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少女の呪い

 メラニは夢を見ていた。

 まだ〝彼女〟が呪いを受ける前の記憶。

 人間の少女だった頃。


『おっはよー、今日も良い天気だぜ』

『こら、メラニ。もっとお淑やかな言葉遣いにしなさい』

『まぁ、気が向いたらな。お母様』


 メイドたちに世話をされるような、過保護さ溢れる立場に反発したのか、年頃の女の子なのにヤンチャな性格だった。

 しかし、人付き合いも良く、友人は沢山いたのだ。

 両親も心配はしていなかったが、家柄もあって優秀な家庭教師を付けることにした。

 それもメラニをお淑やかにさせるための人選で、だ。


『初めまして、メラニちゃん。今日から私があなたの家庭教師です』

『は、初めまして……』


 それはメラニが初めて出会った、大人の異性だった。

 顔はハンサム、物腰穏やか、常に優しい笑顔を向けてくれ、レディーファーストを心がけてくれる。

 それは思春期によくある、大人への憧れが混じり合った一目惚れのようなものだったのかもしれないが、そのときの気持ちは本物だった。

 メラニは生徒として、恋する乙女として、家庭教師を慕っていた。

 もちろん、恋愛などしたことがなかったので告白すらできなかったし、相手も子どもは恋愛対象として見てくれなかった。

 そんなモヤモヤした気持ちを抱えて過ごしていたのだが、それは起こった。

 メラニの誕生日パーティー、みんなの前での出来事だ。


『な、何だこれ……姿が仔馬に……!?』


 突如、呪いによってメラニの姿が変えられてしまったのだ。

 周囲はざわめいた。

 目の前で少女が仔馬に変化したとなれば大騒ぎだ。


『なぁ……どうしてみんなそんな目で見てるんだよ……。ほら、メラニだよ……助けてよ……』


 仔馬の姿で、メラニの声を発する存在を見て周囲は罵声を投げかけた。


『何だ、このバケモノは!?』

『メラニをどこにやった!』

『もしかして最初から化けていたのか!!』


 メラニはショックを受けたが、まだ心のよりどころがあった。

 自らを信頼して、大切な生徒として育ててくれている先生だ。


『せ、先生……これはどうしたらいいんだよ……なぁ……? いつもみたいに教えてくれよ……?』

『お、お前みたいな生徒は知らない!!』

『え……?』

『そ、そうだ。お願いがあります。もし本当にメラニなら、バケモノを教育したという評判が立つ前に――死んでください』


 もっとも信頼していた先生から、引きつった笑みを浮かべられ、願われた死。

 それは少女の心を深く傷付け、第二の呪いのようなモノになった。

 世界は醜い。




 ***




「ちっ、いつもの胸糞悪い夢を見ちまった……」


 薄目でも分かる眩しさと、朝の匂い。

 もう起きる時間だ、と目をゆっくり開けたのだが、いきなりフェアトが見えた。


「おはようございます。何やら、うなされていましたが大丈夫ですか?」

「うわっ!? 近ぇよ! 何で私様を見てるんだよ!」


 メラニは素早く四本足で立ち上がり、ズザッと後ずさった。


「起きてる時に観察すると怒られるので。あ、もちろん指一本触れてはいません」

「そ、そんなの……喋る馬の私様なんて見ても気持ち悪いだけだろ……」

「いいえ! そんなことはありません! どの本にも載っていない、喋る仔馬! 生命の神秘です! とてもステキですよ! もっと知りたい!」

「……何か調子狂うな……こいつ……」


 フェアトは笑顔で、悪意があるようには見えなかった。

 しかし、人間というものはいつ掌を返して、裏切るかというのはわからない。

 メラニはまだ心を許す気は無かった。

 持っている秘密の力も隠しておく。


「さてと、僕は〝星弓〟の練習を再開しますね」


 フェアトは大穴の中心部へ向かって歩いて行く。

 その足跡と共に、赤い何かが点々としていることに気が付いた。

 よく見るとそれは指先から滴り落ちていて、どう考えても血だ。


「お、おい。先生。もしかして大穴に落ちた時、ケガをしていたのか?」

「いいえ」


 フェアトは一言だけ告げると、静かに〝星弓〟を出現させた。

 魔力で作り出した弓に矢をつがえ、構え、引き絞り、上へ向かって放つ。

 指先からは飛び散る血液。

 よく見ると指の皮が剥がれて赤い肉が見えている。


「な、なぁ……私様が寝ている間も練習をしていたのか?」

「はい。正確には、魔力切れで動けないときは横になりつつメラニさんを観察していましたが」

「おいおい、ほぼ一晩中じゃねーか……」

「ハハハ、不甲斐ないことにそれでも目標の半分くらいの高さにしか達していません」

「ったく、そんな無駄な事をしてどうなるってんだぜ……」


 そのときはまだ、すぐにフェアトは音を上げるのだろうと思っていた。




 次の日、フェアトは同じように空に向かって矢を放ち続けていた。

 指の肉は抉れ、大穴の中央には血の水たまりが出来ていた。

 水しか飲んでいないようで頬が痩せこけ始めている。


「あ、メラニ君、おはようございます。今日も良い天気ですね」

「……なんでそんなに頑張れるんだ? しかも一人で」


 矢を放つことを止めず、フェアトは答えた。


「いえいえ、一人ではとても無理です。生徒がいるから、先生として頑張れるんですよ」

「なんだそれ?」

「メラニ君のおかげということです」


 メラニは軽口を言おうとしたのだが、無言になってしまった。

 愚直で誠実すぎる。

 こういう奴は絶対に人生を損している。

 そんな印象が浮かんできた。


「ふんっ」


 気に入らない、嫌い、認めたくない。

 それらを鼻息で噴き出すようにして、用意していた果物をフェアトの方に蹴って寄越した。


「メラニ君、これは?」

「そこらでテキトーに拾った。食え」

「ありがとうございます」


 こんな大穴に都合良く果物が落ちているはずがない。

 明らかにメラニが特殊な何かで入手したものだとわかる。

 そんなことはフェアトも察しているのだろうが、必要以上に聞いてこなかった。

 メラニは、『もっと私様を頼れよ』と思ったが口には出せない。

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