表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/133

97 天使の断末魔

「あらあら、野蛮ですこと」


 レミリエルは余裕な態度を崩さない。

 その様子が、ますますリリスを苛立たせた。


「やはりあなたは存在するべきではない。大丈夫、痛みを感じる暇もなく消して差し上げましょう」


 レミリエルがしなやかな動きで腕を振り上げる。

 その途端、レミリエルの周囲にいくつもの光の矢が出現した。

 イグニスがリリスを守るように背後に庇った。

 すると、その様子を見たオズフリートが儀礼剣を抜いたのだ。


「イグニス、リリスを頼めるかな」

「いいですけど、あんたは……」

「ずっと、この日の為に鍛えてきたんだ。こいつとは、僕が決着をつけたい」


 その声には、ただならぬ気迫が籠っていた。


「オズ様っ……!」


 何故だか彼が消えてしまうような気がして、リリスはとっさに呼びかける。

 すると、リリスの方を振り返ったオズフリートはいつものように優しく笑った。


「……大丈夫だよ、リリス。今度こそ、絶対に君を守って見せる。だから……全部終わったら、いっぱい話そう」


 その言葉を聞いた途端、胸がいっぱいになって何も言えなくなってしまう。

 頭の中で、何かが繋がりそうで繋がらない。

 今すぐ彼の傍に駆け寄りたい。

 でも、それはできない。レミリエルが人を超越した存在だというのは、リリスもしっかりと本能で感じ取っている。

 今リリスがオズフリートの傍に行ったところで、何もできない。ただ足手まといになるだけだ。

 だから、ただひたすらに想いをこめて呼びかけた。


「…………ご武運を」


 オズフリートは驚いたように目を見張り、そして、嬉しそうに笑った。


「ありがとう、リリス」


 オズフリートは再びレミリエルの方へ向き直る。

 レミリエルはその様子を見て、慈母のように優しい笑みを浮かべた。


「最後のお別れは済ませましたか?」

「律義に待っていてくれるなんて余裕だね」

「またあんなことを繰り返されてはたまりませんから。心残りのないように便宜を図ったまでです」


 レミリエルが発射の合図をするかのように、頭上に上げた手を勢いよく振り下ろした。

 その途端、いくつもの光の矢がリリス目掛けて飛来する。


 オズフリートは襲い来る光の矢をはたき落すように剣を振るいながら、レミリエルに向かって突進していく。

 彼が落とし損ねた矢がリリスの方へ向かってくるが、いつの間にか巨大な鎌を手にしたイグニスが、まるで羽虫を潰すかのように容易く叩き落していた。


「っ……往生際の悪い!」


 苛立ったレミリエルが巨大な光の刃を生み出し、リリスに向かって放つ。

 だがオズフリートはその刃すらも切り裂くと、レミリエルの目前へと迫った。

 その途端に、余裕の笑みを浮かべていたレミリエルの表情が焦燥に歪む。


「待って! オズフ――」

「消えろ」


 言葉の途中で、オズフリートが儀礼剣を振るい容赦なくレミリエルの体を切り裂いた。

 レミリエルは苦痛の表情を浮かべたかと思うと……次の瞬間には彼女の体全体が光の粒へと変わり、すぐに霧散した。

 リリスは信じられない思いで、その光景を見守る。


 これで……終わったのだろうか。

 高位天使の、あまりにもあっけない最期だった。


「……レミリエルは消えた。もういない。もういないんだ」


 まるで自分に言い聞かせるように、オズフリートはぶつぶつとそう呟いている。


「オズ様……」


 おそるおそるイグニスの背後から足を踏み出し、リリスは俯く彼に一歩一歩近づいていく。


「リリス……レミリエルは、もういないんだ」

「そう、ですね」

「これで、これでやっと……」


 オズフリートは何故だか泣きそうな顔をしていた。

 そんな彼を放っておけなくて、リリスはまた一歩足を踏み出し近づく。

 そして、そっと手を伸ばし彼の頬へ触れようとした瞬間――


「っ――!」


 耳をつんざくような獣の咆哮が、旧礼拝堂にこだまする。

 衝撃で、朽ちかけたステンドグラスがびりびりと戦慄(わなな)くほどだった。


「な、なに……?」


 戸惑うリリスを、オズフリートがそっと抱き寄せる。

 彼の視線の先で、ふわふわと空中を漂っていた光の粒がまた一つに集まっていく。


「うわ……これはやべぇな」


 舌打ちしたイグニスが、苦々し気にそう呟いた。

 ぴりぴりとあたりの空気が張り詰めていく。

 先ほどレミリエルがいた時の比ではない。

 もっと、恐ろしいものが顕現しかけていると嫌でもわかってしまう。


「……王子殿下、リリスを連れて下がっていてください」

「ちょっとイグニス、何を――」

「いいから大人しくしてろ。これは……お前ら人間の手に負えるレベルの奴じゃない」


 今までにないほど真剣な表情をしたイグニスが、二人を庇うように前に出る。

 それと同時に、恐ろしい咆哮を響かせながらそれは姿を現した。


「暴走した死にかけの天使だ。ざまぁねぇな」


 ――白銀色の鱗を持つ、美しくも恐ろしいドラゴン。


 現れた怪物に、リリスは無意識に傍らのオズフリートにしがみついてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レミリエルがどこまでも怖い!!!
[一言] ドラゴン……素材がザックザク!
[良い点] オズフリートが一矢報いることができてよかったですが、ドラゴンになるとは…。 でもきっとイグニスが悪魔の意地を見せてくれるはず…! 活躍を楽しみにしてます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ