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35 王子の心、闇堕ち令嬢は知らず

 リリスの二度目の11歳の誕生日が近づいてきている。

 この血塗られた復讐の運命の中で、誕生日を喜ぶような能天気な心は持ち合わせていない……と思っていたのだが、実際に近づいてくると存外ワクワクしてしまうのである。


「うふふ、この前はレイチェルに欲しいものを聞かれたの。レイチェルの選んだものなら何でも嬉しいって言ったら、ちょっと困ってたのよ。一緒にいたギデオンの奴は剣をくれるなんて言うから断っといたけど」


 残念ながらリリスは剣技を嗜んではいないし、一度目の死因となった武器は何となく怖いから遠ざけたい。

 率直に「私にはこの拳があるから剣はいらない」と伝えると、ギデオンは珍しく素直に退いていった。


「へぇ、あのお坊ちゃんも随分丸くなりましたね」

「今までが酷すぎたのよ。一周目の時はいつまでもあんな感じだったことを考えると……まぁ、多少は努力を認めてやってもいいかしら」


 やたらと上から目線でそう評するリリスに苦笑しつつ、イグニスは紅茶を淹れてやった。

 ティーカップを受け取り、ふわりと立ち上るベルガモットの香りにリリスは口元を緩める。


「で、あの王子様からは?」

「…………相変わらずよく城には呼ばれるけど、直接的に欲しいものを聞かれたことはないわ」


 うっかりそんなことを問いかけられたら、「あなたの命です」なんて答えてしまいそうで怖い。


「いえ、駄目よ。簡単に死んでしまっては私の気が済まないわ。もっとじっくりいたぶってやらなきゃいけないんだから……!」


 あの王子に迫られるとすぐ逃げる癖に、という言葉をイグニスは口に出す直前で飲み込んだ。

 偉そうなことを口にするリリスだが、意外と小心者な一面もあることをイグニスは知っている。

 それにしても……あの王子の態度は実に不可解だ。


「なぁ……もしかしてあの王子様、お前のこと好きなんじゃね?」

「は???」


 イグニスがそう口にした途端、リリスは目を吊り上げて不快感をあらわにした。


「そんなわけないじゃない! 私のこと好きなら何で私のこと捨てた上に殺すのよ!!」

「そういうシチュエーションに興奮するとか?」

「ひぇっ……想像させないで!!」

「お前も王子の殺害計画ばっかり練ってるし、案外お似合いかもな」

「うるさいうるさい!!」


 ぼすっとリリスの投げたクッションが頭に当たり、イグニスは眉をしかめた。

 リリスは残ったクッションをぎゅうぅと抱きしめながら、もごもごと何事か呟いている。


「私も……オズ様の態度については思う所があるの」

「どう見てもお前に激甘だもんな」

「激甘って何よ……。確かに、以前よりも接触が増えていることは否定しないわ。それで、私……気づいてしまったのよ」


 リリスは勢いよくクッションから顔を上げると、ひどく真剣な顔で言い放った。


「オズ様は私を挑発してるのよ! ああやって私の殺意を高めて高めて……襲い掛かったところを返り討ちにして、正当防衛を主張する気なんだわ!!」

「…………え」

「あぁ、なんて恐ろしいのかしら……。でも大丈夫、気づいたからにはそんな浅い手には引っかからないんだから!!」

「いや、もっとこう……単純に考えてだな」

「オズ様に近づくと、どうしても殺意が抑えられないの。ふふ、でも同じ手に二度も引っかかる私じゃないわ! 今度は完璧に計画を練って、何としてでも復讐を完遂してやるのよ!!」


 あはははは、と笑うリリスに、イグニスは苦笑するしかなかった。

 イグニスにもあの王子の真意はわからない。

 だがもし、彼が本当にリリスに好意を抱いていてあの態度なのだとしたら……なんと、哀れなのだろう。

 ある意味不憫な王子に同情しつつ、イグニスはリリスの誕生日に話を戻す。


「……で、お前の誕生パーティーだけど、ケーキと……あと料理はどんなのがいい? 厨房の奴らが腕によりをかけて作るって張り切ってた」

「うーん、そうね……!」


 いったいどんなケーキがいいだろうか、とリリスは腕を組んで思案した。


 ――そういえば、一周目の時はこんな風に考えたことなんてなかったっけ……。


 わざわざ口を出さなくとも、リリスの誕生日には最高級の料理やケーキが用意され、パーティーに招待された者たちは皆それぞれリリスに贈り物をくれた。

 だが……美味しいはずの料理は味気なかったし、贈り物なんて誰が何をくれたのかも覚えていない。

 どんな高級なものでも、それがリリスの為を思って差し出されたものではないとわかっていたからだ。


 ――私、みんなに嫌われてたし。……今も嫌われてるだろうけど。ただ王妃になる予定の私に尻尾を振っておきたかっただけなのよね!


 散々リリスをおだてていたくせに、旗色が悪くなるとあっさり裏切った者たちのことを思い出す。

 その途端に胸がむかむかして、リリスは心を落ち着けようと紅茶をがぶ飲みした。


「あー、なんか頭に来た! カラテで発散するわ!!」

「お、おう……。何でもいいから食いたいもん考えとけよ」

「わかった!!」


 こういう時は復讐相手ををボコボコにするイメージトレーニングを積むのが一番だ。

 イグニスが夜なべして作ってくれた胴着に着替えるために、リリスは勢いよく立ち上がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私にはこの拳があるから剣はいらない 武闘派かな?台詞かっこいい ギデオンもこれはビビる
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