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6 王子と悪魔とお茶会と

 一周目の世界で、リリスは王妃になるためにオズフリートの婚約者に志願した。

 率直に言えば、オズフリート自体にそこまで興味があるわけではなかったのだ。

 彼の顔は好きだった。だが、オズフリートは優しく穏やか……と言えば聞こえはいいが、かなり優柔不断な性格の人間だった。

「苛烈な炎のよう」と称されるリリスとは真逆とも言ってもよいだろう。

 彼のなよなよした部分に、リリスはよくイライラさせられたものである。


 だが、今目の前にいる彼はどこか違う……ような気がする。

 オズフリートは柔らかな笑みをたたえたまま、リリスの背後に控えるイグニスに視線をやった。


「そういえば、イグニスはフローゼス家に仕えて長いのかい?」

「いいえ、つい最近奉公を始めたばかりですの」


 何気なくそう答えると、オズフリートはすっと目を細めた。


「へぇ……それにしては随分、リリスと打ち解けているんだね」


 疑うような言葉に、リリスはぶはっと紅茶を吐き出しそうになってしまう。

 しかし腐っても公爵令嬢。寸前で優雅に耐えることに成功した。


 ――まっ、まさかイグニスの正体に気づいてる……? いいえ、そんなわけないわ!


 イグニスは悪魔だが、完璧に人間に擬態している。

 いくら王族と言えど、見破られるはずはない……と思いたい。

 それに、悪魔と契約しているなんてバレたら、リリス自身もその場で処刑されてもおかしくはないのだ。

 グサッと胸を刺し貫かれる感覚を思い出し、背筋に悪寒が走った。


 ――どどど、どうしよう……。


 オズフリートは訝しむように、じっとイグニスを見つめている。常に穏やかな彼には珍しく、その視線はどこか冷たさすら感じられた。

 心なしか、その場の温度もひやりと冷たくなったような気がした。

 緊迫した空気に、リリスの心臓がバクバクと早鐘を打つ。


 ――まずいわまずいわ……! 何とか誤魔化さないと!!


 だらだらと冷や汗をかきながら、ああでもないこうでもないと、リリスは焦ってしまう。

 すると、やれやれと肩をすくめたイグニスがとんでもないことを言い出した。


「それはほら……俺はこの顔で、お嬢様は面食いですので」

「ちょっと! 何言ってんのよ!!」


 ――王族と貴族の会話に従者が勝手に割り込むなー! ていうか面食いって何よ! ……まぁ、事実だけど。


 しかも自分もイケメンの範疇に入ってるとか、自意識過剰すぎるのではないか。

 そんな思いを込めて反射的に怒鳴り返すと、その様子を見たオズフリートは驚いたように目を丸くした。


「……確かに、彼は今までにないタイプだね。そういう所が君のお気に召したのかな?」

「帰ったらすぐにでもクビにしてやりますわ!」


 ぎりぎりとイグニスを睨みながらそう口にすると、オズフリートは何がおかしいのかくすくすと笑い出した。

 まったく、王族の笑いのツボは理解不能だわ……と、リリスは小さくため息をつく。


「……僕の婚約者を頼むよ、イグニス」


 真っすぐにイグニスを見つめて、オズフリートはそう口にした。

 その言葉に、一瞬イグニスの動きが止まる。

 だが、不審に思ったリリスが声をかける前に、イグニスは恭しく礼をとった。


「…………はい、お任せください、殿下」


 ――なーにが「お任せください」よ! 何の力もない役立たず悪魔の癖に!!


 イライラした心を落ち着かせようと、リリスは砂糖をたっぷり溶かした紅茶を喉に流し込んだ。

 オズフリートとイグニスは先ほどの緊迫した空気が嘘のように、穏やかに言葉を交わしている。

 よくわからないが、ひとまず窮地は脱出できたようだ。今はそれで良しとしよう。



 ◇◇◇



「はぁ……三年くらい寿命が縮んだ気がするわ」


 何とか公爵邸に帰りつき、リリスは自室のベッドに突っ伏した。

 悪魔と契約していることがバレる……ような事態にはならず、穏やかにオズフリートに見送られ王城から帰還することができた。

 しかし今のオズフリートはどこか油断ならない気がする。

 彼の傍に居ると、心臓が縮み上がりそうになってしまうのだ。


「そういえばお嬢様、王子の弱点はわかりましたか?」

「あ」


 いかんいかん。今日は婚約者の弱点を探るために王城に行ったというのに、普通にお茶を飲んだだけで逃げ帰ってきてしまった。

 リリスはすっかり、当初の目的を失念していたのである。

 失態を誤魔化そうと、リリスは余裕ぶって口元に優雅な笑みを浮かべてみせる。


「……コホン、功を焦りすぎるのはよくないわ。今日はまだ序の口よ。じっくりじわじわ追い詰めて、最後は一息に狩ってやるんだから」

「あの王子にビビってぶるぶる震えてた割には偉そうなこと言いますね」

「なぁんですってぇぇ!!?」


 怒りのあまり手元のクッションを投げつけたが、イグニスには華麗に避けられてしまった。


「役立たずの癖に偉そうに! そこに直りなさい! そのねじ曲がった根性を叩きなおしてやるわ!!」


 逃げ出したイグニスを追いかけるリリスの怒声は、公爵邸中に響き渡り使用人たちを怯えさせたのだった。

漢字が多すぎて読みづらい気がしたので、作品タイトルを変更しました。

なかなかしっくりくるタイトルを考えるのは難しいですね…。

また変更する可能性もありますので、見失わないようにブクマしていただけると有難いです!

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― 新着の感想 ―
[一言] リリス、そんなこと言ってたら、SMものの原案にされちゃうぞ……?(私にそっち系の趣味はもちろんありませんが)
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