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25 恥ずかしい秘密

「極秘情報ですが……明日、ギデオン様がレイチェル嬢に求婚なさるそうです」

「…………そう」


 イグニスがかしこまって告げた内容に、リリスは復讐計画をノートに記す手を止めた。


 ここセレスティア王国では、いくら家同士の決めた婚約といえど、男性が女性に自ら求婚するのが習わしとなっている。

 リリスも婚約の際には、跪いたオズフリートに「私の妻になっていただけますか」との求婚を受けていた。

 きっとギデオンの奴も気取って薔薇の花束などを用意して、レイチェルに求婚を申し込むのだろう。


「なら、婚約祝いを用意しなきゃね。何がいいかしら」

「あれ、意外とあっさり受け入れるんですね。てっきり『気に入らないから邪魔しに行くわ!』くらい言うと思ったんですけど」

「そりゃあ、そうしたいのはやまやまだけど! レイチェルは私の姉妹だもの!! 邪魔なんてできないわよ……」


 ギデオンはそれはそれはムカつく奴だが、家柄だけは確かだ。

 彼の婚約者となれば、ある程度レイチェルの立場は保証される。

 リリスはレイチェルの幸せを願っている。悔しいが、ギデオンとの婚約がレイチェルにとって有利に働くのは間違いがないのだ。


「でも、浮気なんてしたら絶対に許さないわ! 中傷のビラを作って王都中に撒いてやるんだから!!」


『許すまじ公爵令息、不誠実な密会愛か!?』などと、ガリガリと大雑把に中傷ビラの案を書きだし始めたリリスを見て、イグニスはやれやれと肩をすくめた。



 ◇◇◇



 その翌々日、リリスは朝からいつものように復讐計画を練っていた。


「あの伯爵……自分の娘を私の代わりに王太子妃にしたいからって、私が今でもおねしょしてるなんていう不名誉な噂をばらまいてるのよ! この前甲冑の中に隠れてる時にばっちり聞いたんだから!!」

「あらら、そりゃあお気の毒に。で、真偽のほどは?」

「してるわけないじゃない! ……歳で卒業したわ!!」


 肝心の年齢の部分だけ小声になったのは、もしかしたら後ろめたい事実があったのかもしれない。

 イグニスは微笑ましい気分で熱くなるリリスを見守った。


「復讐決定よ! 確かあの伯爵、ヅラなのよね。皆の目の前でひっぺがしてやるのはどうかしら」

「お前、よくそんな恐ろしいこと思いつくよな……」

「そういえばイグニス、あなたも最近おでこが広くなったような――」

「やめろ! そういうのほんとに気になるからやめろ!!」


 そんな風に言い合っていると、にわかに屋敷の玄関あたりが騒がしくなった。

 どうやら、来客があったようだ。


「誰かしら。今日はお父様もいないのに」

「押し売り訪問販売とかじゃねーの。お前よく怪しい呪いの人形とか買ってるだろ」

「そう、あれ全然効かないのよ。上手くいってれば今頃ギデオンの髪という髪が抜け落ちているはずなのに……」

「……お前、よく友達の旦那になる奴をハゲさせようと思ったな」


 などと話しているうちに、どたどたと廊下を走る音が聞こえた。

 耳をすませば、「お待ちください!」という制止するような使用人たちの声も聞こえる。


「……本当に何?」

「下がってろ、こんな白昼堂々、正面から暗殺に来るような馬鹿はいないと思いたいが――」


 イグニスが警戒するようにリリスの前に立つ。その直後、大きな音を立てて私室の扉が開け放された。

 その向こうに立っていたのは、まさにリリスが脱毛の呪いをかけた貴公子――ギデオン・シュルツだったのだ。


「リリス・フローゼス! どういうことだ、説明しろ!!」


 突然現れた彼は、まさしく怒り心頭といった状態だった。

 まさかの人物の登場に、リリスは蜂蜜色の瞳を大きく見開く。


「いやいや、いきなりやって来て説明しろはないでしょう。不法侵入ですよ」

「黙れ! 俺は後ろの女に用があるんだ!!」


 ギャンギャンとイグニスに噛みつくギデオンを見て、リリスはピンと来た。

 もしや、彼がこうしてやって来たのは――。


 ――脱毛の呪いが、効いたんじゃない!?


 途端に嬉しくなって、リリスはイグニスの制止も無視してギデオンに近づく。

 そして、思いっきり彼の髪の毛を引っ張ってやった。


「痛えぇぇぇ!!」

「あれ、取れない? ヅラじゃないの??」

「何を訳の分からないことを言っている!!?」


 残念ながら、ギデオンの髪の毛は今日も変わらずふさふさだった。

 どうやら脱毛の呪いが効いたわけではないようだ。


「じゃあ何しに来たのよ。私は今忙しいのだから――」

「とぼけるな! レイチェルのことだ!!」


 ギデオンの口から飛び出した名前に、リリスははっとした。

 そうだ。ちょうど昨日、彼はレイチェルに求婚し婚約を結んだはずだ。

 その報告にでもやって来たのだろうか。どうせならギデオンではなく、レイチェルの口から聞きたかったのだが。


「そういえば、あなたレイチェルと婚約したんですってね。一応お祝いの言葉でも――」

「違う」

「えっ?」


 首をかしげるリリスの前で、ギデオンは真っ赤になって叫んだ。


「求婚を断られたんだ! お前のせいでな!!」


 数秒のタイムラグの後……リリスはやっと彼の言葉の意味を理解した。

 そして、叫んだ。


「ええぇぇぇぇ!!?」


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