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37 闇堕ち令嬢、バースデーケーキに喜ぶ

 パーティー会場となっているフローゼス公爵邸の庭に集まった者たちは、皆一様に目を丸くして一点を見つめている。

 そこに鎮座していたのはリリスの身長よりも高い、超巨大バースデーケーキだったのだ。


「見て! この特製ケーキを!!」

「わぁ……!!」

「うぉっ!」


 レイチェルとギデオンの二人は、他の者たちと同じように驚き目を丸くしている。その様子に、リリスは満足げに胸を張った。


「ふふ……なんて言ってもこの私の誕生日ですもの。ケーキだってこのくらい大きくなきゃね!」


 そんな風にはしゃぐ三人の元に、目の下に隈を作ったイグニスが欠伸(あくび)を噛み殺しながらやって来た。


「はぁ……めっちゃ苦労したんですよ。これ作るのに……」


「とにかく、すっごく大きいケーキを作って!」という、とても精神年齢15歳+αとは思えないリクエストを受けて、厨房の使用人がやたらと張り切ってしまい出来たのがこれだ。

「大は小を兼ねるんだから、大きければ大きいほどいいの!」というよくわからない主張の元作られたケーキは、幸いなことにリリスのお気に召したようだ。


「入刀は私がすることに決まってるの! イグニス、踏み台の用意は?」

「やべっ、忘れてた」

「ふん、気が利かない使用人で困っちゃうわっ!」

「はいはい、お嬢様の仰せのままに」


 気の無い返事をして踏み台を取りに行ったイグニスの背中を目で追っていると、レイチェルがくすくすと笑っている。


「どうしたの、レイチェル?」

「いえ……こんなに立派なケーキを用意してもらえるなんて、リリス様は皆に愛されているのですね」

「え…………」


 ――そんなこと、ないと思うのだけど……。


 リリスは、自分が使用人たちから恐れられていることを知っている。

 だって、リリスは誇り高き公爵令嬢なのだ。使用人ごときに舐められることなどあってはならないと思い、普段から高圧的な態度を崩さなかった。

 だが、それでも……思い返せば最近は、少しずつ使用人から話しかけられる頻度も増えているような気がする。


 ――『お嬢様、こちら新作のお菓子を試作してみたんです。イグニスさんにお嬢様は甘い物が大好物だと聞いて……よろしければいかがですか?』


 あぁ、あの時食べた杏仁豆腐は、つるっとした食感が最高だった。

 あまりに美味しかったので素直にそう伝えると、メイドたちはやたらと喜んでいたような気がする。


 ――『お嬢様の始められたカラテなる武道、我がフローゼス家の私設騎士団の訓練メニューにも取り入れさせていただきました。やはり騎士たるもの、いかなる状況でも臨機応変に対応できなければ』


 そう言ってきたのは、騎士隊長だったか。

 今度本格的に屋敷内に道場を整備することを考えていると話すと、奇声を上げて狂喜していたっけ。


 他にも、思い返せばやたらと周りが構ってきているような気がする。

 そこまで考えて、リリスは困惑した。


 ――……え、大丈夫? 私舐められてない??


 困惑するリリスに、今度はギデオンが真面目腐った顔で口を出してきた。


「……お前は、目標に向かって突き進んでいるだろう。ひたむきな姿に、人は感銘を受けるものだ」

「それって……!」


 ――私がとにかく復讐を遂行しようとしている姿に、みんな畏怖しているってことかしら!!


「まぁ、まだお前には至らないところばかりだが、オズフリートに見合う妃になろうと努力するその姿勢は評価してやらんでもない」……などというギデオンの言葉は、もうまったくリリスの耳には入っていなかった。


 ――あははは! やっぱり私の選んだ道は正しかったのよ!!


 思い返せば死んで生き返り、復讐を始めてから、少しずつ運気が向いてきているような気がする。

 魂を込めて作りだした詩は正当に評価されたし、宿敵ギデオンの悔しがる顔は堪能できたし、レイチェルという姉妹もできた。


 ――このままいけば、きっと華麗に復讐を完遂させることができるわ!! いえ、でもまだ油断は禁物ね……。復讐しなければならない相手はたくさん残ってるし、何よりあの聖女とオズ様という強敵が控えているのよ!!


「……お褒め頂き感謝するわ。でも、私にはまだやらなければならないことがたくさんあるの。私なんてまだまだよ」


 これからも気を抜かずに復讐の道を往きます、と決意表明すると、レイチェルとギデオンははっと息を飲んだ。


「なんて謙虚で健気なのでしょう……! さすがはリリス様!!」

「ふっ、それでこそ俺のライバルだ。これからも共に高みを目指そうじゃないか」


 よくわからないが、二人はリリスの進む道を祝福してくれたようだ。

 晴れ渡った青空に、リリスのはつらつとした笑い声が響いた。


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