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59 星のティアラ

 デビュタントの当日、着飾って現れたリリスにイグニスは目を丸くする。


「へぇ~、馬子にも衣装だな」

「ちょっとぉ、他の感想は無いの!?」


 リリスが身に着けているドレスは、伝統的なプリンセスラインのシルエットを意識しながらも、片側の肩が完全に露出した大胆なデザインとなっている。

 全体的に「左右非対称(アシンメトリー)」の装飾が数多くあしらわれ、見る者を楽しませるだろう。

 裾から胸元にかけて、眩い純白から深いスミレ色への鮮やかなグラデーションが描かれ、どこか無垢な少女から一人前の淑女への成長を思わせた。


 確かレイチェルは「婚約者の瞳の色をドレスに取り入れるのがトレンドなんです!」などと力説していたか。

 リリス自身は気づいているかどうかは謎だが……なるほど。胸元の濃いスミレ色はまさにオズフリートの目の色と同じだ。


 ――これが“匂わせ”ねぇ……。


 想像するに、主犯オズフリートがレイチェルを巻き込んで、リリスのドレスに己の存在を溶け込ませたのだろう。

 一人前の淑女となって公の場に現れたリリスが、既に誰のものであるのかを暗に示すために。

 あの王子もよくやるよな……と、イグニスは内心呆れ半分感心した。



 更に本日はいつもとは違い、リリスの形の良い頭の上には、星の装飾をあしらった金色のティアラが戴かれている。

 これは今日の日の為に、オズフリートから贈られたものである。

 リリスはティアラが気になるのか、何度もちらちらと鏡を覗きこんでいた。


「そういえばお前が出るようなパーティーの場で、ティアラをつけてる奴ってほとんどいないよな」

「当たり前じゃない。公の場でティアラを戴くことが許されるのは、結婚式当日の花嫁か、王族やその伴侶の女性と……王族の、婚約者だけって決まってるんだもの」


 少し頬を紅に染めながら、リリスはぽつぽつとそう口にする。

 その反応に、イグニスはおや、と目を丸くした。


「……で、お前は何でそんなに照れてるんだよ」

「照れてない! ただ……少し、不審に思ってるだけよ」

「不審?」

「えぇ、前回のデビュタントの時は……オズ様が私にティアラを贈るなんて出来事はなかったんだもの」


 ……なるほど。時間が巻き戻る前との王子の態度の変化に困惑……というよりも、単に照れているのだろう。


 この三年、オズフリートはひたすらリリスを大切にしていた。

 その砂糖を吐きそうなほど甘々な態度には、見ているイグニスの方が胸やけを起こしそうになるほどだ。

 リリスの方は「あれは罠よ! 私を油断させて陥れようとしてるんだわ!!」という態度を崩さないが……この様子を見ると、少しずつ彼の好意を受け入れかけているのかもしれない。


「『のれんに腕押し』かと思ったら、そうでもないのか」

「のれん? エキゾチックでいいわよね、あれ。うちの道場の入り口にも掲げようかしら。ついでにうどん屋も――」


 リリスの意識が別の方向へ引きずられかけていることに気づいたイグニスは、慌てて現実へと呼び戻した。


「そろそろ出発したほうがいいんじゃないのか? 晴れの日に遅刻なんて洒落にならないだろ」

「そうね……気は進まないけど、行きましょうか」


 そう言ってこちらを振り返ったリリスを見て、イグニスはにやりと笑う。

 今のリリスは、イグニスが初めて出会った頃のリリスに近づきつつある。

 リリスにとっても、イグニスにとっても、オズフリートにとっても……運命の時は近いのだろう。

 イグニスは恭しくリリスの前に跪いて、そっと手を差し出した。


「それでは参りましょうか、姫君。残念ながらガラスの靴もカボチャの馬車もございませんが」

「そんなものは必要ないわ。私に必要なのは……確実に息を止める毒林檎。それだけよ」


 キメ顔でそう口にしたリリスを見て、「こいつのセンスも相変わらずだな……」とイグニスは苦笑したのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 匂わせ、つまりはマーキングだな( ˘ω˘ )
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