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始まり3

リクを見送った男性は教会が解放する公園を見回し、そこで笑顔で遊ぶ親子連れを微笑ましく見ていた。


「接触は滞りなく終わったようですね。ファナス様。」


樹の裏側に居るもう1人が声をかけてきたため、私は頬が少し緩み微笑んだ。公園を見回していた時に見せた微笑みではなく、心から表情が緩んでしまった。


「ジルナ、ああ、接触できたよ。」


「本当によろしいのですね?あの子を救い出すためにここを失わせる結果になり得ますが。」


ジルナがしっかりと答えを問いかけるように言うと、私は真剣な表情で公園を見つめた。


「失うことはない。正常な教会へ戻ればいいだけだ。子供たちを傷つけることの無い教会へ戻ればそれで構わない。」


「戻らなければ失います。」


「戻るさ。戻すために動いて居る。」


「はぁ・・・構いませんよ。貴方様がなさりたい事を遂行するのが我々の役目ですのでご自由に進めて下さい。」


「ジルナ、あの子は嵐を呼ぶぞ。それに、多くの事を背負う。傷も深い。助けてやるのが大人だ。」


私がジルナにしっかりとした声で告げたため、ジルナは真剣な表情を見せた。


「分かりました。できる以上の事を致しましょう。」


「頼んだ。これ以上失う命があってはならない。」


私が立ち上がって公園から出ると、ついてくる影が複数あった。その影を引き連れて街まで戻ると、人混みの中に私は消え、ついて来ていた影は離散するように四方へと消えていた。




変な男性と話してから7日目の朝。公園の大きな樹で独り言を呟いていた。僕が知っていることを小さな声でただ呟き、心に溜まっていたしこりのようなモノが軽くなれば立ち去る。あの人と話してから2日目の朝も同じことができたから、今日で2回目。みんなの目を盗んで何かをするのは怖いけどどこか楽しかった。宿舎に戻って来ると、ワグナーさんが部屋の前で待っていた。それを見てビクッと身体が強張った。


「朝から散歩ですか。予想以上に回復しているようで何よりですね。着いて来なさい。」


ワグナーさんに言われるがまま着いて行った先は祭壇だった。いつもの雰囲気ではなく、どこか恐ろしいほどの雰囲気が漂っていた。司祭様が壇上に3人ほど立ち、祭司様もほとんど集まっていた。それを認識した途端、頭の中に流れた映像に息が詰まりそうになった。


「その子が例の子か。」


「はい。いつも神の声を届けてくれる子でございます。」


ワグナーさんが司祭様の前に僕を突き出すように押し、僕は身を固めるしかなかった。3人の司祭様の手が僕の首にある輪に順番に触れると、ワグナーさんがいつも身に着けているブレスレットを捧げるかのように一番派手な司祭服に身を包んだ人に渡した。ブレスレットを受け取ったその人は僕をしっかりと見つめて微笑むと、強くブレスレットを握りしめた。


「かぁっ!!」


ブレスレットが握りしめられた途端僕の首にある輪が締め付けられ、息が詰まった。崩れ落ちそうになる僕の腕をワグナーさんが掴み、両手を後ろに上げ、跪き頭を下げるかのような恰好になると、服の隙間からネックレスがこぼれ出た。


「従順な子供ほど唆されやすい。ただこの子は後の事が分かっている以上悪意がある。教会に対し暴挙を働いた。罰は受けなければならない。」


いつの間にか呼吸ができるようになっていたが、引き千切られるようにネックレスを奪われ、張り手を何度か受けた。


「奥へ。しっかりと反省させなければならない。刃向かうことなどさせないほどにね。」


少しの間呼吸が弱くしかできなかった為に朦朧としていた僕は祭壇の裏にある階段を下りた先にある地下へと引きずり込まれていた。

薄暗い地下の通路を通り、牢屋のような部屋がいくつもあった。その中の一つに僕を連れて入ると、足に枷を嵌め、壁にある鎖に手枷を付けて僕を壁に向けて立たせた。ヒュンと背後で何かが空気を割く音が聞こえ、ビシッと背中に鋭い痛みが走った。


「いあっ!!」


痛みに声を上げると、ビシビシ何度も痛みを受けた。いつまでビシビシ背中を叩かれ続けたか分からない。気が付けば僕は壁に押さえつけられ首を掴まれていた。


「ごめんなさい。許してくださいと心から反省するまでここから出しません。死なないようにはしますが、最悪死んでも仕方ないと思いなさい。」


司祭様が首から手を放して牢屋を出ると、僕はズルズルと壁から滑ってその場に座り込んだ。足音が遠ざかっていくのが聞こえると、グッと首輪が少し締め付けた。牢屋の中を照らすように赤い光が首から発生した。

足音が聞こえ、赤い光と締め付けが弱くなると司祭様が牢屋へとやって来た。あれから何日経ったのか分からないけど司祭様が懲罰を下しに来ていることだけは分かった。背を鞭で叩かれ、背だけでは飽き足らなかったのか、身体中あざだらけになってしまった。首輪の締め付けも以前より強く、意識を失うことがよくあった。


「リク、何か言わなければならないことはありませんか?」


司祭様が椅子に座った僕に問いかけると、僕は司祭様を見上げた。


「ごめんなさい・・・」


小さな声で謝ると、強い力で頬を張り飛ばされた。


「謝るだけで許されるようなことをしたのですか?貴方が何をしたのかよく考え言葉にしなさい。」


「ごめんなさい・・・」


何度謝っても強い力で殴られ、暴言を聞かされた。あのネックレスを誰からもらい、何をしていたのか聞かれたけど、ちゃんと答えは返さなかった。公園で拾ったモノだと答えて、身に着けて居たら持ち主が見つかるかもしれないと思っていたと。それで納得するようなことじゃなかったのか、暴力は増すばかりだった。

朦朧とした意識が浮上すると、牢屋の外が慌ただしかった。


「やはり情報を漏らしていたのですね。」


「はい。自警団と領主の私兵が包囲しています。じきに王直々の兵も到着すると・・・」


「分かりました。子供たちの首輪を外し放ちなさい。致し方ありません。」


「赤色もですか。」


「証拠を残してはなりません。すぐに。」


「はい!」


司祭様が牢屋に入って来ると、ぐったりとしている僕の首に手を当てるとカシャっと首輪が外れた。


「いずれちゃんと貴方にはもっと厳しい罰則の付いた首輪を与えます。貴方を逃がすことはしませんよ。しばらく自由を楽しみなさい。受けた苦しみを存分に思い出して、自由な時間が間違いだと知りなさい。従っていれば痛みも苦しみもなく、幸せなんだと。貴方はそうしているべきなんですよ。」


司祭様がまるで呪いのように告げるのを朦朧とした意識の中で聞いていると、ドタバタと慌ただしい音が聞こえた。その音を聞いて司祭様が牢屋を駆け出していき、姿を消した。僕は重たい瞼を閉じるように目を閉じると、暗闇の中に落ちていた。


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