36 いつもと違うプレゼント
あっという間に時間は過ぎて、とうとう二度目の11歳の誕生日がやって来た。
いつもよりも早くぱっちりと目が覚めて、リリスはそわそわと起き上がる。
――ほ、本当なら私は15歳なのよ? 復讐の途中で誕生日に浮かれたりしたらおかしいわ! でも……。
こんなにワクワクした気分で誕生日を迎えるのは、もしかしたら初めてかもしれない。
イグニスにリクエストしたケーキはちゃんと用意されてるだろうか。
レイチェルはどんなプレゼントを考えてくれたのだろう。
そういえば、ギデオンの奴も何か剣ではないものをくれると言っていた。べっ、別に気になるわけじゃないけど。
――オズ様は……期待するだけ無駄ね。一周目の時は、すごく無難なプレゼントだったし……。
最後に彼から贈られたものは……確か当時の流行を押さえたドレスだった。
舞踏会に出れば、8割の女性は同じ型のものを身に着けているだろう……といった、これといって特色のない無難なドレスだ。
そんなドレスを着ていればその他大勢に埋没してしまう。王家からの頂きものなのだからせめて一度は袖を通した方が……と父に説得され、嫌々身に着けたのを今でも覚えている。
――他の年も、大体ドレスかアクセサリーとかの装飾品だったわ……。いかにも、金はかかってるけど愛情は籠ってませんって感じの!
別に、ドレスや装飾品を贈るのが悪いと言っているわけではない。
ただ、オズフリートはまったくリリスの好みを把握していなかった。
単に「世の女性はこういったものが好きなのだろう」という情報で、リリスのことなど考えもせずに選んだだけなのだ。
――どういうものが好きかって聞かれたこともなかったし、きっと……私のことなんて見てなかったのね! 知ってたけど!!
リリスは、オズフリートに好意を持っていたから彼の婚約者になったわけではない。
だが夫婦になるのだから、最低限の歩み寄りは必要だと思っていた。
彼の優柔不断な態度にイライラすることも多かったが、彼の為を思って怒りを抑えたことも数知れず。
リリスはリリスなりに、オズフリートに寄り添おうと努力していたのだ。
――なのにオズ様は全然私のことなんて見てないし……挙句の果てにはいきなり現れた聖女とやらと浮気だなんて、やっぱり許せない!
むぎゅうぅぅ……とベッドの上でクッションを抱きつぶしながら、リリスは唸った。
――もう……やめやめっ! パーティーの準備でも見てこよっと!!
わざわざ嫌なことを考えて嫌な気分になることもないだろう。
ぴょん、と起き上がり、リリスは寝間着のまま廊下へと飛び出した。
◇◇◇
パーティーの始まりの時間が近づき、続々と招待客がフローゼス公爵邸に集まってくる。
「リリス様、お誕生日おめでとうございます!」
「ま、まぁ……仕方ないから祝ってやらないこともないぞ」
満面の笑顔のレイチェルと、どこか照れた様子のギデオンがやって来たので、リリスは満面の笑みで二人を迎え入れた。
「リリス様、すごく迷ったんですけど……私からのプレゼントはこちらです」
「これってまさか……ネクロノミコン!? そんな、お父様でも目にしたことのない伝説の魔導書を実際に手にできるなんて……!」
「叔母が伝手を使って入手してくださったのです。ただ、取り扱いには十分注意するようにと」
「え、えぇ……わかったわ……!」
リリスはごくりと唾を飲み込んで、震える手で魔導書を受け取った。
レイチェルがリリスへのプレゼントに選んだのは、国によっては発禁処分にもなっているという、かなり過激な内容の魔導書だ。
邪神を召喚する方法などあまりに危険な内容が記されているため、市場にはほぼ出回っていないという超レアものなのである。
レイチェルの叔母様は何者なのかしら……と、リリスはかすかに身震いした。
――こっ、これがあれば……とんでもない復讐もできちゃうかも……!
「ありがとう、さすがは私の姉妹ね! レイチェル大好き!!」
溢れる想いのまま抱き着くと、レイチェルは顔を真っ赤に染めた。
「はわっ……! わっ、私もリリス様が大好きです!!」
ぎゅうぅぅ……と二人は固く抱き合った。
だが、その様子が気に入らないのか、そろそろ自分の存在を思い出してほしかったのか、必死な様子で間に割って入って来たギデオンによって引き離されてしまう。
「おい、仕方がないから俺もプレゼントを用意してやったぞ!」
「ふーん」
「もっと興味を持て!!」
真っ赤になったギデオンがぐい、と押し付けてきたプレゼントの箱を、リリスはそっと開いてみた。
「こ、これって……!」
「うちが贔屓にしている鍛冶屋に作らせた……特性のナックルだ」
そこに鎮座していたのは、銀色に光るナックルだった。
おそるおそる嵌めてみると、想像以上にリリスの手によく馴染む。
「お前は剣を使わず、自らの拳で戦うと言ったな。その心意気やよし。お前は俺のライバルなのだから、今以上に切磋琢磨するがいいさ」
「う、うん……よくわからないけどありがとう」
いつの間にギデオンのライバルになったのかしら……と思いつつも、リリスはナックルを嵌め、シュシュシュと拳で空を殴りつけた。
これはいい。いざという時は、これで思いっきり敵を殴りつけてやろう。
リリスはどこかぼぉっとした気分で、二人のくれたプレゼントを眺めた。
こんなに素敵なプレゼントを貰ったのは、きっと初めてだ。
――魔導書もナックルも……二人が私のことを考えて、選んでくれたのよね……!
そう考えると、嬉しさが爆発しそうになってしまう。
気を抜くとにやけそうになるのを何とか取り繕い、リリスは得意になって二人をパーティー会場へと案内した。




