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98 闇堕ち令嬢、決意する

 おぞましい咆哮を上げる竜を前に、イグニスは不敵に笑う。


「あーあ、手のつけようもないくらい怒ってやがる。これはやべぇな」


 竜が光の玉を吐き出すと、イグニスが手にした鎌で切り裂いた。


「リリス、間違ってもこっちに来んじゃねぇぞ。足手まといだからね」

「でも……こんな化け物みたいなのに勝てるの!?」

「知らねぇよ。だからって放って逃げるわけにはいかないだろ。王子殿下、ちゃんとうちのお嬢様を抑えててくださいね~」


 その言葉に応えるように、リリスを抱きしめるオズフリートの腕の力が強くなる。

 更に彼が何事か呟くと、リリスの周囲に結界が現れた。

 その様子を見届け、イグニスは安心したように笑う。

 そして、鎌を手にして唸る竜に向き直った。


『愚かな低級悪魔が……。跡形もなく消し去ってくれるわ!』

「は? その前に消えるのはお前の方じゃね??」


 その言葉を皮切りに、竜となったレミリエルとイグニスは激しく交戦を始めた。

 リリスはあらためて、イグニスが悪魔だということを思い知らされた。

 だって、人間の動きじゃない。

 蛇のようにイグニスを喰い殺そうとするレミリエルに対し、イグニスはまるで羽でも生えているかのようにひらりひらりと躱していくのだ。


「あいつ……普段はぐーたら仕事サボってばっかりの癖に……!」


 普段だらだらしているばかりのイグニスとは思えないほど、俊敏な動きだ。

 やはり、普段のイグニスは手を抜いていたのだろう。

 帰ったら説教してやろうと、こんな状況にも関わらずリリスは燃え上がる。


 イグニスはレミリエルの隙をついて鎌で斬りかかった。

 竜の体が抉れ、中から光の粒があふれ出すが……すぐに傷口はふさがってしまう。


「ちっ、再生能力は残ってんのかよ……!」


 眉をしかめるイグニスに、レミリエルは嘲るように笑う。

 かと思うと、いくつもの光の玉を吐き出した。

 そのうちの一つがリリスたちの方へ飛んできて、オズフリートが守るようにリリスを抱き寄せる。


「ぐっ……!」


 結界がある程度は攻撃を防いでくれたようだが、防ぎきれなかった光の玉の余波がオズフリートに命中する。


「オズ様!?」

「大、丈夫……。僕には王族の血が流れてるから、ある程度は耐性があるんだ……」


 それでも、オズフリートは胸を抑え苦しそうにしている。

 王族の血を継ぐ者は特異な素質を持っているということは、リリスも父から聞いて知っていた。

 だがそのオズフリートでもここまで苦しむのだ。

 何の耐性も持たないリリスがレミリエルの攻撃をまともに浴びれば、ひとたまりもないだろう。

 ましてや、天使の天敵の悪魔であるイグニスは――。


 ――そうだ、イグニス……!


 慌ててイグニスの方へ視線を遣り、リリスは愕然とした。

 レミリエルの攻撃が礼拝堂の床を破壊し、土ぼこりが舞い上がっている。

 その中に、イグニスは倒れていた。


「イグニス!」


 リリスが呼びかけても、イグニスは動かない。

 そんなイグニスを見下ろして、レミリエルは嘲るように笑う。


『弱い弱い。ただでさえ弱いのに、人間に力を貸し与えたりするからこうなるのだ。愚かな悪魔め』


 その言葉に、リリスはひゅっと息を飲む。


 一周目の世界でイグニスと契約した時に、リリスは彼の力を借り受けた。

 無能と蔑まれたリリスが一瞬で大勢の人間を焼き尽くすほどの絶大な魔力だ。

 リリスが死に、時間が巻き戻る過程でその魔力はどこかへ行ってしまったようだが……今でも、イグニスの元には戻っていない。


 ――私が、イグニスの力を奪ってるの……?


 悪魔は人の魂を喰らって強くなると、以前イグニスに聞いたことがある。

 だがリリスと契約して以来、おそらくイグニスは誰の魂も食べてはいない。

 リリスが……いつまでも願いを――復讐を、果たせなかったから。


 ――私のせいで、イグニスが……。


 時間が巻き戻って以来、イグニスはずっとリリスの傍に居てくれた。

 わがまま放題のリリスを文句ひとつ言わず……というわけにはいかず、文句たらたらだったが面倒を見てくれたのだ。

 そのせいで、彼は悪魔としての力を回復できなかった。

 だから、レミリエルに殺されてしまう。


 ――そんなの、絶対に嫌っ……!


 自分でも何故そうしようと思ったのかわからない。

 自己犠牲なんてくだらない。

 どんな手を使ってでも生き残ってこその勝利だと、思っていたはずなのに。


「ごめんなさい、オズ様」

「リリス、待っ――!」


 引き止めようとしたオズフリートを振り払い、リリスはイグニスの元へと駆け寄った。

 すぐに殺されるかと思ったが、レミリエルはただ羽虫をいたぶるように笑うだけだ。

 倒れ伏すイグニスの体を助け起こそうとすると、彼は必死な形相でこちらを睨む。


「馬鹿、何やってんだよ! すぐに王子の元に戻れ!」


 その言葉に、リリスは静かに首を横に振る。

 どうせここでオズフリートの背後に隠れていても、イグニスが死ねばリリスも殺される。

 それは悔しかった。せめて、レミリエルに一矢報いてやりたい。

 だから……。


「イグニス……。私の魂、食べていいよ」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] よく考えたら次で100話目 [一言] リリスの魂をイグニスが食べたら パターン1 倒した後オズフリートが狂って闇堕ちしてイグニスとリリスを同一視してBL展開に パターン2 倒した後リ…
[一言] 2周目でも復讐を果たせなかったので、闇堕ち3人組は3周目こそ絶対諦めない が間もなく開始されます
[一言] リリスの魂を食べる、だと……? レミリエルに勝ったとしてもイグニスその後でオズ様に殺されちゃう…… そしてオズ様は闇堕ち、誰も幸せになれなーい! 打開策はないのか!? そろそろアンネの出番…
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