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毎日がエイプリルフール

作者: 九頭坂本

 そもそも嘘とは何なのか、という話だ。

騙される方が悪い、

誤って認識していたやつが悪い。

人間なんて、大抵嘘しか口にしないじゃないか。

例えば、先生や上司に向かって態度を

変えるのだって自分を偽る行為で、

感情だって

都合不都合を綺麗に作り替えたものでしかない。

この心理学の本によると、

人間の持っている複数の人格は

全てその人の一部なのだそうだが、

どの人格も本物だとするなら、

全ての人格は平等に偽物になってしまう。

「要するに、毎日エイプリルフールってこと」

膝の上に乗せていた分厚い本を閉じ、

公園のベンチから私は立ち上がった。

四月に入って少しずつ暖かくなってきて、

あたりにはちらほらと人影があった。

「好きだよ」

知らない若い女の声が聞こえ見ると、

高校生くらいのカップルが手を繋いで歩いていた。

彼女の愛の囁きを

受けた男の子は顔を赤くして照れていた。

「恋とは」

衝動的な性欲による、壮大な自らへの誤解である。

この世にいる恋人たちは全て嘘つきだ。

少しの私情を込めた冷たい視線を

彼らに向けて、私は早歩きでこの場から去った。

街中に入ると、そこは嘘つきたちで溢れていた。

いつからか自らを欺き、

偽物の自分を本物だと勘違いして生きている大人、

自分が偽物だとすら気付けない子供。

無意識に嘘をつき続ける我々は、

正に本物の嘘つきだと言えるかもしれない。

人気の無い横道に入り進んでいくと、

桃色の花びらが足元に落ちてきた。

屈み拾って確認すると、

それは可愛らしくて綺麗な形をしていた。

気まぐれに

風の吹いている方に歩いて行ってみると、

ほとんど花が散ってしまった桜の木があった。

細い枝が晒され、

満開の時の華やかさは失われていた。

「素敵」

知らないうちに私の口から漏れていた。

私は、人間として欺かれているべき

嘘を失った正直者の自分と、

花びらを失ったこの桜の木を重ねていた。

もう一度春が来るまで、

私達はこの世界では咲くことが出来ない。

それでも、私の中に起こっている

この高揚感は、確かに嘘では無かった。

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