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売れない占い師の事情

「ええと、それで話をまとめると、星見の落ちこぼれから脱出したいから、先生に頼んだってことだよな?」

「は、はい! その通りです! ユニコーン様!」

「うーん、急がなくても私様としてはゆっくり上達していけばいいと思うんだが、何か理由でも?」

「実は……命に関わるような期限が迫ってきているのですよ……。これだけは心配をかけてしまうので言わないようにしていたのですが……」

「い、命に関わるような期限が……!?」


 メラニは、相手がそこまで重い運命を背負っているとは思いもしなかった。

 自らの呪いを思い出して、深く共感してしまう。


「軽はずみに聞いちまってすまねぇぜ……」

「いえ、わかってもらえれば結構です、はい」


 メラニとパイは良い笑顔で和解した。

 直後、呪いのテントの入り口がバッと開かれ、一人の背の高い男が入ってきた。

 パイと同じ民族衣装で青い髪、顔の彫りが深く二十代後半に見える。

 どこか責任を背負っているような貫禄を感じた。


「妹よ、まだ諦めていなかったのか」

「お兄ちゃん……」


 パイの兄と聞いて、フェアトは違和感を覚えた。

 性格の違いなどではなく、何かぱっと見で感じたのだ。

 しばらく観察して気が付いた。

 パイの兄には獣の耳と尻尾がない。

 何やら複雑な家庭環境のようだ。


「パイ、お前が一週間後の星見の儀式に成功するはずがないだろう」

「で、できるもん! そのために色々と頑張って――」

「どれもこれも失敗ばかりだろう。この世界はそんなに甘くない、いい加減に諦めろ」

「諦めない! 絶対に諦めないもん!!」


 フェアトは、初めてパイの真剣な表情を見た。

 立場が上であろう兄に対して、怯まずに主張する少女の姿。

 教師としては何か心奮い立つものがある。


「あたしは、絶対に諦めない! ニート生活を打ち切られるなんて諦められるはずないよ!!」

「……んん? ニート生活?」


 思わずフェアトは口に出してしまった。

 パイの兄は、そこで初めて部外者二人に気が付いた。


「ああ、これは失礼。外からのお客様でしたか。ぜひ、星見の里を楽しんでいってください。では、私はこれにて――」


 丁寧なお辞儀をして、彼は立ち去った。

 数秒間の沈黙。

 フェアトは〝無〟の表情のまま、パイの方に視線を向ける。


「パイ君、命に関わる期限とは?」

「そ、その……えーっと……うへへ……。実は、働けって家から追い出されちゃいそうで……」


 何とも言えない空気になるが、メラニはフォローを入れた。


「い、いや、でもさ。パイはまだ子どもだし、それをいきなり働けって家を追い出されるのは困惑して当然というか――」

「あ~、あたし20歳です」

「…………………………パイさんって呼ぶぜ」


 パイの程度が低すぎる言動や、大して成長していない平坦な身体から勝手に同年代の13歳くらいだと思い込んでいたのだ。

 ただ単に色々と成長していないダメ人間だったようだ。


「というわけで、お師匠様! あたしの輝かしいニート生活のために、一週間後の星見の試練を成功に導いてください!」

「うわ~……開き直ったぜコイツ……。先生、今からでも断った方がいいんじゃ?」


 さすがのフェアトもさじを投げるのではないかと思ったが――


「いいえ、珍しい本が読めるとなればムシクソハムシだって生徒にしますよ」

「ムシクソハムシ……名前からしてきっとロクでもねぇぜ……」

「ハハハ、もちろん冗談です」


 ちなみにムシクソハムシとは、糞に擬態することが出来る虫である。

 普通に動いていてもかなり芋虫の糞っぽい姿だ。

 その幼虫はさらに強烈で、実際の糞を身に纏って擬態している。

 そんな事とは露とも知らず、パイは自信満々のドヤ顔を晒していた。

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