん、私たちと家族になれば孤児ではないわ。私たちは貴方を守りたい。家族になって、貴方を守り、貴方が大人になるのを見届けたいのよ。」


「孤児じゃない?」


僕が不思議そうな声で問いかけると、アリーシャさんは微笑んだ。


「そうよ。私たちが家族なのだから、孤児じゃないわ。孤児と言うのはね、親や家族が居ない子どもたちの事を言うのよ。」


アリーシャさんの言葉に僕がびっくりした顔を見せると、ファナスさんが僕の肩を抱いて顔を覗き込むように見ていた。


「私たちはリクを家族として迎え入れたいんだよ。父と母、兄たちとして過ごしたいと願っている。そう願っていることを分かってもらいたい。返事はリク自身がちゃんと考えて返してほしい。」


ファナスさんが僕の手をしっかりと握って言うと、僕はギュッと唇を噛み締め、震えそうになる身体を必死に隠して口を開いた。


「本当に・・・家族になるの?」


僕の小さな声にファナスさんの手が僕の手を優しく握りしめ、フッと微笑んだ気がした。怖くて顔を見れずにうつ向いていたから分からないけど。


「家族になるんだ。今すぐに分かって欲しいとは思っていない。」


「家族になっていいの?」


僕が泣きそうな声で問いかけると、ファナスさんは僕を優しく抱きしめてくれた。そのまま、いいんだ、家族になろうと優しい声で言ってくれた。悪い子だからお迎えが来ないと思っていたのに、お迎えが来たことにビックリしたけど、また居なくなっちゃうかもしれないって怖い。そのこともファナスさんは少しずつ一緒に居ることで、居なくならない事をちゃんと分かって行こうって言ってくれた。




それからごはんとかいっぱい食べられるようになってから、家族になりますって言う紙に僕の名前をファナスさんが代わりに書いてくれて、初めて僕は街へ出掛けることになった。僕のお出掛けはちょっと大変だった。変装みたいな恰好をしてお出掛けすることになったからだ。大きな馬車に乗ってるから変装しても分かっちゃうと思うけど・・・。

街の中に到着すると、大きな立派な建物に案内されてファナスさんが知らない人たちと話をしていた。それを僕もアリーシャさんたちもただ側で見たり、話を聞いているだけ。たまにアリーシャさんが会話に交じってファナスさんと知らない人たちに話をしていた。チラッと話をしている人が僕たちを見ることもあったけど、何かされるわけでもなかったし、何か話をすることもなかった。ただファスナさんたちが話すのを見ていただけで終わっちゃった。建物を出て街を歩くことになり、ファスナさんとアリーシャさんに手を握られ、カイルさんとタクトさんも僕のすぐ後ろに居て何か見つけるたびに何か説明してくれていた。とても楽しくて大切な事を忘れていた。


「・・・ゃん・・・・クちゃん。リクちゃん!」


アリーシャさんの声が急にはっきりと聞こえ、ハッとしたように僕が驚いた顔でアリーシャさんを見ると、どこかホッとした顔を見せた。


「疲れさせたみたいね。少し休みましょう。」


アリーシャさんが疲れたのだと思って休憩するために場所を移動した。大通りを歩き、いくつかある食べ物屋さんを通り過ぎると、僕はファナスさんの手をギュッと握っていた。


「大丈夫だ。何も起きない。」


ファナスさんが僕の様子を知ってかそう優しい声で言うと、歩みを止めることなく進んだ。大通りを少し歩いた先の角を曲がるとゆっくり出来そうな食べ物屋さんがあった。そこに入ると、ファスナさんやアリーシャさんが何も言わなくても飲み物や料理が運ばれてきて、いつの間にか部屋の中に僕たちしか居なかった。


「疲れただろう。それに昼食もまだだった。先に食べてしまおう。」


ファスナさんが用意された食事を見て言うと、カイルさんもタクトさんも迷うことなく手を動かして食べ始めた。それを見ていた僕の前にお皿が置かれると、アリーシャさんが微笑んだ。


「少しだけでも食べて。私たちが食べているお皿から少しずつ取ったものよ。食べても大丈夫。」


アリーシャさんがテーブルの上にあるお皿を見て言うと、僕は恐る恐る手を伸ばしてフォークを掴んだ。お皿に乗る料理にそのまま手を伸ばそうとした。


『お前が食べていい物ではない。我々から逃げ、大切な教会を滅茶苦茶にした罪人が食べるような物ではない。お前が何をしたのか思い出せ。』


急に聞こえた声にビクンと身体を強張らせると、フォークから手を放して口を押えた。アリーシャさんがそんな僕を優しく抱きしめ、背中をゆっくりと撫でてくれた。


「無理にとは言いたくないわ。でも少し食べてほしかったの。」


「アリーシャ、まだ何かあるようだ。リク、守ると約束しただろう?もう怖がらなくていいんだ。」


ファスナさんがアリーシャさんと入れ替わる様に席を移ると、僕の背中に手を当てて微笑んだ。


「私が側に居る。食べられるものを食べよう。」


ファスナさんに促されてフォークを持つと、またあの声が聞こえるんじゃないかと思ったけど聞こえなかった。カイルさんとタクトさんのちょっとうるさい声に消されちゃったのかと思うほど何も聞こえなくて、僕は美味しい料理を何とか食べることができた。

休憩が終わった後はお洋服を買いにお店に行ったり、靴を買ったり、僕がお家で使うものを買ったりといろいろなお店を回った。来た時と同じように馬車に乗る頃には僕は疲れて馬車に乗ったことも覚えてなかった。



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