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森の強者認定

「さて、進みましょうか。まだ襲ってくるモンスターがいるかもしれないので警戒しながらですが」

「お、おう! 外なんて怖くねーぞ……怖くねーぞ……」

「大丈夫、僕が守りますから」


 大人の男性から守ると言われて、少しだけときめいてしまったメラニだったが。


「生徒を守るのが教師の役目です!」

「ああ、うん……頼んだぜ」


 やはり、いつもの通り〝異性〟ではなく〝生徒〟としてで、ため息を漏らしていた。

 ――それから休憩を挟みつつ、数時間歩いて気が付いた。


「先生、モンスターが襲ってこないぜ……? もしかして、この森にはさっきのダイアウルフしかいなかったんじゃねーの?」

「そんなことはないですよ。今も遠巻きにこちらを見ているモンスターが複数いますね」

「ひえっ!? お、襲ってくるつもりなのか!?」

「いえ、たぶん平気でしょう。本で読んだのですが、ダイアウルフの群れは縄張りの範囲が広く、他のモンスターからも一目置かれる存在です。その縄張りが倒した僕らのモノとなったと認識されて、彼らは警戒しているのでしょう」

「なるほど……。たしかにダイアウルフの集団に一人で勝っちまう先生を相手にはしたくないぜ」


 メラニはホッと一安心した。

 瞬間、フェアトはメラニを片手で抱き寄せる。


「ですが、離れると危険です。もっとくっついてください」

「お、おう!?」

「生死に関わるので、少し汗臭いですが我慢してくださいね」

「せ、生死に関わるのなら仕方がないぜ……我慢してやる……」


 メラニは歩き方がぎこちなくなったが、フェアトはそれを周囲のモンスターへの恐怖としか認識しなかった。


(先生って、本当に女性に対しての機微が疎いな……。もしかして、わざとやっているんじゃ。いや、たぶん本当に仔馬扱いされているだけな気がするぜ……。意外と顔立ちも綺麗だし、こんな性格じゃなかったら恋人がいるだろうしな)


 ハタから見たらシュールな絵面だが、メラニとしては真剣に考えていた。

 周囲のモンスターも異種間の愛に心打たれたのか、もとい混乱したのか『ポニーを嫁にしている人間……』という認識だった。

 恐ろしいので近付かないでいた。

 自らの嫁や娘を避難させるモンスターもいた。

 そんな事とは露とも知らず、二人は歩き続ける。


「先生、そういえば星見の里ってこっちの方向でいいのか? もう結構歩いてるぜ……」

「ええ、地図が正しければ間違いないはずです」

「へ~、先生。地図なんて持ってたんだ。それに地図だけあっても方角がわからないと進めないし、方位磁石も?」


 フェアトは首を傾げた。

 ここに来たときは着の身着のままで、所持品は何もなかったからだ。


「いいえ? 地図は持っていませんよ」

「え!? じゃあ、どうやって……」

「だから、普通に地図って言ったじゃないですか。五年前に見たのでバッチリです」

「ご、五年前ー!? ああ、終わった……迷って終わりだぜ……」

「アハハ、記憶力の良い方で覚えているんですよ」

「そんなの、いくら記憶力があったって――」


 メラニが沈んだ声で言った瞬間、森の終わりが見えてきた。

 その先に――なだらかな下り坂が続く広大な草原と、小さな人家の集まりがあった。


「……先生って、もしかして記憶力がすごい?」

「うーん、どうなんでしょうか。本で読んだことだけはあまり忘れないかもしれません」

「で、でも地図は覚えていても、方角はどうやって?」

「それは星見の民と同じ力を使ったんです」

「まさか、先生って星見の民!?」

「ふふ、ナイショです」


 フェアトは、星見への興味を惹くためにワザと答えなかった。

 仕組みとしては至極単純。

 星弓修行の時に飽きるほど空を眺めていたので、星の位置から方角を割り出しただけなのだ。

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