表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/133

61 ファーストダンス

 国王夫妻への謁見が終われば、いよいよ舞踏会の開幕だ。

 第一王子の婚約者であるリリスは、彼と共にファーストダンスを務めることになっている。


 ――大丈夫、大丈夫……。散々イグニスを付き合わせて練習したんだもの!


 一周目の時にみっともなく転んでしまった記憶が、振り払っても振り払っても纏わりついてくる。

 リリスは嫌な気分になりながらも、オズフリートにエスコートされるままフロアの中央へと進み出る。

 ゆっくりと音楽が奏でられ、リリスは嫌な汗をかきつつもぎこちなくステップを踏んでいく。

 努力嫌いなリリスからすれば、信じられないほど練習を重ねたのだ。

 必要な動きは体に染みついている……と思いたい。


 さすがに物凄く緊張しているのは、ダンスの相手であるオズフリートには気づかれてしまった。


「……大丈夫?」

「なっ、何がです!?」

「すごく、緊張が伝わってくる」


 彼がそう告げた途端、動揺からかステップが乱れてしまう。

 途端に、リリスはバランスを崩してしまった。


 ――嘘、転ぶっ……!


 世界の音が消えて、全ての動きがスローモーションに感じられる。

 あぁ、嫌だ。またみんなに笑われて、馬鹿にされて……。

 聖女が現れたら、それ見たことか、お前なんて最初からいらなかったんだとすべてを奪われて……。


 リリスはなすすべもなく、自身の体がみっともなく床に打ち付けられる瞬間を待っていた。

 だが、オズフリートが焦ったようにこちらに手を伸ばしたかと思うと……リリスの体は、軽々と彼に抱えあげられていたのだ。


「っ……!!?」


 ふわり、とリリスの体を持ち上げたかと思うと、オズフリートは音楽に乗るように自然な動きで、再び床へと降ろしてくれた。

 見守っていた観衆から歓声が上がる。

 彼らはリリスが転びかけたことになど気づいてはおらず、ダンスの最中のパフォーマンスとしか思っていないようだ。


「ほら、続きを」


 オズフリートに促され、リリスは慌てて曲に合わせるようにしてステップを踏む。

 だが段々じわじわと恥ずかしさが押し寄せ……正面から彼の顔が見られない。


「……重かったでしょう」

「そんなことはないよ、リリスは軽いんだね。何か運動でもやってる?」

「カラテを少々……」


 小声でそう告げると、オズフリートはくすりと笑う。


「面白そうだね。今度僕にも教えてもらえるかな?」


 真面目にそんなことを言われ、リリスは思わず笑ってしまった。

 その反応を見て、オズフリートがそっと耳元に口を寄せる。


「やっぱり、君は笑顔が一番だ。ほら、笑ってリリス」


 以前だったら、その言葉に反発したくなっただろう。

 だが今は……何故だかリリスは、素直に笑顔を浮かべることができた。


 息を合わせ、彼と共にステップを踏む。

 二人の距離が近づいた途端、オズフリートはまたしても軽々とリリスの体を持ち上げた。


「はひっ!?」

「大丈夫、落としたりしないよ」


 そういう問題じゃないんです!……と口にした言葉は、歓声に掻き消されてしまう。

 リリスの血のにじむような練習のおかげか、オズフリートがうまくフォローしてくれたおかげか……二人は、無事にファーストダンスを終えることができたのだ。


 向かい合って一礼すると、星夜の間は爆発的な歓声に包まれる。

 リリスがそんな周囲の反応に驚いていると、他のデビュタントたちがパートナーと共にダンスフロアへと進み出てきた。


「ほら、もう一曲。踊ろう?」


 オズフリートが差し出した手を取り、リリスは心の中で言い訳を繰り返す。


 ――別に……もう一曲踊りたかったわけじゃないわ! ここで断ったら周りに変に思われるもの!!


 再び曲が奏でられ始め、リリスは再び彼と共にダンスへと身を投じた。

 一曲、二曲、三曲……周囲は次々とパートナーを変えていくのに、オズフリートは決してリリスの手を放そうとしなかった。


「あっ、ギデオンがレイチェルを誘ってます! あのヘタレ、ついにそこまで成長したのね……」

「リリス、ここは静かに見守ろう」


 今日のギデオンはフリーだ。事前情報とは違い、どこぞの伯爵令嬢をエスコートするような真似はしなかったようである。

 そのことに安心したのか、はたまた特に何も思ってはいないのか、レイチェルも彼の誘いを了承したようだ。


 もはや自分が転ぶかということよりもレイチェルたちのほうへ意識が向いているリリスを、オズフリートは難なくリードしてくれる。

 やがて曲が終わると、オズフリートがそっと耳元で囁いた。


「たくさん踊って疲れたね、少し休憩しないかい?」

「はい、私もさすがにへとへとで……」


 普段からカラテで鍛えているリリスであっても、何曲も続けて踊るのは重労働だ。

 まだダンスの高揚感が残ったまま、リリスはオズフリートに連れられるままふわふわした足取りで進んでいく。

 あ、まずい……と気が付いたのは、彼とバルコニーで二人っきりになってからだ。


 ――どうする? どうする?? ここで突き落とされたら終わりよ!!


 忘れていた危機感が戻ってくる。

 だがリリスが振り返ろうとした瞬間、背後からオズフリートに抱きしめられてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あまーい!
[良い点] なんだかいい雰囲気になってますね!最後、いいところで…! リリスも流石にもう自分の気持ちが殺意じゃないって気付いてますよね…? ギデオンも応援しつつ、次回を楽しみにしてます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ