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26 闇堕ち令嬢、積年の恨みを晴らす

 ギデオンの求婚を、レイチェルが断った?

 それはおかしい。一周目の世界で、確かに二人は婚約していたはずなのに!


「何それ、どういうことなのよ」

「白々しい。お前がそう仕向けたんだろう!?」

「はぁ?」


 悪いが、まったく心当たりがない。

 確かに、一度は二人の婚約を無茶苦茶にしようと考えた。

 だが、リリスは寸前で踏みとどまったのだ。


「意味が分からないわ」

「ふざけるな! 俺が求婚したら、レイチェルはなんと言ったと思う!?」

「さぁ……知らないわよ」


 予想もつかなかったので首を横に振ると、ギデオンは苦々しい表情で叫んだ。


「あいつは、王妃になったお前を近くで支えたいから……女官になりたいなどと言い出したんだ! そのためにもっと勉強しなければならないので、俺の求婚は受けられないと……」

「…………えっ」


 聞こえてきた言葉に、リリスは耳を疑った。


 ――レイチェルが女官に? そんな……。


「お前がそそのかしたんだろう!? 今すぐレイチェルを説得しろ!」


 ぎゃんぎゃんと叫ぶギデオンを、イグニスがまぁまぁと宥めている。

 だがリリスの耳には、もうギデオンの言葉は入ってこなかった。


 ――まさか……私の為に、ギデオンの求婚を断ったの……?


 王妃付きの女官は、高い教養が求められるハイレベルな役職だ。

 確かにギデオンと婚約すれば、女官になるための勉強よりも、花嫁修業の方に重点が置かれてしまうだろうが……。


 ――あのおとなしいレイチェルが、そこまではっきりギデオンの求婚を断るなんて……!


 それだけ、彼女は本気なのだろう。

 レイチェルは自分一人でそこまで大事な決断を強行するような人間ではない。

 おそらく彼女の決意は、リースリー侯爵家も納得の上なのだろう。

 そう考えた時、リリスの胸に湧き上がって来たのは……確かな歓喜だった。


 ――これって、レイチェルはギデオンより私を選んだってことなのよね? ギデオンはみっともなくレイチェルにフラれたってことなのよね??


 目の前のギデオンは、悔しそうに涙目でぎゃんぎゃんと喚いている。

 レイチェルに求婚を断られたことが、それだけショックだったのだろう。

 虚勢を張った子犬のようなギデオンの顔を見て……リリスの胸はこの上なくスカッとした。


 ――そうよ、この……こんな風に悔しがるギデオンの顔が見たかったの! あっけなくフラれてざまぁないわ!!


 今こそ、積年の恨みを晴らす時なのだ。

 リリスは最大限に憎たらしい嘲笑を浮かべて、全力でギデオンを煽ることにした。


「あらぁ、意中の女の子にフラれたからって八つ当たり? みっともないわね!」

「なんだと!?」

「残念ですけど、私はレイチェルに一度たりとも『私の女官になりなさい』なんて言った覚えはないわ。つまり――」


 青ざめるギデオンを見下すように、リリスは一息に告げる。


「私とあなたを天秤にかけて、レイチェルは私を選んだ! あなたはただ単に魅力のない男だからフラれただけなのよ!!」

「だ、黙れっ……」

「あはは、なぁにその顔! 情けなさすぎて笑っちゃうわ!! そりゃあレイチェルだって私の女官になる道を選ぶわよ。あなたみたいに家柄だけで性格最悪な男の妻になるなんて、冗談じゃないもの!」

「くっ……」

「何かあるたびにすぐに怒鳴り散らして……ちゃんとカルシウム取ってるぅ? 今日なんてアポなしでいきなり人の屋敷にやって来るなんて、本当に公爵令息たる品性の欠片も感じられないわ!」

「やめろ……」

「ねぇねぇ。求婚に失敗して、今どんな気持ち??」

「お嬢様、そのあたりでやめましょう。既にギデオン様はオーバーキル状態です」


 イグニスにそう止められ、リリスはふぅ、と勝利の吐息を漏らした。

 ギデオンはか弱い乙女のように床に崩れ落ち、しくしくと泣いている。


「くそくそっ! お前のような地雷女にレイチェルを奪われるなんて……」


 最高の気分で仇敵の無様な姿を眺めていたリリスは、その言葉にふと思案する。


 ――ギデオンは、ただ単に『婚約者を奪われた』ってことが悔しいのかしら。それとも、その相手がレイチェルだから……?


「ねぇ、あなたレイチェルのことが好きなの?」


 何気なくそう問いかけると、ギデオンはキッと泣きはらした顔を上げた。


「だったら何だ、悪いか!?」

「いえ、別に……。というかそこは素直に認めるのね」

「お前に俺の気持ちがわかるか!? 俺はずっと小さい頃からレイチェルのことを良く知ってる! それなのに、たった数か月の付き合いのお前を選ぶなんて……」

「あらあら、そんなに時間があったのにレイチェルを振り向かせられなかったなんて……ますます惨めね」

「くそぉ……」


 ギデオンはまたしてもべそべそ泣き始めてしまった。

 そこまで悲しむほど……彼はレイチェルのことが好きだったのだろう。


 ――……意外ね、一周目はそんなイメージなかったのに。


 リリスの知る一周目のギデオンは、お世辞にもレイチェルのことを大切にしているようには見えなかった。

 そんなに好きなら、平時からもっとレイチェルに優しくしてやればよかったものを。

 逃げられてから本気を出すなんて、底抜けの馬鹿だとしか言いようがない。


「あなたのことだから、どうせ亭主関白ぶってろくにレイチェルに優しくしたりはしてなかったんでしょ」

「うっ……」

「そういう慢心した態度が、今回の事態を招いたのよ。というか、いつまでそうしてるつもり? はっきり言って邪魔なのだけど」

「お前……血も涙もない女だな……」

「私に文句を言ったってレイチェルは帰ってこないわよ。今までの行いを反省して、自分を見つめなおしたらどうなの?」

「…………」


 遂にギデオンは俯いて黙り込んでしまった。しかし、その場からは動こうとしない。

 イグニスに命じて強制排除させようかしら……と考えた時だった。

 足音が聞こえたかと思うと、開け放されたままだった扉から使用人が顔をのぞかせる。


「お嬢様、リースリー侯爵令嬢がお見えです」

「あら」

「なにっ!?」


 とっさに扉の方へ振り向いたリリスとギデオンの視線の先に、レイチェルがひょっこりと姿を現した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロローグを改めて読み直すと、今回のギデオンも含めて、リリスのポンコツ復讐劇が周囲の歪さを矯正していった結果なのかな?と思ったり。復讐劇というより成長劇のようで、読んでいて楽しいです。 …
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