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家族2

リクがリリアと部屋に戻ってきたが、部屋の様子が明らかに様変わりしていたため目を丸くした。リリアでさえも目を見張った。


「ファナス様、一体何がありこのような事に・・・?」


リクに用意されていた部屋は廊下と繋がる扉を入ればリビングだった。気軽に談話でき、リクがいつでも遊べるようにとおもちゃでさえ用意された子供向けの部屋。その部屋の壁の一つに扉の無い入口があり、そこから寝室へと入る。寝室も色の基調は子供向けの淡いもので、大きなベッド以外はほとんど子供が使うものだ。そうであったはずなのだが、大きな部屋の一角になぜか執務室のようなスペースが設けられ、寝室にもファナスの荷物が運び込まれていた。


「療養させているため遠慮していたが悪夢を見ると分かったため、側に居ようかと思って移動させた。リリア、私の事は気にしなくていい。ジナルにも話を通してある。」


「いえ、あの・・・お聞きしたいことはそうではなく・・・」


リリアが困惑していると分かり切ったような挙動を見せると、ファナスはリリアが抱いているリクを受け取り、抱きしめた。


「リリア、ドンに伝えてリクの朝食を。」


「承知しました。」


リリアは仕方ないと言わんばかりに言葉を飲み込んでリクの食事をとりに部屋を後にした。ファナスはリクとソファに座ると、リクの背中に薄い子供用の布団をかけた。膝の上に座らせ、抱きしめるように向かい合っていたためだ。


「リク、リクの事だけを知っているのは少し不公平だから私の事を伝えるよ。時の力をリクは持っているね?」


時の力と言われた瞬間、リクの身体が大きく跳ねた。怯えるようにファナスの服を強く掴む感触があり、ファナスは苦笑いを浮かべた。


「私にもある。リクだけではないよ。」


ファナスがそう言うと、リクはガバッとファナスを見るように身体を離すと、ファナスをしっかりと見つめた。その表情がポカンとしていたため、ファナスは頬を緩くして少し笑ってしまった。


「驚いたか?」


「なんで?いろいろな物視える?」


リクが悲しそうな表情になってファナスに問いかけると、ファナスはリクを抱きしめて背中を撫でた。


「視えるよ。とても大変だった。」


「・・・怖くない?」


「怖かったよ。私にはどうすることもできない事を知らせて来る。それによって人が居なくなってしまう事もたくさんあった。」


「僕・・・」


リクが何か言おうとして言葉が止まると、ファナスはリクの頭を優しく撫で、背中をポンポンと優しくあやすように叩いた。


「教会の司教たちが捕まえに来る夢を見てしまったんだね?それに、また首輪を付けられそうにもなった。」


「!!」


ファナスの言葉にリクが身体を強張らせたが、ファナスの手を振りほどいて身体を起こすと、驚いた顔を見せた。


「時の力はね、いろいろと便利なんだよ。私は力の使い方をちゃんと学び、ちゃんと訓練して使えるようになった。無理矢理使うことも、何もないのに使う事も無い。知りたい事を知るために使える。」


ファナスが少し首を傾げてリクを微笑んで見つめると、リクはファナスの服を強く掴んだ。


「怖いよ・・・。怖いっ!!」


リクが涙を流して何が怖いのかは言わなかったが、怖いんだと伝えてきた。ファナスは泣くリクをあやしながら側に居るから大丈夫だと伝え、リクを守ると伝え続けた。

リリアが食事を持って部屋に入って来たが、思っていた通りリクは食べられなかった。食事を見つめ、どうしていいのか分からないようにファナスとリリアを見比べた。


「リク様、少しでも構いません。お口へ入れて下さい。全て食べて下さいとは言いませんので、少しだけでもお口へ・・・」


リリアがリクの側に座って言うと、リクは恐々スープに口を付けたが一口食べてすぐに要らないというようにファナスの方を向いてしまった。その為リリアがファナスを見ると、ファナスは困ったような顔を見せたが、頷いた為リリアが食事を持ってまた部屋から出て行った。


「リク、ポーションだけでも飲んでおこう。身体が少しでも良くなっているんだから、それを悪くしてしまうのはいけない。」


ファナスがリクに小さな小瓶を見せて言うと、リクは小瓶を見つめたが、頭を横に振った。


「飲んじゃダメだって・・・」


リクが回復の為のポーションを飲ませてもらえなかったのか、飲むことを禁じられたのか、飲むことを拒否するように言うと、ファナスは真剣な顔でリクを見つめて頭を横に振った。


「飲みなさい。ここは教会じゃない。」


「・・・怒られるもん・・・」


リクがギュッと身体を小さくするようにして呟くと、ファナスはテーブルの上にあったベルを鳴らした。ジナルがお呼びですかと部屋に入って来ると、ファナスは頷いた。それを見てジナルが辛そうな顔で執務机の上から木箱を持ってきた。


「よろしいのですね。」


「ジナル、私もしたくはない。だが、リクが死んでしまうような状況になりかねない事を避けるには、これしか手が無いのも事実だ。」


「ファナス様、屑どもと同じことをなさらないでください。」


「ならどうすればいいと言うんだ。」


ファナスがじれったそうにジナルに怒ったように言うと、ジナルは木箱をテーブルの上に置き、リクの手を優しく包み込んで側に座った。しっかりと目を見つめられたリクは、居心地が悪そうにソワソワとしていた。


「リク様が居た協会はもうありません。リク様を怒る司祭も祭司も居ません。子供たちを縛り付け、好きなように弄んでいた教会関係者さえ捕まり、処罰を受けています。犯罪奴隷として司祭、祭司は死ぬまで解放されません。関係していた者たちも犯罪奴隷として罪に見合った年数を奴隷として過ごし、解放後も罪を犯せないよう呪いを刻まれます。リク様を苦しめる者はもう居ません。決死の覚悟でファナス様を手助けしてくださったリク様を私共は失いたくありません。どうか少しだけでも私共を信じて下さい。理由なくリク様を苦しめることはありません。」


ジナルがしっかりとした声でリクに語り掛けるように言うと、そっとポーションの小瓶をリクの手に握らせた。


「お飲みください。リク様に今必要な物です。」


ジナルが飲んでしまってほしいと願いを込めるような目で見つめると、リクはギュッと身体を固くして一気にポーションを飲み干してしまった。飲めるのかと安堵した表情を見せたジナルとファナスだったが、リクの首に浮かび上がった痣のような模様を見て目を見張った。リクがファナスの服を掴み、苦しそうに表情を歪めて見上げた。


「そこまで落ちていたのか!!ジナル、すぐにタクトを呼べ!」


「すぐに。」


ジナルが部屋を慌てて出て行くと、ファナスはリクの首に触れてふわりと微笑んだ。


「少し眠って居なさい。苦しみを無くしておく。」


急にリクの身体から力が抜けると、重たくなったリクをファナスは抱き上げ寝室へと運んだ。リクを寝かせると、バタバタと足音が聞こえ、寝室にジナルと少年が入って来るところだった。


「タクト。」


少年・・・タクトはファナスに呼ばれるままベッドに近づくと、すぐに寝かされているリクの隣に上がり込み、ファナスを見上げた。


「どういう事なの。この子は何をされていたのか分かってるの?」


「知らないだろう。タクト、ポーションを飲んでそれが浮かび上がった。リクに今必要なのは身体の維持だ。それをさせないために付けられた呪いだろう。掻い潜って身体を回復させられるか?」


「できるけど・・・回復してもこれがあったらまた弱っていく。これをどうにかしないと。」


タクトがリクの首にある模様を忌々しそうに見て言うと、ファナスはジナルを振り向いた。


「連絡は?」


「先ほどあり夕方にはお戻りになると。」


「タクト、それを排除できる算段が付いた。回復させてあげてくれ。」


「本当に助けられるんだね?ちゃんと聞いたからね。」


タクトがファナスをどこか胡乱気な目で見つめ、リクに視線を向けた。タクトから暖かい光のようなものが溢れ出すと、リクの手を握ったタクトから光がリクを包み込んだ。時折パチパチと爆ぜるような音が聞こえ、タクトの表情が険しそうに歪んだ。


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