憂しき日常のそのまた憂しきある日のこと
学園での日々にも慣れてきたある日、ジーニー・アッシュはいつも通り窓際の席で黄昏れていた。こうしているだけで周囲の人間が孤高の美少年だとか持て囃して、触れてこないから楽だった。あるいは嫌われているだけかもしれないが、その方が面倒な期待とかいう大荷物を背負うこともないぶん彼にとって楽なことだ。ただ確かなのは、そんなクラスで浮いているような彼が完全に浮ききっていないのは、フランベルジェがお得意の権謀術数という名前の重石でジーニーの立場をアッシュ伯爵家の子息という机の上に叩きつけているおかげだろう。ただそんな重石業者と彼との専業契約を解除しようとする人間が現れてしまったのは問題だろうが。
「ジーニー殿、6限目の体育の授業、手合わせ願ってもよいでござろうか?」こうやってジーニーに話しかける男は、筋肉質で肌が日焼けしていて、そのような人間にありがちな禿頭で、常に目を細めた、彼の平穏な学園生活の妨げになりうる生徒―フランベルジェを奪おうと目論む子爵子息、セサミ・プロティンであった。
「男の尊厳をかけた、厳粛たる勝負を行うのですぞ。」などと耳打ちするセサミは一見紳士的だが、例えばジーニーとフランベルジェがランチをしていると決まって相席をねだり、話をする際もジーニーに目もくれることなく―そうだとしてもやや軽蔑的にそうして―フランベルジェを眺めたり話をしていた。他にもこれはジーニーが窓際の最後列の席にいるからわかるのだが、セサミ・プロティンは授業中しばしば筆記用具を落とすふりをしてフランベルジェを見ていることがあった。人を好いた人間の瞳を向けていた。つまり、セサミ・プロティンは恋敵を打倒しようとしているということであった。「構いませんよ」ジーニーはその空しい宣戦布告に頷いた。やれどやらねど彼女が彼の婚約者であるという事実は変わらなかったが、自分の平穏を妨げる面倒くさい存在を排除せねばならないと彼は感じていた。
そうと決まれば、ジーニーはその脳細胞を駆動させ、いかにしてセサミ・プロティンを適当に、かつ本人にとっては決定的に凌駕した勝利を収める方法を考えるのみであった。そうこうして、微睡む昼下がりは更け、5限目開始の合図の鐘が鳴り響いた。