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英雄の教室を訪れた二人目の生徒

「というわけで、到着です」

「お、お師匠様! なんですかここは!?」


 初めて〝英雄の教室〟空間にやってきたパイは、突然切り替わった景色に目を白黒させていた。


「ここが僕の教室です。正確にはメラニ君の力ですけどね」

「いや、あの……曲がり角を曲がったら急に別の場所に……」

「ああ、そこに驚いてしまいましたか。すみません。どうやら()けられていたので、メラニ君に頼んで英雄の教室に逃げ込みました」


 フェアト、メラニ、パイの三人は図書テントから出たあと、ガラクに尾行をされていた。

 傭兵であるガラクは気配を消していて、普通なら気付くことができない。

 しかし、フェアトはケイローンの加護で感知能力が上がっていて気付くことができた。

 そこでメラニにコッソリと耳打ちして、人気の無い曲がり角で英雄の教室への道を開いて移動してきたのだ。

 尾行していたガラクからすれば急に消えたように見えるだろう。

 今頃は抜け穴でもないかと地面や壁を探しているのかもしれない。


「なるほど、そういうことだったんですね! お師匠様!」

「さてと、これからどうするかということですが――」

「うぅ……問題は山積みですもんね……。急いで今からお師匠様の授業を!」


 不出来な自分のせいで大変なことになっていると自覚しているパイは、珍しくやる気を出して勉強をしようとしていた。

 しかし、フェアトは首を横に振った。


「いいえ、パイ君。今日は授業はしません。休むことも大切な仕事ですよ。……ええと、メラニ君」

「なんだ、先生?」

「パイ君を女子寮へ案内してあげてください。男子禁制なので僕は立ち入ったことがなくてですね……」

「おうよ、そっちの方は任せておくんだぜ! だから、先生も今日はゆっくり休みな!」

「アハハ、お願いします」


 メラニとパイは、教室がある建物から少し離れた女子寮へと行ってしまった。

 フェアトはそれを見送ったあと、考え事をしながら宿直室へと移動する。


「問題は山積み……たしかにパイ君の言うとおりなんですよねぇ」


 頭の中で問題を整理した。

 パイの占い能力の低さ――……的中率0パーセント、これは驚異的である。

 敵対する陣営――……ガラクは明らかに悪意を持って尾行をしてきた。主であるライバル星見イカの指示だろう。こちらに無茶な要求をしてきたジンが関わっているかは謎である。

 図書テントで見つけた、暗号で書かれた重要そうな本――……文字配列的にたぶん単体では解けない暗号と推測される。

 と、主な問題となっているのはこの辺りだろうか。

 これらを一週間で解決しなければならないのだ。

 常識的に考えると並大抵の難易度ではない。


「さてと……」


 宿直室に戻ってきたフェアトは、ニュムが用意してくれていたらしい温かいお茶に感謝しながら、飲んでホッと一息吐く。

 そして、生徒には休むことが大事と言ったが、本人は机に向かって写本を開いた。


「まずは瞬間記憶した本の内容を整理して書き出し、そこから一週間分のカリキュラムを組み上げますか」


 基本的に丸暗記したものを、そのままパイに伝えても効率が悪すぎるだけだ。

 きちんと整理して、今伝えるべきものと、そうでないものを分けて、効率よく楽しく覚えられるようにしなければならない。


「うーん、さすがに本棚9個分ともなれば、整理するだけでも徹夜になりそうですね。しかし、パイ君を生徒として受け入れたのです。頑張りましょう。彼女がどう育っていくのかも楽しみですしね」


 どんなに困難な問題が山積みでも、フェアトは自分から生徒を投げ出さない。

 それが、このままだと自らの片腕が切り落とされることになるとわかっていても――だ。

 しかし、フェアトは失念していた。

 今、物凄いスピードで手稿のページを文字で埋めていっているのだが、その報酬として何かが起きるのが〝英雄の教室〟だということを。

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