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家族1

教会に自警団や私兵、騎士たちが突入し、囚われていた子供たちが救い出されたという情報が各地に流れて3日。教会が神様から与えられる力で、とても大切な力を持つ子供たちを捕え、私欲のために服従させていたことが情報として流された。各地域にある教会に調査が入り、同じような教会がいくつか摘発された。子供たちは王立の教会へと引き取られ、心身の健康を調査したうえで日常生活に戻り、里親となる人たちの元へ行けるよう過ごしていく。摘発され、逮捕された祭司、司祭たちの人数が多く、教会への不信感も強まったこともあり、多くの教会が閉鎖されることになった。王立の教会がある地域でさえ、教会だと言う事で人々からの目が厳しくなっていたが、広く自分たちの行いを開示しているためなのか襲われることは無かった。徐々に王立の教会への目は緩くなりつつあった。

フォレスティンの街。リクが丘の上から眺めていた大きな街だ。交易が盛んな為かフォレスティンの街は活気づいていた。この街を拠点にして北へ向かえば馬車に乗って7日ほどで次の大きな街へ行ける。西へ向かえば馬車で10日ほどで王都。東へ向かえば馬車で4日ほどで次の大きな街へ。南へ向かえば馬車で5日ほどで海のある街へ出る。流通の拠点地の為にこの街はいろいろな物で溢れ返っていた。街は商業街、住宅街、工業街、小さいながらも田畑の区域があった。住宅街の中では一番大きな家にリクは寝かされていた。大きなベッドにフカフカの布団。そこにリクが寝かされて眠っていたが、看病に訪れたメイドは毎日辛いものを見るような表情でリクを見つめた。布団をあげて身体を拭くために衣服を脱がせれば、全身傷だらけであり、傷跡さえ残る身体が見える。枯れ木のような細い腕や脚。やせ細った身体は見るに堪えないほどだ。ささっとやることを終えると、温かくするように布団を優しくかけた。数秒見つめていたがメイドはその場を離れようと足を動かそうとした時だった。かすかに瞼が動き、リクが目を少しだが開けたようだった。

ぼやけた視界に遠くの方で誰かの声が聞こえる。男の人と女の人。それが分かってもそれ以上は僕の意思じゃ身体が言う事を聞かなかった。すぐにまた暗闇に戻っていた。はっきりと目を覚まし、痛む体で起き上ると、見たことの無い部屋に居た。大きなベッドに座り周りを見れば二つ部屋が続いている。このベッドのある部屋も衣装棚が大きく壁際に取られ、それ以外にも棚が二つほどあった。大きな窓から差し込む光がベッドの端まで届いている。呆気に取られていると、桶を持ったメイド姿の女性が入って来るところだった。メイドさんがベッドの上に座っている僕を見て驚いた顔を見せると、すぐ部屋を飛び出していった。


「ここはどこだろう・・・」


僕は小さく呟くと、バタバタと足音が響き、部屋に人が駆け込んできた。身形の綺麗な人ばかりで、騎士さん?メイドさんと執事さんかな?その人たちも居た。一番に部屋に入って来た人に見覚えがあった。


「やっと目を覚ましたんだね。覚えてくれているかな?」


ベッドの側に来て端に座って僕をしっかりと見つめてそう言った人は、教会でネックレスをくれた人。僕を引き取りたいと言った人だ。それを伝えると、とてもうれしそうに微笑まれた。

「良かった。覚えてくれていたようだね。」


「ここ・・は・・・?」


僕がおずおずと問いかけるように聞くと、目の前の人が真剣な表情を見せて僕を見つめた。


「ここは私の家だよ。教会から君を引き取り、共に居る家だ。教会の事は覚えているかな?」


「僕、悪いことをして怒られたんだけど、司祭様はどこ?」


僕が覚えている最後の事を告げるように言葉にすると、目の前の人が僕の肩を掴んで頭を横に振った。


「怒られるようなことはしていない。司祭たちは悪いことをして償うように今考える場所に居る。」


「僕は?」


司祭様たちがごめんなさいとしているなら僕も同じだ。悪いことを僕もしていた。僕が司祭様たちに伝えていたからだ。


「リクは違う。少しずつ伝えるから少し落ち着こう。それと、私の名を伝えていなかったね。私はファナス。ファナス・ギル・フォレスティンと言うよ。後ろに居るのは、騎士の姿をした者がカミル。メイド長でリクの世話をしてくれているリリア。この家の執事ジルナ。落ち着いてから面会するが、私の家族もこの家に一緒に住んでいる。」


ファナスさんがそう言って側に居た騎士さん、メイドさん、執事さんを紹介してくれた。リリアさんは何となくだが側に居てくれたような気がするから覚えている。ジルナさんは教会にファナスさんと一緒に来ていた人だった。それも覚えている。カミルさんは初めて会ったと思う。


「リク、今は弱っている身体を休めて、少しでも元気になれるようにしよう。話しはそれからでもできるからね。リリア、ドンに伝えてリクの食事を用意してくれ。ジナル、しばらく側に居る。後の事は頼んだ。」


「すぐに厨房へ行って頼んでまいります。」


リリアさんがすぐさま部屋を出て行くと、カミルさんがファナスさんに何か小声で話をしてから部屋を出て行った。ジナルさんは何も言うことなく一礼して部屋から出て行ったため、ファナスさんと2人きりになっちゃった。


「リク、今すぐ分かるようなことじゃないからこちらも伝えるだけ伝えて行こうと思っている。リクが教会でしていた事を私たちに伝え、祭司たちが捕まったことはリクが悪いからではないよ。教会がリクたちのような子供たちに首輪をつけて生活させていたことがまず間違いなんだ。その上、個人の力を利用して教会に有利なように働きかけていた事も協定違反に値する。それを告発することができなかっただけで、告発したからと言ってその告発した者が悪いわけではない。守られるべき立場だ。だからリクは教会でしていたことを徐々に忘れて行きなさい。私の屋敷で過ごすうえで、君の力は使わない。使わせない。普通の子供と同じように成長してほしいと思っている。」


「・・・祭司様たちは悪い子だって・・・。だから僕にはお迎えが来ないって・・・・」


教会に引き取られて首輪を付けられたときそう言われた。悪い子だからお迎えが来ない。それなら教会で過ごし、お迎えが来るようにいい子になって教会の為に尽くせばいいんだと。そうしていればきっとお迎えが来る。そう言われた。でも僕は祭司様たちを怒らせたままだ。悪い子なんだ。それをファナスさんに伝えたら、ファナスさんは悲しそうな顔になった。


「そう言って子供たちを教会に縛り付けていたのか。リク、君は悪い子ではない。とてもいい子だ。私を助けてくれた心優しいいい子だ。だから少しずつ教会で過ごしていたころのことと私の家で過ごすことの違いを感じ、教会が間違っていたんだと思ってほしい。リクはいい子だからね。」


ファナスさんが僕の頭を撫でて優しい声で言うと、リリアさんが戻ってきた。ワゴンを押して部屋に入って来ると、そこに湯気の立つスープが乗っていた。みじん切りになった野菜や肉が入ったスープ。少しだけ穀物も入っているようだった。それを僕に食べさせるようにしてスプーンを運んでくれる。僕はいざ食べようと思って自分の腕が見えた途端びっくりした。あまりにも細くなった腕が見えたためだった。その上あまり無理をするとポキッと骨が折れてしまうらしい。だからリリアさんが食べさせてくれている。お医者さんから少しでも肉が付き、筋力が戻るまでは無理をさせないほうがいいと言われたんだって。身体を動かすのも、無理をしちゃダメで、お風呂さえも誰かと一緒。そうじゃなければ取り返しのつかない事態になると言われているんだって。

僕がファナスさんの家で手厚い看病をされながら過ごすこと2ケ月。どうにか枯れ木のような手足が少し肉を付けていた。まだまだ痩せ細ってはいるが、病的なまでに痩せているようには見えなくなった。ごはんもまだ同じ年の子たちと同じような物、同じような量は食べられないが、それでも引き取られた時よりは量が増えている。徐々に良くなっていく僕をファナスさんたちはとても喜んでくれている。毎日ニコニコと僕に会いに来てくれているから嬉しい。そう思えていたんだ。でも今朝、僕は悪夢を見て飛び起きた。金切声のような悲鳴を上げて飛び起きた僕は、慌てて首を押さえ床にうずくまった。こんな立派なベッドの上に居ちゃダメだと床に慌てて降りたんだ。


「リク様!何がありました!」


床にうずくまり丸くなって震えている僕にジルナさんが駆け寄ってきて声をかけてくれた。でも僕はジルナさんを振り向く勇気が無かった。だって夢で言われたから。


『そこに居ること自体お前には間違いだ。お前は教会の為に尽くし、その力を教会の為に使い、お前の命を捧げなければならない。神が与えた力なら教会の為に使う事が本来の使い方である。その首にまた輪を付けに行く。お前の力は教会にあってこその物だ。お前は逃がさない。』


ハッキリと覚えている言葉と、首に触れた指の感触。怖くなってうずくまって居たらフワッと体が浮いてベッドの上に下ろされた。ファナスさんが抱き上げてベッドへと下ろしたことが分かった。ガタガタ震える身体と、一向に首を押さえて動かない片手。ファナスさんは首にある片手を優しく自分の片手で包むと、ゆっくりと首から動かした。首に異常と思われる物がないことが分かり、ファナスさんは見るからに安堵した表情を見せた。


「何を視たのか教えてくれるかい?無理にとは言わない。リクが教えてもいいというのなら教えてほしい。リクを守るために必要になるかもしれないからね。」


ファナスさんがしっかりとした声で言ったが、僕は首輪を付けられるんじゃないかと恐怖で何も言葉が出なかった。怯えた様に引きつった声が飛び出し、ファナスさんは微笑んで弱く頷いた。


「分かったよ。もし言えるようになれば教えてほしい。リリア、湯の準備を。リク、温かい湯に入っておいで。真っ青だ。温まってきなさい。」


ファナスさんに促されるままリリアさんに抱っこされて僕はお風呂へと向かった。リリアさんに抱っこされていても僕はガタガタと震え、恐怖で身体が固くなっていた。




リクがリリアと風呂場へ向かうのを見送り、ファナスはジナルを振り向いた。ジナルは部屋を見回し、何やら思案気な表情でリクが眠っていたはずのベッドを見つめた。


「ジナル、気になることができたのなら教えてくれ。」


ファナスがジナルを見つめて言うと、ジナルはベッドから視線をファナスへと移した。


「あの者たちが何か手出ししてきたにしては痕跡が無いもので・・・何が起きたのかを察するには情報が少なすぎますね。」


「ある程度リクがどのように生活していたのかは教会に居た子供たちから聞いている。聞くに堪えない事でもあった。子供たちもどう表現していいかわからなかったようだからな。もしかしたら教会での生活を思い出し、あまりにも違う今の状況との間で混乱しているのかもしれないとは思っている。」


ファナスがジナルを見つめて言うと、ジナルはベッドを振り向いた。


「混乱しているようには見えませんでしたね。明らかにリク様を縛り付けていた首輪があったところを隠すように手で守られていた。再度リク様にもしもがあるのかもしれません。それを視られたのでしょうか・・・」


「リクは当分の間1人にはしない。必ず誰かを側に居させ、異変があれば報告させる。リクは私が許可しない限りこの屋敷からも、わが敷地からも出すことはしない。身体が少しでも体力を戻し、動き回ってもいいと許可が出なければ部屋からも出すことはない。ジナル、防御は強固に頼む。」


「分かりました。遠出されている奥様にご連絡を致しても?」


「一声かけてある。後数日で戻るそうだ。」


「承知しました。」


ジナルが部屋から出て行くと、ファナスはリクが眠っていたベッドへと歩みより、しわの寄った場所に手を置いた。


『時の力か。あまりにも強大すぎる力に打ち勝てず亡くなる者が多数出る力。リクは悪用されたから力に負けているが、教会へ連れ去られる前までは普通に過ごせていた。どうにか怯えなくていいことを伝えて行かなければならない。リクは必ずここで守って見せる。』


ファナスがベッドに触れていた手を握りしめ、目を閉じた。そのまま数秒動かずじっとしていると、ファナスは深い息を吐き出し目を開けた。その表情は険しかった。


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